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「BLMデモに希望を感じている」――トゥシューズを絵の具で染める、黒人バレリーナの思い

Anais Michel

ドキュメンタリー監督/エディター

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黒人と白人の両親の元に生まれ、テキサスの保守的な街で育ったリンゼー・ドンネル。「小さい頃から、バレエの世界は人種差別から逃れられる場所だった」。バレリーナの道を歩み、現在はニューヨークのバレエ団の一員として、世界各地の舞台に立つ。有色人種の肌色に合ったトゥシューズは、まだあまり生産されていない。そのため、リンゼーはいつも絵の具で染めている。今年、BLM(ブラック・ライブズ・マター)運動に参加した思いを聞いた。

「数年前、シューズメーカーに有色人種用のトゥシューズを作ってくれないか相談したの。シューズは肌の色に馴染むべきだから。『可能だ』と返事をくれたのだけど、『合った色のサテンを見つけることができれば』と。どこで見つけられるの、と思った。1年半前に『私の塗ったシューズを送ってほしい。送ったものに合わせた色にする』と言われて、送ったの。開発は始めているとのことだけど、その後は連絡が来ない。今は保留の状態なのかしら」

リンゼー・ドンネルは、テキサスの小さな街で黒人と白人の両親の元に生まれ、人種の確執を感じながら育った。地元のダンススタジオでバレエと出会い、居場所を見出す。「小さい頃から、バレエの世界は人種差別から逃れられる場所だった」。大学でダンスアートマネージメントを学んだ後、プロダンサーの道を歩み出した。

しかし、大きな役が与えられない。原因は技術にあるのか、それとも肌の色のせいなのか――。

「あるダンスカンパニーで『白鳥の湖』をやった時、自分と同じで入団2年目だった人のほとんどが中心的な役に入れたのに、私は入れなかった。その時初めて『あれ、もしかして』と感じたの。でも人種のせいにする前に、まずは自分自身のスキルを見つめ直したいと思った」

悩みながらも研鑽を重ね、2011年にニューヨークのクラシックバレエ団「ダンス・シアター・オブ・ハーレム」に入団する。

「ダンス・シアター・オブ・ハーレム」を設立したのは、ダンスでアメリカ社会の人種差別に挑み続けたアーサー・ミッチェル。ニューヨーク・シティ・バレエ団で初めての黒人プリンシパルダンサーだ。地元の黒人コミュニティーに恩返しをする方法を模索し、公民権運動真っ盛りの1969年、「ダンス・シアター・オブ・ハーレム」をキャレル・シュックと共に設立した。ハーレムのガレージを改造してダンスを教え、それまでバレエに触れる機会のなかった人々に門戸を開いた。

そもそもバレエはルネサンス期のヨーロッパで誕生し、上流階級のための芸術として育まれてきた。大衆に普及した後も、有色人種のダンサーには高い壁が立ちはだかっている。さまざまな変革を経た今も、黒人ダンサーは第一線で存在感を示すには至っていない。

「ダンス・シアター・オブ・ハーレム」は70年代にコスチュームの厳格なしきたりを緩め、肌の色にマッチしたタイツとシューズを導入。ボディーラインが、色で不自然に分断されないようになった。ダークトーンのトウシューズも少しずつ発売され始めたが、自分の足の形に合ったシューズにカラーバリエーションがあるとは限らない。有色人種ダンサーの多くは、今も時間を割いて自分の肌に合う色に染めている。

リンゼーら「ダンス・シアター・オブ・ハーレム」のメンバーはこの夏、ニューヨークでBLM運動に参加した。リンゼーはこう言う。

「アメリカでは黒人の命が軽視されてきて、警察は人の命を無慈悲に扱うことができていた。パンデミックの間、警察の残虐行為が多発していた。失われた命を追悼しようと、カンパニー全員でデモに行ったの。中には本当に暴力的なデモもあったようだから、正直ちょっと怖かった。でも、私が見たデモのほとんどは、平和的な葬送行進のようなものだった。私はこういう抗議活動に希望を感じているの。いろんな人が集まって、国籍や人種に関係なく、変化を求めているから」

「抗議とパンデミックが同時に起こったことは、私たちが自分自身を見つめ直す必要がある時として、歴史に刻まれたような気がする。コミュニティー全体として、国家として、どうすればよりよくなれるのか」

新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、多くの劇場やダンススタジオは閉鎖。ツアーのキャンセルや公演の延期を余儀なくされた。「ダンス・シアター・オブ・ハーレム」は閉鎖から8カ月を経て、ゆっくりと慎重に再オープンしている。

今年、リンゼーは自宅のアパートで、自分の手で染めたトゥシューズを履き、一人レッスンを重ねてきた。

「どんなに笑顔を作って先を見ようとしても、自分の感じているものを表現することを忘れてしまう。傷付いたり悲しんだり、人と違う扱いを受けているという感覚……人種差別ね」

クレジット

Directed & Edited by Anaïs Michel
Director of Photography Braulio Jatar
Produced by Anaïs Michel & Braulio Jatar
Associate Producer Mariko Ide
Text by Nina Fautré
Thank you to Lindsey Donnell
Ballerina with Dance Theatre of Harlem

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