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広瀬香美が“自分の全てを見せている”と話題のオーディション番組を語る

秋吉健太編集者/コンテンツプロデューサー

今年デビュー31年目を迎える広瀬香美さんが、歌手を目指す人たちに自身の経験を余すことなく伝えるオーディション番組『歌姫ファイトクラブ!!』がSNSで話題を呼んでいる(『Hulu』で独占配信中)。

「世界に通用する歌姫」をヒットメーカー・広瀬香美が見出しプロデュースするこのプロジェクト、10/21から配信スタートした最終話では1457名の中から厳しい審査を経て勝ち抜いた歌姫が発表された。しかも合格者は視聴者の予想を裏切り、異例の3名。

広瀬香美さんが初めて開催した夏ライブに来場した客席の前で行われた最終審査
広瀬香美さんが初めて開催した夏ライブに来場した客席の前で行われた最終審査

最終審査で【歌姫】として合格したことを告げられた彼女たちは、その30分後にはビクタースタジオに移動、広瀬さん自らが指導し「レコーディング」が行われた。その音源は10/21にリリースされている。さらに12/15(金)には歌姫3人での「デビューライブ」まで開催されることが発表された。

しかも最終回のラストには、なんと広瀬さんの実の母親がサプライズで登場。メディア初共演という二人の「親子対談」の様子までが紹介されている。

親子共演は、なんと初なのだそう
親子共演は、なんと初なのだそう

異例のリアリティショーとなった『歌姫ファイトクラブ!!」を経て、広瀬さんにどのような心境の変化があったのか、話を聞くことができた。

1457名の応募者を全て一人で審査


以前、この歌姫プロジェクトについて話を聞かせていただいたインタビューで「すごい新人は惑星から飛んでくる」と話をされていた広瀬さん。

広瀬香美さん(以下:広瀬さん)「はい、惑星。木星から…、見つけました(笑)」

歌姫を発掘する『歌姫ファイトクラブ!!』は、広瀬香美さんがたった一人でオーディションの審査員を担当、オーディション中は自らピアノを弾いて課題曲を歌う挑戦者への伴奏を行い、時に厳しく、時に優しく、自らが培ってきた“歌手”として必要な“心技体”を伝授していく姿が印象的だ。

最終審査に残った5人に審査結果を告げるシーンは、広瀬さんの苦悩や優しさが画面から伝わってくる
最終審査に残った5人に審査結果を告げるシーンは、広瀬さんの苦悩や優しさが画面から伝わってくる

広瀬さん「オーディションは生モノなので、その時一瞬で判断して、すぐに私が思う適切な言葉をアレもコレも言いたいんですけど、それはレッスンになっちゃうので(笑)。『アレも言いたかったんだけど、いや、コレはやめとこう』っていうような部分が、自分の中で一番難しいところでした」

『歌姫ファイトクラブ!!』には、歌手になりたいことを夢見る1457名が参加。課題曲を歌う動画審査を経て勝ち残った42名の挑戦者全員を、広瀬さんがたった一人で審査を行った。

広瀬さん「1457名から届いた動画をまず全て見させていただいて、気になる方々はちょっとチェックしながら、100名ぐらいに絞った方を何度も聴かせていただいて。実際にお会いして肉声を聴いてみたいなと、本当に思うか、思わないかというところで、思った42名を選ばせていただきました」

20時間以上をかけて42名の挑戦者全員を審査
20時間以上をかけて42名の挑戦者全員を審査

番組ではカットされたが、広瀬さんは緊張して上手く歌えない参加者に「もう一回歌ってみますか?」「キーを変えますか?」と語りかけ、2回、3回歌わせることもあったのだそう。番組プロデューサーからは、「すごく参加者に寄り添ったオーディションでした」と教えていただいた。

広瀬さん「私も過去に大失敗を乗り越えて、誰かに救っていただきここまで来れたので。失敗したとしても、『次、失敗しないためにはこうだよね』って伝えることで、何かを持ち帰ってもらいたいなって考えていました。結果的には、審査に一人15分から20分以上かかってしまうことも」

挑戦者たちへのアドバイスは、そのまま視聴者へのアドバイスにもなっている。

広瀬さん「アーティストって素晴らしい職業だし、目指している方はたくさんおられるので、そういう方々がもっとオーディションに応募して、どんどんチャレンジしていけるようなアドバイスをこの番組を通して知っていただけたら。私が話したことを聴いてもらって、『なるほど』と思ってもらえれば、もっともっと素敵なアーティストが誕生するんじゃないかなって考えていました」

全員マスクをして“素顔”が見えない参加者たち

この『歌姫プロジェクト』の面白い演出の一つは、オーディションに参加する歌姫候補たちは全員マスクをつけているというところ。審査を経て「不合格」が告げられた人だけが、番組内でマスクを外す。

広瀬さん「このオーディションに取り組むにあたって、『歌声を聴きたいです。容姿や年齢などは関係なく、本当に歌声だけを真剣に聴きたい、審査したいんです』そういうオーディションにするにはどうしたらいいか番組プロデューサーに相談したんですね。その答えが、『じゃあ、お面を付けて挑んでもらうのどうですか?』ということでした」

審査中、挑戦者は「不合格」を言い渡された時のみマスクを外すことができる
審査中、挑戦者は「不合格」を言い渡された時のみマスクを外すことができる

そして、オーディション会場はステージにピアノが一台置かれた大きなホール。

広瀬さん「ステージ上の“たたずまい”って、やっぱり持って生まれたものっていうのがあって。その空気を制覇するのかどうかっていうのはとても大事なことだから、そこは初期の段階で見たかったんです。それも番組プロデューサーにお願いしたら、『じゃあ、でっかいホール探します』みたいになっちゃって(笑)」

「スタジオで聴くのとステージで聴くのは全然違うものなんです」(広瀬さん)
「スタジオで聴くのとステージで聴くのは全然違うものなんです」(広瀬さん)

今回、歌姫プロジェクトで候補者の審査を経験したことでの思い出深い話について尋ねてみた。

広瀬さん「実は『この子いいな』と思っていた子がいたんですが、練習のしすぎと体調を崩されていたんですね。審査会場に来てくれたんですが、声が出なくて歌えなかったという歌姫候補が三次選考におられて。大変残念に思って、『また近い将来、会おうね』って言って。特別枠で通してあげたかったんですが、その子はノドを壊しても最終審査に向けて練習しちゃうので。『いま通しちゃいけない!』と思ったんです。気持ちも強くて、センスも十分備わっている非常に印象的な子で、『いま頃どうしてるかな? 音楽を諦めずに頑張ってるかな?』って思う子です。メッセージでもくれないかなと思ってるんですけどね」

「オーディションが身近になり過ぎている」

「私がオーディションを受けた30年前と、いまの状況は全然違ってびっくりしました」と広瀬さん。どんなところが違ったのだろう。

広瀬さん「いまの時代、皆さんがオーディションを受けることに慣れている。良くない意味でいうと、もう対策ができちゃっているので、第一次、第二次ぐらいまでは審査を通過できる技術を身に付けている。SNSの浸透で自分のことを発信できる時代なので、見せ方も分かっている。審査する側からすると、その人たちが身につけているその部分を全てはぎ取る、本質をつかむまでが大変というところは、すごく進化しているなと思いました」

「私が挑戦者たちにとって一番厳しいお客さんでいたい」(広瀬さん)
「私が挑戦者たちにとって一番厳しいお客さんでいたい」(広瀬さん)

今回のオーディションで、広瀬さんはどうやって挑戦者たちの本質を見出そうとしたのだろう。

広瀬さん「それは最初のオーディションのときに、私の楽曲を歌ってもらうところから、始まっていました」

​​広瀬さんは、オーディション参加者に課題曲として“自身の曲”も歌わせた。それは参加者のオリジナル性を確認したかったから。

広瀬さん「私は声も高くて元気で癖もあって、私なりの歌い方が確立しています。でも挑戦者は、課題曲として出された私の曲をたくさん聴いて、その曲を歌って応募しなきゃいけない段階で、自分というものがないと“私のモノマネ”になりがちなんです」

挑戦者は全員マスクをつけているため、視聴者も表情が見えない
挑戦者は全員マスクをつけているため、視聴者も表情が見えない

広瀬さん「最初の審査でほとんどの方をふるいにかけた選考ポイントは、上手に歌えていても“モノマネ”が多かったことです。一次審査に通過した42名の方には、男性アーティストの人気曲を歌っていただきました。それは普段歌わない音域だったり、知ってはいるけど普段歌っていない、練習していない歌をどう自分なりに表現していくのかという姿を見極めたかったからなんです。ただ歌がうまいだけでは歌姫として生き残っていけない。いろいろな技術が必要だったり、どんな風に自分で自己研鑽しているのかっていうところを見たかったんです」

二次審査では挑戦者たちに【童謡】に「喜怒哀楽」の感情を込めて歌わせた
二次審査では挑戦者たちに【童謡】に「喜怒哀楽」の感情を込めて歌わせた

ちなみに、もし30年前に広瀬さんが今回のオーディションを受けていたとしたら、、、

広瀬さん「…私、落ちていたと思います。完全に落ちてた…。私は自分の作った楽曲を世の中に出したいって思っていた時に『歌手のオーディションを受けてみたら?』と言われて、落ちてもいいっていう軽い気持ちで片手間に受けたから良かったなっていう…、本気で『歌姫になりたい』と思っている人たちが参加された今回のオーディションは本当に過酷だったと思います。だから、彼女たちの力になりたかった。過酷なオーディションにチャレンジした歌姫候補たちに、私のこれまでの経験や『こういうことに気をつけたほうがいいよ』というアドバイスが生きればいいなって思って臨みました」

今年デビュー31年目。第一線で活躍し続けてきた広瀬さんの知見がふんだんに披露される
今年デビュー31年目。第一線で活躍し続けてきた広瀬さんの知見がふんだんに披露される

サッカーが上手くなるにはシュートやドリブル、野球ならキャッチボールや素振りといった練習が必要だが、歌手になるためのトレーニングにはどんなことが必要なのだろう。

広瀬さん「声帯を使うのは筋力トレーニングと同じなので、長時間もダメですし、何回にも分けられないんですね。そういうちょっと不自由なところがあるから、一日のうち2時間とか3時間とか決めて、そこで歌だけに向き合うみたいな爆発的な力が必要。その技術を知らない人が結構多いんですよ。なので、ずーっとだらだらやってると、声を枯らしちゃって、疲れがたまってんのにまた練習しちゃう、声の出し方が悪いのによく分かんないという連鎖で、ノドを枯らしちゃう子が多いんです」

「歌手には“心技体”が必要」と断言する広瀬さん。中でも“体”を作り上げることはとても大事なのだそう。

広瀬さん「歌い手にとって本当に“体”は大事で。例えばスクワットを1,000回毎日やれば、1ヵ月で済むかっていう、そういう問題じゃないのです。100回を一生やり続けなければいけない。歌手はアスリートなんです。運動って、足・腰が大事ですよね。歌も下半身で大体決まると思います。アメリカに住んでいた当時、周りの歌手たちがトレーニングしているのをよく見ていました。みんな走り込みをやったり、片足スクワットとかをしていましたね」

ステージに立って歌うということ

「今回、私が探していたのはステージに立っても打ち勝てる歌姫」と広瀬さん。ステージに立って歌うとはどういう意味を持つのだろう。

広瀬さん「ステージに立つと、スポットライトが当たって、お客様はスポットライトを浴びた人に全集中するわけですよね。そのときにサビを歌ってつまらなかったら、みんな集中力が切れちゃって他のことを考えてしまう時代。逆に言えば、良いメッセージや、素晴らしいものを奏でれば、みんなが集中して、ずっと見続けてくれる。一曲だったら5分、一ステージだったら2時間、みなさんの貴重な人生の時間を自分が奪うことができると私は思っています。ステージってレコーディングと違って、すごく貴重で特別なものだと私は解釈しているので、その大事さを私が選んだ歌姫には教えていきたいと思っています

審査では、ハートの強さを見極めるための個人面接や家族面談も行われた
審査では、ハートの強さを見極めるための個人面接や家族面談も行われた

歌手・広瀬香美の金言にいつでも触れることができる

全10話からなる『歌姫ファイトクラブ!!』の中で挑戦者たちに接する広瀬さんの様子からは、彼女のYouTubeやSNSでの発信、ライブ会場で歌う広瀬さんとはまた違う、普段見ることができない音楽プロデューサーとしての一面を見ることができる。

30年以上第一線で活躍している広瀬さんの金言にいつでも触れることができるのは、この『歌姫ファイトクラブ!!』は地上波放送ではなく、『Hulu』といういつでも見ることができるサブスクリプションならではの利点だ。

広瀬さん「自分の考え方とか、歌手としてあんまり言いたくないようなことも、この配信番組の中でできる限り伝えています。私のことをライバルだと思っている歌手に見られるのは嫌なので、見ないでっていう(笑)」

広瀬さんはいろんなシンガーだけでなく、数多くの方に歌を教えている
広瀬さんはいろんなシンガーだけでなく、数多くの方に歌を教えている

広瀬さん「私は現在活躍なさってる歌手や、実は、有名な方々にも歌を教えているんですね。共演した方やお会いした方から、どういう発声法をしているのか、どうやって高い声を維持しているのかを教えてほしいと聞かれることが多くて。長年こっそり教えてきたのですが、今回はそれをもう惜しみなく出しちゃったという感覚です」

歌手を目指す歌姫候補たちが挑む『歌姫ファイトクラブ』、視聴者にはどのように楽しんでほしいのかを聞いてみた。

広瀬さん「キラキラ輝くスターというのは、1日や2日で創られるものではなく、毎日毎日の人生を捧げて、絶対に真似できない、絶対に越えられないものを紙のように一枚一枚、毎日毎日積み重ねていく。だからこそ、栄光や凄さがあるんだということに気づいてもらえれば嬉しいです」

デビュー前はアメリカで音楽の勉強をしていた広瀬さん
デビュー前はアメリカで音楽の勉強をしていた広瀬さん

「ビヨンセは練習しかしていないと思う」

広瀬さん「スポーツ選手だと、『日々隠れた練習をやっているんだろうな』『小さな頃からバットを振り続けているんだろうな』というイメージがありますよね。真のシンガーというのは、そして、世界に打ち勝てるようなスターというのは、容姿も良いし、努力もできて、全てが備わって、考えもあって、毎日練習している。そういうものなんだっていうことを、この『歌姫ファイトクラブ』を通して気づいていただけたら」

アメリカに長く住んでいる広瀬さんは、世界的スターのドキュメンタリー番組を目にすることも多い。

広瀬さん「アメリカではアーティストの日常を紹介する番組がたくさん放送されているんです。ビヨンセの密着番組とか、テイラー・スウィフトの頑張っている姿とか、有名なプロデューサーたちが、めちゃくちゃ努力して楽曲を書いている姿っていうのをずっと見てきたので、『努力するものなんだ』っていうのが普通だと理解していたんですね。日本に帰ってくると、そういう番組がないから、『いやいや、日本のアーティストもすごい頑張ってるんですけど』っていうところを、私が先頭を切って知っていただく努力をしないといけないと思っています」

「私もずっと日々トレーニングをしています」(広瀬さん)
「私もずっと日々トレーニングをしています」(広瀬さん)

広瀬さんがアメリカで見てきた番組で、印象に残ったアーティストについて教えていただいた。

広瀬さん「ビヨンセとか、本当に練習しかしていないんじゃないかな。日頃からめちゃくちゃ練習していないと、あの声は出ないです。セリーヌ・ディオンのドキュメンタリーを見ると、彼女も私と同じで、常にマスクをしてますし、声を出さない、コンサートの日は家族ともしゃべらない。アメリカではそういう人たちのドキュメンタリーとか、大変な努力をされている姿を惜しみなく出してるアーティストたちがたくさんおられるので、日本もそういうアーティストが増えていけばいいと思うし、そうなっていかないとアーティストの地位が上がっていかないし、スポーツ選手に負けちゃう」 

審査員を経験して、自身の心境の変化とは

今回の歌姫プロジェクトで審査員を務めたことで広瀬さんの中に変化はあったのだろうか。

広瀬さん「もう大きな変化がたくさんありました。私はやっぱり音楽プロデュースする側が好きだなっていう、血が騒ぐのを再認識しました。自分の中で目指していたものだったけれど、自分がシンガーとして、自分の楽曲を歌うということで満足していたんですけど。今までも楽曲を提供させていただいたり、音楽プロデュースさせていただいたりはしていたんですね。シンガーとして8〜9割、音楽プロデューサーとして1〜2割ぐらいの割合だったんですが、今回のお仕事をさせていただいて、5:5ぐらいにもっていきたいって強く思いました」

歌姫たちとのレコーディング風景
歌姫たちとのレコーディング風景

広瀬さん「自分にはない歌声を持っている人は魅力的だと思いますし、音楽家として素晴らしい歌声を最大限に輝かせることができるような楽曲やアドバイスができないといけないという、自分の中での課題ですね、血が騒ぐというのは。そこに挑んでいきたいと、広瀬香美として挑んでいきたいと思わせてくれた『歌姫』に出会えたし、この半年間の経験が、私の音楽家・広瀬香美のスイッチを入れてくれたと思っています」

12/15(金)は3人の歌姫のデビューライブが開催

全10話からなる最終話の冒頭で、今回選んだ歌姫たちについて「私を超えると思う」と広瀬さん。このオーディションを通して成長していく3人の歌姫のことが「楽しみで仕方ない」のだそう。

広瀬さん「歌姫たちには、練習魔になってもらうべく、いま改造しております」


惑星からやってきた、歌姫たちの歌声をこれからいろんな場所で耳にすることを想像すると、いまから楽しみでならない。

『歌姫ファイトクラブ!! 〜心技体でSINGして!〜』
https://www.ntv.co.jp/hirose/

Huluにて全10話配信

編集者/コンテンツプロデューサー

編集者としてのキャリアは出版、web合わせて約30年。雑誌「東京ウォーカー」「九州ウォーカー」、webメディア「Yahoo!ライフマガジン」など雑誌・webメディアの編集長を歴任。街ネタやおすすめの新スポットなどユーザーニーズを意識した情報を、それらの合わせ持つストーリーと共にお届けします。

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