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【宝塚市】火との対話で生まれる静謐な豊かさ キャンドルと本『YUKTA』

ぶらっと地域情報発信ライター(宝塚市)

火はかつて生活に欠かせないものでした。煮炊きをし、風呂を沸かし、そして冬には暖を取る。闇夜を歩けたのも、足許を照らす火があったから。
いつしか竃(かまど)の火は消え、ほぼすべてが電気に取って代わられようとする現代に、コツコツとキャンドルをつくり続ける人がいます。彼女が伝えたい「灯す豊かさ」とは?

近頃、魅力的なお店が増えている阪急宝塚線・山本駅界隈。キャンドルと本を扱うお店『YUKTA(ユクタ)』さんもその一つです。駅から線路沿いを宝塚方向へ歩き、3つ目の踏切を南へ渡って坂をくだったところ。緑に囲まれた看板が出迎えてくれます。

2012年オープンと、近隣のお店の中ではベテランですが、当初はタイマッサージや占いのお店で、キャンドルを扱うようになったのはオープン後3年ほど経ってからだそう。

キャンドルはすべて手づくり
キャンドルはすべて手づくり

現在マッサージや占いはお休み中で、キャンドルのほかに新書・古書を販売しています。キャンドルを灯しながら読んでほしいというこの日のセレクションは『チベットのモーツァルト』や『夜と霧』など思索を深めるものから、ガーデニング入門や牧野富太郎、芸術系の本とさまざまで、どれも滋味あふれる良書ばかり。

ジャンルは広く、ツボは狭くのナイス・セレクション
ジャンルは広く、ツボは狭くのナイス・セレクション

また「自分の生活ペースに合わせて緩く続けたい」というオーナー・森田綾子さんの思いから、営業は不定期です。

キャンドルは長く灯して味わうもの

ところで、キャンドルを買ったはいいけれど、何度か使ったら、溶けて固まったロウに芯が埋もれ、火がつかなくなってしまったという経験はありませんか。相談してみたら「灯す時間が短すぎるからです」と驚きの答えが返ってきました。

灯し続けることで芯が短くなって下に降りていき、キャンドルから光が透けるようになります。その美しさを味わうには、通常の大きさで30分以上、大きなものだと数時間は灯し続ける必要があるのだとか。

30分以上、灯し続けないと味わえません
30分以上、灯し続けないと味わえません

ちなみにキャンドルの炎が最も美しい時間は、午後3~4時ごろだそうです。

絡まった糸をほぐす

森田さんは、純度の高い鉱石のような印象で、チベットの山などの澄んだ空気が似合う方。もともと東洋の宗教美術が好きで、それが高じてヒンドゥー文化などを探求していったのだそう。目には見えなくても確かにそこにあるものに魅かれたと言います。インド・チベットの自然や文化に触れて、からだや心と向き合ううちに、混沌とした日々の中で生まれる、絡まった糸のような悩みを解きほぐすお手伝いが出来ればと、タイマッサージや占いのお店を始めたのだとか。

各星座の色と言葉が沁みるAstro Candles
各星座の色と言葉が沁みるAstro Candles

現在はキャンドル制作に専念していますが、たとえば各星座に定められた色を組み込んだAstro Candlesシリーズは、西洋占星術の知識と経験を活かして書かれたメッセージ付き。嬉しい時も沈んだ時も、持ち主の方が自分の歩みを進めるためのお守りになれるように、との願いが込められています。

火との出合いは自宅の薪ストーブ

キャンドル制作へ軸足を移すきっかけになったのは、自宅に備え付けた薪ストーブです。ガスコンロと違って、薪の火はなまもの。自分の気持ちや態度によって形を変える火と接するなかで、対話が生まれ、その奥深さにハマったのだとか。

教室を見つけてキャンドルを制作するうちに、マッサージや占いを通じてやりたかったことが、キャンドルを灯すことで実現できると気が付いたそう。
「マッサージや占いはお店に来てもらわないと対応できないけれど、キャンドルなら自宅で手軽に灯してもらえるから」と森田さん。

火を灯す豊かさを伝えたい

「火を灯す豊かさ」があるという森田さん。そこにはいったい何があるのでしょうか。というわけで、実際に火を灯してもらい、しばしのキャンドルタイムです。

風や見つめる人間の呼吸で変化する炎は、繊細にゆらめいて太古のリズムを伝えてきます。キャンドルから透ける明かりはどこか懐かしく、ほのかな温もりで身体がゆっくりと緩んでいきます。からだの内側の澱(おり)が溶けだすようでじわじわと炎の輝きが沁みてくるのです。
そして、いつの間にか生まれる、自分とキャンドルだけの特別な空間。

火も、見ている人間も、お互いの存在を感じることで変化する。それがなんだかとても心地いいのです。

わずかな時間でしたが、気持ちがとても穏やかになりました。自宅でゆっくりと時間をかければ、さらに深い対話ができそうです。

ほのかな明るさと温もりが心地よい
ほのかな明るさと温もりが心地よい

薪ストーブの灰を混ぜたWood Ash

いろんなお話しをうかがっているうちに、キャンドル制作工程そのものが、森田さんの心の軌跡のようにみえてきました。ロウのかけらにそれぞれ色を付け、一つの型に詰め込んで成形するカラーキャンドル。どんな色合いが生まれるかは、森田さんのコンディションによって変わります。そして今回印象に残ったのは、自宅の薪ストーブの灰を混ぜ込んだWood Ashシリーズ。

灰を混ぜたWood Ashシリーズ
灰を混ぜたWood Ashシリーズ

通常の円筒形以外に、かけらたちを組み合わせ、手で成形した鉱石型キャンドルがあります。

鉱石型キャンドル
鉱石型キャンドル

宝石の原石のようなフォルムが美しく、オブジェとしても素敵ですね。こちらは、ロウが溶岩のように流れていくのを楽しんでほしい、とのこと。岩に火が灯るようで、その神秘的な風合いは、森田さん自身の内なる旅路を反映している気がします。

おさんぽマルシェや阪神百貨店に出店予定

アトリエ兼店舗の営業は不定期ですが、2023年の10月14日山本おさんぽマルシェ、そして11月1日~6日阪神百貨店梅田本店8階の催事出店されるとのこと。興味がある方は 、ぜひ足を運んでみてください。
(ちなみにAstro Candlesは阪神のみ、書籍は山本マルシェのみの展示です。)

さて、1本のキャンドルが生み出す世界はいかがでしたか。

写真を見返すだけでも、あの時の静謐な空気が蘇ってきます。使う機会が減りつつあるとはいえ、火はやはり今でも大切な友人。秋の夜長に、ゆっくりと対話してみるのも楽しそうです。

店舗情報

YUKTA shamanic candle
■ 場所:〒665-0881 宝塚市山本東2-3-23
■ 営業日・営業時間:不定期(Instagramをご確認ください。)
公式 Instagram
公式ホームページ

出店予定
山本おさんぽマルシェInstagram(10月14日(土)於:長尾ふれあい広場)
“好き”を旅するNEW⇔OLD CREATER’S MARCHEInstagram(11月1日(水)~6日(月)於:阪神百貨店 梅田本店 8階催場)

(※いずれも電話での問い合わせはお控えください。)

地域情報発信ライター(宝塚市)

カフェ、庭園、美術館、ときどき神社。新しい出会いを求めて、カメラ片手に足の向くまま、気の向くまま。歴史のあるまち、宝塚の「いま」をお届けします。

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