【目黒区】夏休みはホテル雅叙園東京「和のあかり×百段階段2022~光と影・百物語~」が見逃せない!
「和のあかり×百段階段2022~光と影・百物語」がホテル雅叙園東京でスタートしています。
毎年、東京都指定有形文化財「百段階段」を舞台に繰り広げられる夏の風物詩。2022年は7回目を迎えるそうです。
普段は非公開の文化財「百段階段」ですが、展示会開催中は宿泊客以外でも中に入ることができます。しかも、文化財もアートも写真撮り放題という太っ腹な企画(一部、撮影不可の場所もありますのでご注意ください)で大人気!
さっそくお邪魔してきましたので見どころをダイジェストでご紹介していきましょう。
実際は「九十九段」しかない、文化財「百段階段」
通称・百段階段と呼ばれる木造建築物は1935年(昭和10年)、旧・目黒雅叙園の3号館として建てられたものです。名称に「百段」とありますが、実際は九十九段しかありません。
諸説あるそうですが、一言でいえば縁起担ぎのためではないかといわれているそうです。
奇数は陽数であり、縁起の良い数。
日本には七五三や三々九度など、奇数にまつわるお祝い事がたくさんありますが、中でも縁起の良い数字の中で最大の「九」を重ねて九十九段としたという説です。
そしてもう一つは「完璧な状態=百」は長く続かないという考え方から、あえてひとつ数字をひいた。さらに良くなる余地を残して九十九段にしたという説です。
2022年の展示テーマは「光と影・百物語」、「百物語」も九十九話で止めるのがセオリー
2022年「和のあかり×百段階段」、展示テーマは「光と影・百物語」です。
そうです、もうお分かりですよね。文化財「百段階段」と怪談話「百物語」を引っ掛けた粋な演出になっていました。
「百物語」は100本のろうそくを囲んで怪談を語り合い、1つ話終えるごとに1本のろうそくを吹き消していくというのがスタイル。最後の1本のろうそくを吹き消すと怪異が現れる(青行燈の幽霊が出てくる)といわれています。
通常は百話目を語ることはタブーとされ、必ず九十九話で辞めなければならないそうです。
階段を登り、各部屋を巡るごとに展開されていくストーリー。黄昏時から夜、そして明け方へと時系列を追いながら怪しく幻想的な世界観が繰り広げられる「百物語」の世界を、文化財「百段階段」の超絶技巧の一流アート空間とともにさっそく楽しんでみたいと思います。
祭囃子と風鈴の音色に誘われ、異界への扉が開く
文化財「百段階段」へ続くエレベーターを降りると、出迎えてくれるのがかわいらしい金魚の形をしたちょうちんたち。
こちらは、山口県柳井市の民芸品である「金魚ちょうちん」モチーフにした、夏の一大イベント「柳井金魚ちょうちん祭り」です。愛嬌たっぷりのちょうちんからは、祭囃子や子どもたちの賑やかな歓声が聞こえてくるよう。
ちょっとワクワクするようなおもてなしですね
さらに、足を進めていくと、プロムナードには涼やかな音色を響かせる風鈴がずらり!
古来、風鈴の音色は邪気を払い、音の聞こえる範囲には、悪いものが寄り付かないと信じられてきました。
これから始まる百物語、そして帰りもきちんと厄祓いとお清めを、という演出となっていました。
一番手前から江戸川区にある篠原風鈴本舗「江戸風鈴」、小田原市にある柏木美術鋳物研究所「小田原風鈴」、富山県高岡市にある能作「鋳物・真鍮風鈴」を展示。夕暮れ時の涼やかな風を運んできます。
妖が闊歩する夜の森へ「十畝(じっぽ)の間・薄暮(はくぼ)のあかり」
照明作家 ・ 弦間康仁さんとかんざし作家・榮さんのコラボレーションで彩られているのが「十畝の間」。
榮さんは樹脂とワイヤー(ディップアートを応用したもの)を使った技法で、優美なデザインの花や蝶のかんざし・髪飾りを作っていらっしゃいます。今回「和のあかり×百段階段」への出展は6回目とのこと。
「十畝の間」に描かれている天井画「四季の花鳥図」に合わせ、床の間に四季の花かんざしを展示しています。
そして、照明作家・弦間康仁(げんまやすひと)さんが創り上げた夜の入口をイメージしたディスプレイ。薄暮の森で感じた怪しげな気配と、会場中央にあるたいまつが照らし出すどこかおどろおどろしい世界が不安感をかきたてます。
たいまつの灯りが生み出す影に目を凝らしてみましょう。榮さんの作品である蝶のかんざしが蜘蛛の巣にとらわれている影がくっきりと立ち昇ってきます。
弦間さんにお話をうかがったところ、最初は別の場所で組み立てて展示しようかと考えていたそうですがうまくいかないと判断。「十畝の間」ですべてゼロから演出・空間デザイン等を考え、作品を完成させていったそうです。
お部屋全体の演出や榮さんの美しいかんざしはもちろん、天袋や床の間などお部屋のあちこちには、弦間さんの「遊び心」が隠されています。そちらもぜひお見逃しなく。
自然の営みと循環をアートに「漁樵(ぎょしょう)の間」の竹あかり
手の込んだ彫刻や華やかな絵で贅沢に彩られた「漁樵(ぎょしょう)の間」では、静岡県にある株式会社 大測(だいそく)が取り組むプロジェクト「アカリノワ(環・和・輪)」による、美しい竹のアートが出迎えてくれます。
「アカリノワ」は代表・大村大輔さんが、故郷の静岡市葵区に放置され、荒廃する竹林を目の当たりにし、なんとか解消できないかと始めた活動。伐採した竹を地域資源として有効活用することで、豊かな自然環境を未来へと繋いでいく取り組みを行っています
竹あかりはその取り組みの一つであり、飾られた竹灯籠は竹チップにして道路を舗装する、炭にして土壌改良に活用する、竹紙にするなど無駄にしない&ゴミにしない、循環型のアートを心がけているといいます。
本業である測量技術を応用した緩和曲線・数列を用いて作られる模様は、幻想的で美しく夢心地に。妖の世界へかどわかされていくような気分を味わえました。
ホテル前にある「お七の井戸」も登場、「草丘(そうきゅう)の間・情念のあかり」
「草丘の間」の演出を手掛けたのは松竹衣裳 ・ 歌舞伎座舞台。「恋の情念」をモチーフとした「創造的なあかり」が楽しめます。
落語や歌舞伎の演目でおなじみ、亡霊と人間が織りなす怪しくも悲しいストーリー「牡丹灯籠」や、嫉妬心のあまりに生霊となる六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)が登場する「源氏物語」、拙い恋心が悲劇をもたらす「八百屋・お七」の物語」をテーマにした演出です。
皆さんもよーくご存じかと思いますが、ホテル雅叙園東京の入口には「八百屋・お七の井戸」が残されています。
天和の大火で焼け出され、避難した檀家の寺で小姓の吉三郎と恋仲になったお七。もう一度火事を起こせば吉三郎に会えると考え、自分の家に付け火をし、鈴ヶ森で火刑に処されてしまいました。
事件の後、出家した吉三郎(西連)がお七の菩提を弔うため、身を清めたという井戸跡がホテル前に残されている「お七の井戸」なのです。
今回のイベントで「草丘の間」に置かれたお七の井戸。こちらを覗き込みながら、スマホで自撮りすると、世にも恐ろしいものが写るという・・・。
歌舞伎座舞台株式会社の巧みな演出が光るフォトスポットです。
夜の奥深くにはどんな世界が待っている? 「静水(せいすい)の間・さかさまのあかり」
夜もだいぶ更けてきました。「静水の間」では、独創的な空間アートを手掛ける造形作家・中里繪魯洲(なかざとえろす)さんの作品で演出。
芒の原を背景に、馬頭を戴いた3本の樹が建てられています。馬と人間の立場をさかさまに置き換えて、夜の奥深く、見えることのない世界を表現。
オブジェのそばに立てられた水晶を覗き込むとそこに見えてくるのは?
美しい月あかりに照らし出された妖しくも切ない光景をぜひじっくりと体感してみてください。
物の怪たちが夜な夜な集まり、宴を楽しむこの世とあの世の境目へ
物の怪たちがさんざめく様子をぼんやりと照らし出す「真夜中のあかり」。
「静水の間」と「星光の間」をつなぐ渡り廊下を今回初めて展示スペースとして活用し、福岡県八女市で200年以上の歴史を持つちょうちん屋「伊藤権次郎商店」が、百物語の世界を「妖怪提灯」として表現しています。
ぼんやりと提灯から浮かび上がる物の怪たち。人々が寝静まった真夜中、普段は見えないその姿を現し、この世とあの世の境目をあいまいにします。
「星光の間」に現代アートとして表現された妖たちが大集結
「星光の間」では5名のアーティストたちが紡ぎだす妖たちの物語を展示。それぞれ作品には値段が表示され、購入することもできます。
気に入った展示作品を購入できるようにしたのは、今回初の試みだそうです。以下展示作品リストです。
- 造形作家・小澤康麿さんの作品「壁抜け猫又」「地中より生まれる」
- 切り絵作家・松風直美の作品「猫化姑獲鳥」「猫化遊女」
- 現代美術家/彫刻家の西島雄志さんの作品「白狐(銅線をつないで作った彫刻作品)」
- 画家・鈴木ひょっとこさんの家電をモチーフにした妖怪や幽霊の絵
- 造形作家・細山田匡宏さんの「人間の方が怖いというテーマで作られた3作品
作品を購入した場合、イベント終了後のお引渡しになるそうです。
光と影がつくる世界、「清方(きよかた)の間」では青行燈の幽霊がいよいよ出現!?
「清方の間」では夜明け前寸前の光と影の世界が繰り広げられています。
百物語もいよいよクライマックス、最後のろうそくを吹き消すと現れるといわれている青行燈の幽霊を繊細なタッチで描いたのは、日本画家・園田美穂子さんです。
こちらの絵、スマホをかざすと顔認証が現れるという鬼気迫る仕上がり。
この他、以下の展示物が楽しめます。
- 彫刻家・オオタキヨオさんの作品:3DCGを使った最新テクノロジーによる技術により、現実の三次元の構造・機能を抽象化した、内面の美を表現
- 炭化彫刻家・ヒョーゴコーイチさんの作品:木材を炭化させた後、磨き上げることで、自然との共存や循環・再生をテーマとした芸術表現を追求
- いろした工房:サンドブラスト技法やレーザー加工機を用いたガラスの器とランプ
- 第一印刷所:長岡花火をモチーフにした商品「かみはなび」
- ThinKniT(R)の3Dニット照明:ニット(編み物)を使ったライティングアイテム
- 山川建具:組子細工を使った灯り
いよいよお次はラスト「頂上の間」へ。果たして、クライマックスはどのような世界が待っているのでしょうか。
明るい陽射しが差し込む「頂上の間・朝のあかり 風翔ル、夏・薫ル」
百物語、九十九話目を終え、階段の九十九段目を登ると現れる「頂上の間」。こちらでは「朝のあかり 風翔ル、夏・薫ル」をテーマとした展示を楽しむことができます。
伝統様式である「生花(せいか)」と、植物の魅力を造形的に表現する「現代華(げんだいか)」を柱としている「古流かたばみ会」。
その次期家元として、従来の価値観にとらわれない作風が魅力の若手華道家・大塚理航さんが作り出す、ダイナミックで躍動感のある花・植物のエネルギーを感じさせる展示が待っていました。
そして現代美術家/絵画、インスタレーションである石井七歩さんの作品は「血の花の血」。
石井さんは「増殖」を構成要素として、視覚的な作品を制作。宇宙のフラクタルな大規模構造と、人々が普段体験する都市や社会との融合をテーマとした作品が特徴的です。
朝の光をイメージした作品は美しくもあり、どこか現実味のないあいまいな世界でもあり・・・。
朝が訪れ、現実世界に戻ってきたとホッとしていますが、もしかしたら元いた場所とは異なる世界に迷い込んでしまっているのかもしれません。
あるいは?
耳からも楽しめる「百物語」の世界、音楽家・ヨダタケシさんの演出
「和のあかり×百段階段2022」では、昨年に引き続き音楽家のヨダタケシさんがBGMを担当。ヨダさんはテルミンを操る音楽家であり、女神の歌声と評される独特なサウンドで、ファンタジックな世界を生み出しています。
各部屋の展示テーマに合わせてオリジナル楽曲を提供。ゲストヴォーカリストとして、前回同様舞台俳優・ダンサーである片山千穂さんを迎えて美しくも妖しい、幻想的な世界観を見事に表現していました。
展示作品とともに有機的に異世界へといざなってくれる、BGMにもぜひ注目してくださいね。
オリジナルサウンドトラックはミュージアムショップでも購入可。他にも百物語の世界を楽しめる限定グッズがたくさん並んでいますので、忘れずに立ち寄っていきましょう。
■取材協力