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小麦を愛しすぎたライターが営む、うどん愛に溢れた「うどんスナック 松ト麦」

秋吉健太編集者/コンテンツプロデューサー

「副業」や「セカンドキャリア」といった言葉をいろんなところで耳にしたり、記事などで目にするようになるなど、生き方の多様性が認められつつある今の時代。

今回紹介するのは、うどん好きが高じて原料である小麦粉の奥深さに気づき、現在は週替わりの小麦うどん店を開くようになった、ライター・井上こんさんのお店『うどんスナック 松ト麦』。

<井上こんさんの履歴書>
24歳  ライターとして活動開始
29歳  小麦粉の魅力に目覚める
30歳  全国のうどん店、小麦生産者を訪ねる
31歳  うどん食べ比べイベントをスポットで開催/うどん本『うどん手帖』を出版
32歳  スナックを間借りして「スナック 松ト麦」を週一営業
33歳  『マツコの知らない世界』出演
34歳  2021年1月「うどんスナック 松ト麦」をオープン

“全国各地の小麦粉”で打ったいろんなうどんが食べられる

田園都市線・駒沢大学駅から国道246号を環状7号線方面に向かうこと徒歩約10分、『うどんスナック 松ト麦』は、現在もグルメライターとして活躍中の井上こんさんが営む、小麦粉にこだわったうどんを提供するお店。毎週土、日、月曜の週末3日間オープンしている。

「私の場合は『うどんが好き』だって言う、食べ歩きの段階からの次のステージが『小麦の品種が好き』ってなってしまって(笑)」(井上さん)

ビル1階にある「うどんあり〼(マス)」の看板横にある階段を地下へと降ると「松ト麦」がある
ビル1階にある「うどんあり〼(マス)」の看板横にある階段を地下へと降ると「松ト麦」がある

ライターとして取材やプライベートで数多くの飲食店を訪れた井上さんは、全国各地のうどんを探求。そのうち、うどんの味だけでなく原料である小麦に興味を持ちはじめたのだそう。

「日本酒やワインは原料のお米やブドウの品種について語られることはよくありますが、うどんについては『あそこの小麦粉は〜』と語られることはあまりはないんじゃないかと思ったんです。じゃあ私は小麦の品種からうどんを見て、うどんの面白さや奥深さ、楽しさを発信して行こうと思ったんです」(井上さん)

お店の入り口には「松ト麦」の暖簾がかかる
お店の入り口には「松ト麦」の暖簾がかかる

小麦粉の食べ比べイベントからスタート

日本各地の小麦を調べたり、生産者を訪ねた井上さん。そのうち、手に入れた産地の異なる小麦粉を使ったうどんの食べ比べするイベントをやり始めたのだそう。

「『福岡のうどんっておいしいね』とか『北海道の粉を使ったうどんってここが違うね』とか、『うどんって色々あるんだね』という風に興味を持っていただけるのが楽しくて」(井上さん)

「うどんスナック 松ト麦」を一人で切り盛りする井上こんさん。現在もライターとしても活動中
「うどんスナック 松ト麦」を一人で切り盛りする井上こんさん。現在もライターとしても活動中

スナックを間借りした週1営業を経て、自分の店をオープン

『うどんスナック 松ト麦』の名前は現在の場所に移転するまで間借り店を営業していた地名が関係している。

「Twitterで、松陰神社エリアの店舗を利用して『誰かスナックみんなでやりませんか?』という情報を知ったんですね。それで『週1でやってみよう』と思って『スナック 松ト麦』としてスタートしたんです。『今回は北海道産の小麦粉ですよ』『来週は三重県産のこの子(粉)ですよー』とか、そういうことをやり始めたんです」(井上さん)

「スナック 松ト麦」として週1営業のお店をスタートした井上さん。約一年ほど営業を続けたのち、2021年1月ついに自分だけのお店を世田谷区野沢にオープンした。

一見カフェのような店内。女性一人で訪れる方も多いのだそう
一見カフェのような店内。女性一人で訪れる方も多いのだそう

「エラーな感じの国産小麦が好き」

「国産小麦の整いすぎていない“楽しいエラー”が面白いですね」と井上さん。現在は日本各地で生産されている小麦の中から、18種類の粉を仕入れ、店内にある製麺所で自らうどんを打ち、お店で提供している。

「生産者や製粉会社からお店に届く小麦粉が楽しみで。袋を開けた瞬間『あ、そうきたか』みたいな感じで、毎回テンションが上がります(笑)」(井上さん)

店内ある製麺室で、うどんを打つ井上さん
店内ある製麺室で、うどんを打つ井上さん

『うどんスナック 松ト麦』で提供しているうどんは毎回2種類。取り扱う18種類の国産小麦粉の中から、お店定番の小麦粉として採用している岩手産「ネバリゴシ」で打ったうどんと、週替わりで各地の小麦粉を使って打ったうどんを用意している。

18品種の小麦の名前が書かれている木の札がズラリと並ぶ
18品種の小麦の名前が書かれている木の札がズラリと並ぶ

「『ネバリゴシ』をうちの定番にした理由は、東京のうどん店で使ってるお店がほぼないってことが理由で。ちなみに看板に書いている品種は北海道から沖縄まであります」(井上さん)

井上さんが製麺室で手打ちしたうどん麺
井上さんが製麺室で手打ちしたうどん麺

うどんを打つ技術や、ダシの取り方、材料などは取材などを通じて知り合った各地の職人たちから教えていただいたのだそう。

カウンター席からは麺が茹で上がる様子を楽しむことができる
カウンター席からは麺が茹で上がる様子を楽しむことができる

「ネバリゴシ」を使ったうどんを実食

お店定番の小麦粉である「ネバリゴシ」で打ったうどんをいただいた。

「『ネバリゴシ』は生卵を落として、だし醤油をかけて混ぜて食べるのがおすすめです。冷たいうどんにだし醤油をパパッとかけて食べてもいいし、あったかいかけうどんで食べてもおいしいですよ」(井上さん)

岩手の「ネバリゴシ」で打ったうどん。冷でもかけでも楽しむことができる
岩手の「ネバリゴシ」で打ったうどん。冷でもかけでも楽しむことができる

「ネバリゴシ」で打った麺を箸で持った瞬間は「やや硬めの麺かな?」という印象。最初のひと口、麺を一本だけ口の中に入れてみると、ヌルッとした食感と麺を噛み切る時のネッチリとした食感が楽しい。

生卵とだし醤油でいただきました
生卵とだし醤油でいただきました

全国から届く18種類の小麦粉を使ってうどんを提供

筆者は九州で生まれ、麺の柔らかなうどんを食べて育ったのですが、初めて食べた「ネバリゴシ」を使ったうどんのおいしさに感心したのはもちろん、「うどんには『これじゃないとダメ』ではなく、『これもありだよね』と思わせてしまう懐の深さがあるんだな」そんなことを考えました。

「讃岐の人が『今日のお昼は讃岐うどんを食べに行こう』とは言わないじゃないですか。博多の人も『今夜は博多うどんを食べに行こう』とも言わない。『うどんを食べに行こう』って言いますよね。地元の人にとって日常的に食べているうどんは特別に意識してカテゴライズされていないものなんですよね」(井上さん)

常に用意されている岩手の「ネバリゴシ」と週替わりの小麦粉を使ったうどんが用意されている(取材時は福岡の「ニシホナミ」)
常に用意されている岩手の「ネバリゴシ」と週替わりの小麦粉を使ったうどんが用意されている(取材時は福岡の「ニシホナミ」)

「うどん屋さんとしては滞在時間が長いお店です」(笑)

「松ト麦」は別々の小麦粉を使った2種類のうどんを提供しているので、どちらも食べてみたいというお客さんは多いのだそう。

「『どちらのうどんも食べたいから』ということで、両方を食べ終える間にツマミをちょこちょこ挟んだりして、滞在時間7時間っていう人もいらっしゃいました。お酒も飲まれる方なら2〜3時間くらいが多いです。うどん屋さんとしてはちょっと長いかもしれませんね(笑)」(井上さん)

うどんのだしを使った「白もつだし煮」(500円)
うどんのだしを使った「白もつだし煮」(500円)

うどんのだしを使った煮込み料理やお酒のアテになるメニューなども用意されている。

下ごしらえをすることでピーマンの瑞々しい食感が楽しめる「パリパリピーマン肉みそぞえ」(400円)
下ごしらえをすることでピーマンの瑞々しい食感が楽しめる「パリパリピーマン肉みそぞえ」(400円)

カウンターで隣に座った初対面のお客同士が「私の地元のうどんはこうなんですよ」とうどん談義に花が咲くことも多いのだとか。

「『うどんって色んな種類や特徴があるんだな』っていう風に、自分の固定観念を崩してもらって、それでおなじみのお店に加えて『新しいところに行ってみようかな』、とか『旅先で地元のうどん店に行ってみようかな』という風になっていただけたら、嬉しいです」(井上さん)

うどん以外にも、おでん、揚げ物、塩辛などのおつまみメニューが用意されている。アルコールは赤星ビール700円、角ハイ600円など
うどん以外にも、おでん、揚げ物、塩辛などのおつまみメニューが用意されている。アルコールは赤星ビール700円、角ハイ600円など

現在もライターとしても活動する井上さんのお店『うどんスナック 松ト麦』は毎週土、日、月曜の3日間オープンしている。

「カウンターに座った、知らないお客さん同士が色んなうどん談義をされたりするのが嬉しいんです」と井上さん。うどん愛に溢れるこの空間に、一度足を運んでみては。

「うどんスナック 松ト麦」
住所:東京都世田谷区野沢2-26-5 野沢ビル B1F
電話番号:なし
営業時間:土曜12:00〜21:00、日・月曜17:00〜21:00
定休日:火〜金曜

編集者/コンテンツプロデューサー

編集者としてのキャリアは出版、web合わせて約30年。雑誌「東京ウォーカー」「九州ウォーカー」、webメディア「Yahoo!ライフマガジン」など雑誌・webメディアの編集長を歴任。街ネタやおすすめの新スポットなどユーザーニーズを意識した情報を、それらの合わせ持つストーリーと共にお届けします。

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