【目黒区】松岡智子さんの個展が目黒区美術館 区民ギャラリーで開催されました
ソーシャルネットワークアーティストとして活躍する松岡智子さん。パリで行われたアートフェア「サロン・アート・ショッピング・パリ(Salon Art Shopping Paris)」で描き上げたアート作品をお披露目する展示会が、2021年12月8日(水)~12日(日)に目黒区美術館 区民ギャラリーで展示されました。
コロナ禍で模索しながら、自分の表現をソーシャルネットワークの中に見出した松岡さんの作品に直接触れてみたくて、12月11日(土)に区民ギャラリーへ足を運んできました。
パリの空の下で繰り広げられた松岡さんのパフォーマンス集大成
今回、区民ギャラリーで展示されたのは、パリ滞在中に完成させたアート作品の数々。さらに松岡さんの持ち味である大きなアクションと猛烈なスピードで仕上げるアートパフォーマンスを、目の前で体感できるライブペインティングも開催されました。
私がお邪魔した時間はすでにパフォーマンスが終了した後でした。拝見できなくて残念。
人とうまく関われなかった16歳の松岡さんを救ったシャンポール城の夕陽
松岡さんが初めてフランスを訪れたのは高校2年の修学旅行だったそうです。友人関係がうまくいかず、孤独に苛まれていたという松岡さん。
涙を堪えながらシャンボール城のらせん階段を上り、屋上に到着すると、大自然の壮大な風景の中にゆっくりと沈む夕陽が見えました。その瞬間、涙がすーっと流れ、自分の悩みなどこの美しさの前ではちっぽけなことだと、気持ちが軽くなったそうです。
アートフェアのために再訪したフランスで、再びシャンボール城を訪問。そこには変わらずに美しく輝く夕陽が松岡さんを迎えてくれました。
孤独に泣いていた高校2年生の自分を癒してくれた景色、そしてここからまた新しい1ページを始めたいという決意を閉じ込めた瞬間を描いたのがこちらの作品、シャンポール城です。
シャンボール城を描くまで、松岡さんご自身、覚悟のなさや卑下する気持ちがどこかにあり、絵を描きたいという個人的な欲のため、周りの人を巻き込むことに躊躇があったといいます。
しかし、そんな松岡さんの様子にフランスまで同行してくれたスタッフたちが気づき、指摘してくれたことで「妥協や遠慮は、支えてくれる人たちにかえって失礼なのではないか」ということに気づくことができたとのこと。
作品ではシャンボール城全体を描くだけではなく、水面に映る姿も表現。ここには、一緒にフランスまで同行してくれた人たちの気持ち、松岡さん自身の思いも映し出そうと描いたもの。
また、確かに自分はここにいたということを閉じ込めたいと思い、現地の砂もキャンパスに塗りこめているそうです。
近谷直之さんのアップテンポなピアノ演奏とのセッションで生まれた作品「躍動」
大胆に描かれた真っ赤な鯉。こちらの作品は、サン=ルイ橋から見える景色を描いている際に生まれたものです。
初めは暗い水面を表現しようと描き始めたのですが、夕陽がさして赤く染まり始めるのを見て、川で跳ねる鯉のイメージが湧いてきて、仕上げた作品だそう。
近谷さんのアップテンポな演奏がさらに気持ちの高揚感を引き出し、勢いや躍動の象徴として鯉が飛び出したのではないかとおっしゃっていました。
この絵を描いた日は、近谷さんの服にペインティングをしているのを見て次々とギャラリーが集まり、「私の服にもお願い」と志願者が登場してキャンパスに描くのを忘れかけていたそう。
まるで半年分のペイントをしたような勢いでしたが、まだ「描く」というハイテンションの中で生まれた作品です。
フランスでインスピレーションを得た「アート×ファッション」という表現
フランスで行ったパフォーマンスのひとつに服に描くアートがありました。松岡さんにとって「ファッション」は強い興味を持つもののひとつになったそう。
すでに完成された「ファッション」という作品に対し、アートペインティングを行うことはどこか「いけないことをしている」という背徳感があります。その思いは逆にテンションを高めてくれるエッセンスのひとつだと松岡さん。
服を着ている人を見て、色やイメージを決め、既製服に「上描き」する。松岡さんがムーブメントを起こしたZOOM背景画制作に通じるものを感じ、恐怖や緊張感を感じつつもその先が見たいという思いで描いているそうです。
フランス人のファッションの楽しみ方、着こなしにとても影響を受けたという松岡さん。彼らの自己表現やセンスに触れたことで、日本に戻ってからもコートやスニーカーをキャンバスにアート作品を次々と生み出しているそうです。
また、今年度はアート×ファッションを追いかけつつ、「能の舞台」でファッションショーを行ってみたいという抱負もあるそうです。能舞台を鑑賞する機会が増え、伝統芸能に強い興味を覚えているとのこと。
能は即興劇として行われるものであり、松岡さんの特徴であるライブペインティングに通じるものを感じているそうです。その場で作られるファッションショー、松岡さんならではの発想ですね。
松岡さんの作品によく登場する「にょろにょろ」から生まれた作品「鶏」
今回の展示会告知チラシのメインビジュアルにも使用されている作品「鶏」。フランス行きのために立ち上げたクラウドファンディングのリターンのため選んだビル・アケム橋で描いた作品です。
松岡さんの作品に数多く登場する「にょろにょろ」モチーフ。この作品でも登場させようと黒いキャンバスに白と金を使ってにょろにょろを描き始めました。
そうすると、次第に画面上部に鳥の羽のような風合いが浮かびあがり、青・黄色を足していくうちに雄鶏が現れ、現在の作品に仕上がったそうです。
こちらの作品はシャンボール城と並び、今回の個展で大勢の方から反響があった作品でした。
エッフェル塔が見えるシャン・ド・マルス公園で描いた「夕陽」
クラウドファンディングのリターン、もう一つの約束で「エッフェル塔が見える場所でのライブペインティング視聴権」というものがありました。フランスに到着して選んだのがシャン・ド・マルス公園。
シャンボール城で行ったペイントの際に「大きいものに描いたら気もちがいいだろうな」と思い、画材屋さんで一番大きなキャンパスをと買い求めて描いたのがこちらの作品(120号:130×190)です。
シャンボール城の時もそうでしたが、フランスで最も印象的だったのは夕陽の色だったという松岡さん。夕陽の色を描きながら、まだよく見えていない今後の不安やもやもやとした気持ちを抱えながらそれに立ち向かっていこうとする瞬間を、獣のような子として表現されています。
「LE CARROUSEL DU LOUVRE(カルーゼル・デュ・ルーヴル)」の展示作品「月光風雲図」と「ヘラジカ」
ご紹介が最後になってしまいましたが、ルーブル美術館の別館である「カルーゼル・デュ・ルーヴル 」で行われたアートフェア「サロン・アート・ショッピング・パリ(Salon Art Shopping Paris)」に展示された作品がこちらになります。
「カルーゼル・デュ・ルーヴル 」はルーヴル美術館から地下通路で直結する大型商業施設。年に2回開催される「サロン・アート・ショッピング・パリ」には、美術関係者やアートファンが世界中から来場する注目のイベントとなっています。
今回、松岡さんが展示したのは、丸いキャンパスに藍と銀墨汁で描いた神秘的な印象の作品。私自身、初めて見た時にとても心を惹かれた作品です。静けさの中に松岡さんらしい躍動感が内包されていて、大変パワーを感じました。
普通の会社員からソーシャルネットワークアーティストとして新しい一歩を踏み出し、自らの力でチャンスをつかんだ松岡智子さんの今後の活躍を楽しみにしています。
皆さんもタイミングが合いましたら、ぜひ作品展やライブペインティングパフォーマンスで松岡さんのエネルギーに触れてみてくださいね。
目黒区内ではありませんが、松岡智子さんの個展が銀座の「yuhaku Ginza gallery」で開催決定。お買い物ついでにぜひ足をお運びください。
■取材協力
松岡智子 「サロン・アート・ショッピング・パリ 2021」出展プロジェクト事務局
松岡智子:ホームページ、Instagram、Facebook