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ミシュラン二つ星シェフの絶対真似できない料理 リオネル・ベカの哲学とは?

Bob映像作家

ミシュランの星を獲得し維持することは、シェフにとって、とても名誉なことです。世界基準の「美食」と認められ、料理を通して自分の存在がたくさんの人々に知れ渡ることになります。また同時に、さらなる高みへの期待を背負うことでもあります。それは世界最高峰、唯一無二の料理を目指し続ける料理人にとって、終わりなき美食探求の旅のようなものです。

2012年、東京・銀座でフレンチレストラン「ESqUISSE エスキス」をオープン後、半年でミシュランの星を獲得し、2018年「今年のシェフ賞」を受賞した新進気鋭のモダンフレンチシェフ、リオネル・ベカ氏の料理の秘密に迫りました。

私が「美食」=「ガストロノミーレストランの料理」を初めて体験したのは、今から13年前。東京・西新宿で「キュイジーヌ[s]ミッシェル・トロワグロ」を立ち上げたばかりのリオネル・ベカ氏と一緒に番組制作の仕事をすることになりました。初めてリオネルシェフと出会った時、彼はこう提案しました。「仕事を始める前に、私の料理を食べて欲しい」と。私は彼のレストランで世界基準の「美食」の世界を体験したのです。「これはただ美味しいだけの料理ではない、まさにアートの世界だ」とかなりの衝撃を受けました。

彼は来日して以来、日本での経験を生かし、フランス料理の伝統に根ざしながらも、日本の食材や和食の技法も巧みに取り入れ、モダンフレンチ界の最前線をリードし続けています。現在では「ESqUISSE エスキス」のエグゼクティブシェフを務め、日本のグランメゾンの代表格として確固たる地位を築き上げたのです。
 
彼のレストランへ長年に渡って通っている中で「なぜ、次から次へと感動的な料理を生み出せるのだろう」「料理のアイディアをどう現実化しているのだろう」と次第に疑問に思うようになりました。そして「きっと彼なりの料理創造のルールや、哲学があるに違いない」そう確信したのです。

リオネルシェフのことをもっと深く知るために、彼と共にレストランに立つ総支配人の若林英司氏に話を聞いてみました。彼は「リオネルシェフの料理は絶対真似できない」と断言しました。その理由は「13年間、日本で生活している中で、日本文化を理解し、彼なりの解釈とフランス人というバックグラウンドを上手に盛り込んで料理を構築しているからではないでしょうか」と続けます。 

世界が認める素晴らしい料理を生み出すために、一体、彼はどのようなプロセス、つまり『味覚の地図』を歩んでいるのでしょうか。

まず最初の一歩目。リオネルシェフが料理に対して最重要視するのは味の美味しさ。「料理の際、最も大切にしていることは、合わせる食材同士に<自然とのつながり>があることです」と力説しています。料理を構成する食材の産地や性質、成分を考慮し、食材同士に必ず<自然とのつながり>を持たせるという理論に基づき使用する食材を厳選するというのです。

さらに『味覚の地図』の歩みを進めていくと、人生経験などの<記憶>の旅へ。生まれ故郷のコルシカ島での思い出から、フレンチシェフとして日本で生活している現在までの<記憶>を辿り、アイデンティティーを感じる料理を追求していきます。また、理論上のルールに縛られず、自由な発想や<直感>を取り入れ、食べる人を驚かせる<意外性>の要素を加え、唯一無二の一皿へと仕上げていきます。

今回の料理は、彼を魅了してやまない色「NOIR・黒」がテーマです。『味覚の地図』を構成する<自然とのつながり><記憶><直感><意外性>。彼の料理のベースとなるこの4つのエレメントをもとに、様々な食材が新たな料理へと昇華されていきます。

長年の経験から構築された独自の料理のプロセス『味覚の地図』があるからこそ、多くの人々に彼の料理が愛され続け、ついにはミシュランの世界基準にも認められているのでしょう。

私は彼が日本に住み始めたばかりの頃から、次々と生み出される料理について、また、創作活動への情熱について沢山のことを話し合ってきました。彼の成長を見守り、さらに今回の取材を通し彼の心情を奥深くまで迫って理解したことがあります。それは料理を通して自分を表現することは、彼が生きる上で必要不可欠なことだということです。あらゆる物事に興味を持ち、自分なりに解釈し、オリジナルのアイディアで食材を活かし、「リオネル・ベカ」という人間を料理で表現する。これこそが彼の大きな喜びであり、生きる力になっているのです。

『味覚の地図』の真髄を皆様にお伝えすることによって、新しいものを創造するためのヒントや活力となり、そして自分という存在を表現することの面白さや素晴らしさについて、改めて考える機会になればと願ってやみません。

リオネル・ベカ Lionel Beccat

1997
ミッシェル・トロワグロのブラッスリー「ル・サントラル」、ミシュラン一ツ星レストラン「ギィ・ラソゼ」「ペトロシアン」で研鑽を積む
2002
三ツ星レストラン「メゾン・トロワグロ」でスーシェフを務める
2006
ミッシェル・トロワグロより、東京にオープンの「キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロ」シェフに任命され来日。5 年半同店のエグゼクティブシェフを務める
2011
フランス国家農事功労賞シュヴァリエ授勲
2012
「ESqUISSE」 エグゼクティブ シェフ 就任
2018
Gault&Millau 「今年のシェフ賞」受賞

クレジット

監督・撮影・編集:ボブ Bob (redたんぽぽ)
制作アシスタント・日本語字幕:木村絵美 Emi Kimura
ピアノ:北山奏子 Kanako Kitayama

出演:リオネル・ベカ Lionel Beccat、若林英司 Eiji Wakabayashi (Restaurant ESqUISSE)
協力:Restaurant ESqUISSEのみなさま

映像作家

1957年ベルギー生まれ。名門ルーヴァン・ラ・ヌーヴ大学メディア芸術学院を卒業後、ベルギー国営テレビのディレクター兼プロデューサーとして数々の番組制作に携わる。92年、国際交流基金研究員として来日して以来、その魅力に取りつかれ都内に居を構える。2003年、redたんぽぽ設立。05年、社団法人JPSAアライアンス大賞最優秀賞受賞。06年5月より日仏語ポッドキャスト番Chocolat!の制作及びパーソナリティをつとめ、“Chocolat!のボブ”として親しまれる。大正大学 表現学部 客員教授。日本映画撮影監督協会 会員。

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