Yahoo!ニュース

発売から1023年。応仁の乱で人々を救った、京都・今宮神社参道の「あぶり餅」

赤坂美附和菓子ソムリエ

あぶり餅と出会ったのは25年前。

白味噌が食べ馴れなかった札幌出身の私でしたが、京都の友達から「とにかく、だまされたと思って食べてみなはれや」と勧められ、半信半疑で食べて以来四半世紀、すっかり虜です。

あぶり餅は1皿13本で600円、軽く2皿は食べられます。そして、美味しいだけでなく「厄除け菓子」とも言われているのです。

その由来は、疫病に悩まされた平安時代。

京の都の悪疫退散を祈る「紫野御霊会」という祭事を今宮神社が取り仕切ったところ、疫病が退散。奉納したお餅を使ったあぶり餅を参拝者へ振舞ったことから ‷食べるお守り″ として親しまれるようになったそうです。

あぶり餅の焼き風景
あぶり餅の焼き風景

お店の軒先では、炭焼きの香りを漂わせながら、熟練さんたちが手早くあぶり餅を作っています。

きな粉をまぶしたお餅を親指ぐらいの大きさにちぎり、竹串につけて備長炭であぶり焼き、香ばしいおこげが付いたところで、特製の白味噌タレをまとわせる。甘さと香ばしさを兼ね備えた、焼き立ての柔らかなあぶり餅は格別です。

本家かざりやさん あぶり餅
本家かざりやさん あぶり餅

あぶり餅のお店は、今宮神社参道を挟み「元祖」と「本家」の2軒。

同じお餅に見えても、作る人が違えば味わいも違いますから、どちらが美味しいか?などと悩む時間は勿体ない。私のお勧めは 〝2軒はしご″ です。

元祖「一文字屋和輔」、通称「一和」さんは、本家に比べお餅のコシが強く、おこげの風味は強め。塩気の効いたタレなので、ぬれ煎餅に近いような味わいです。

そして、本家「かざりや」さんは、お餅がふわっと膨らみ柔らかく、お餅の旨味を感じます、ちょっと甘めの白味噌タレと、お餅のおこげ相まって、穏やかな味わい。

向かい合うお店は、どちらもに賑わっています。
京都に行かれる際は北の方まで足を延ばして、美味しい厄除け菓子、楽しんでみてはいかがでしょうか。

本家かざりやさんの、格子越しに元祖一和さん
本家かざりやさんの、格子越しに元祖一和さん

【今宮神社とあぶり餅】

あぶり餅の発祥は、元祖一和さんの創業者が当時、京都北区にあった香隆寺名物のかき餅を、悪疫退散の祭事で奉納し、そのお下がりを竹串に刺して焼き、参拝者が食べたことが始まりです。

元祖一和さんの創業は西暦1000年(長保2年)
奈良から京都へ都が移ったのが794年、平安時代が始まりった206年後に創業した和菓子屋さんで、日本で最も古い和菓子屋さんと言われています。

あぶり餅の暖簾
あぶり餅の暖簾

応仁の乱では、栄養価の高いもち米で作られた一和さんのあぶり餅が人々を飢餓から救い、千利休が元祖一和さんのあぶり餅を茶会で使ったという、日本史の教科書の絵が浮かぶ逸話の数々のお店は、現在25代目。

創業から1023年にして25代となると、誰かが相当長く勤めたことになりますが、そうではなく、確認できるのが25代前からなのだとか。

小雨の今宮神社参道
小雨の今宮神社参道

元祖一和さんの創業から600年ほど過ぎた江戸時代、1637年、本家かざりやさんが創業。趣のある京町屋づくりのお店は築450年ほどになります。

奥の庭には竹筒から石の器に水が静かに流れる「水琴窟」(すいきんくつ)があり、雨の日にはとても趣があります。鬼平犯科帳の作家「池波正太郎」が今宮神社参拝後にいつも「かざりや」のあぶり餅を楽しんだそうですよ。

本家かざりや さんの店内
本家かざりや さんの店内

元祖一和さんが今年で創業から1023年。
本家かざりやさんは、創業から386年。

どちらも、あぶり餅のみで営業を続けています。1品で数百年の商いを続けるという、類まれなる歴史には思いをはせずにいられません。

たとえば化粧品で「コレ1つだけ使っていれば大丈夫!」という商品を使い続けると「もっと効果を出すには、こちらの商品を」と、追加の商品を進められることがあります。それは、人間は基本的に飽き性なので、お客様が飽きないようにという戦略の一つです。

あぶり餅にはどんな戦略があったのか?

と考えるならば、今宮神社は、日本一のシンデレラガール「桂昌院」ゆかりの神社で、縁結びや玉の輿祈願でも有名です。

京都は関西圏の日帰りのお出かけスポット。初めてのデートが京都という人も多く、1皿600円のあぶり餅は、学生の初デートで背伸びすることなく気楽に楽める場所でもあります。

元祖一和さんの あぶり餅
元祖一和さんの あぶり餅

あぶり餅には、そこにしかない個性的な味と共に、人々が人生の様々なタイミングで今宮神社を訪れた思い出があり、再び訪れて食べたいと思う理由が、色々と備わっているのかもしれません。

1000年以上続く今宮神社参道銘菓「あぶり餅」
それは、ただ美味しいだけではない、ビジネスのヒントも頂ける和菓子のように思います。

まもなく猛暑も終わり。紅葉の秋には、ちょっと京都の北の方まで足を延ばして、今宮神社の「あぶり餅」を味わいたい、和菓子ソムリエ赤坂美附です。


◎紫野 今宮神社(WEBサイト)
京都府京都市北区紫野今宮町21

◎元祖 一文字和輔(一和):参道の南側
京都府京都市北区紫野今宮町96 |定休日:水曜日

◎本家 かざりや:参道の北側
京都府京都市北区紫野今宮町96|定休日:水曜日

和菓子ソムリエ

北海道・札幌生まれ、東京在住。無類のあんことお餅好き。コロナ禍で和菓子離れが囁かれたことがキッカケで、和菓子のおやつ喚起「テレワークは3時に和菓子を」をテーマに、和菓子の紹介や和菓子屋さんの創業史をinstagram・音声メディアVoicy ・twitterから発信しています。本業はセールスプランナー・講師。

赤坂美附の最近の記事