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【海から誕生したウルトラマン?】アリエルからプリキュアへと紡がれた神秘の「海」の物語とは?

二重作昌満博士(文学)/PhD(literature)

みなさま、こんにちは!

文学博士の二重作昌満(ふたえさく まさみつ)と申します。

特撮を活用した観光「特撮ツーリズム」の博士論文を執筆し、大学より「博士号(文学)」を授与された後、国内の学術学会や国際会議にて、日々活動をさせて頂いております。

もうすっかり暑くなりました。段々と寝苦しさも感じるようになってきましたが、

みなさまいかがお過ごしですか?

さて、今回みなさまにお届けするお話のテーマは「海とイマジネーション」です。

私達が暮らす地球という惑星の表面の7割を占めているのが、海です。

大陸を取り囲み、国や地域によって異なる色や表情を見せてくれる海。

米国ハワイ州・ノースショアにて(2017年筆者撮影)
米国ハワイ州・ノースショアにて(2017年筆者撮影)

中国、山東省威海市内にて(2017年筆者撮影)
中国、山東省威海市内にて(2017年筆者撮影)

青く美しいだけでなく、母のような優しさを感じ取れる時もあれば、

父のような厳しくも力強い勇気を促される瞬間もあります。

神奈川県平塚市逗子にて(2017年筆者撮影)
神奈川県平塚市逗子にて(2017年筆者撮影)

漁業や海洋レジャー等、青く広がる海の恩恵を有史以前より受けてきた人類は、

水平線の向こうにはなにがあるのだろう?海のむこうには素晴らしい世界があるのでは?

と想像力を働かせ、まだ見ぬ世界への探求を続けてきました。

その最たる例が大航海時代(※1)ですが、世界各地の信仰や文化面においても影響を与えており、 沖縄県や鹿児島県・奄美群島の各地におけるニライ・カナイ信仰(※2)、ハワイの神話における海の女神・ナーマカオカハイと火の神ペレの物語(※3)等・・・

人類の海への探求と想像は、決して留まることはありませんでした。

つまり、地球の海は人類に対して自然的な恩恵だけでなく、神話や伝承をつくる想像力ももたらしてくれていたのです。

沖縄県 美ら海水族館にて(2015年筆者撮影)
沖縄県 美ら海水族館にて(2015年筆者撮影)

沖縄美ら海水族館
住所:905-0206沖縄県国頭郡本部町石川424
TEL:0980-48-2741
公式サイト:https://churaumi.okinawa/(外部リンク)

※1:15世紀半ばから17世紀半ばまでの期間にかけ、ヨーロッパ人によってアフリカやアジア、アメリカ大陸への大規模航海が行われていた時代
※2:遥か遠い東の海の彼方にあるとされる、豊穣や生命の源である神界「ニライ・カナイ」に対する信仰。東宝制作の特撮映画『モスラ2 海底の大決戦』では、ニライ・カナイの遺跡を舞台に、モスラと怪獣ダガーラとの激戦が描かれた。
※3:海の女神・ナーマカオカハイは火の神ペレの姉であり、彼女の夫がペレと浮気をしたために激怒し、ペレを殺してしまうというもの。ペレは霊となってキーラウエアのハレマウマウ・クレーターに住み着いたといわれる。

時が移り変わって現代。人々が海に対して描く想像と畏敬の念は、私達が日頃親しんでいる、国内外のアニメ、漫画や特撮作品等、いわゆる「サブカルチャー」にも反映されてきました。そこで今回は「海とイマジネーション」をテーマに、株式会社円谷プロダクション制作のウルトラマンシリーズ、ウォルト・ディズニー・カンパニー制作の映画『リトル・マーメイド』、株式会社東映アニメーション制作のプリキュアシリーズから成る3つの視点から、各作品に登場した海のヒーロー、ヒロイン達の活躍と変遷をご紹介します。

ニュージーランド タスマン地方 エイベル・タスマン国立公園(2017年 筆者撮影)
ニュージーランド タスマン地方 エイベル・タスマン国立公園(2017年 筆者撮影)

☆本記事は「私サブカルチャーものにくわしくないわ」、「難しい話はちょっと・・・」というみなさまにもお届けできるよう、概要的かつ深すぎないお話を心がけておりますので、お好きなものを片手に、ゆっくりご覧頂けますと幸いです。

【地球が生んだウルトラマン】青い海の巨人、ウルトラマンアグルの誕生とその葛藤とは?

みなさまは、ウルトラマンシリーズをご覧になったことはありますでしょうか?

ウルトラマンシリーズは株式会社円谷プロダクション制作の特撮ヒーロー番組『ウルトラマン(1966)』を起点とする特撮シリーズです。1966年に『ウルトラマン』が初放映されると、本作はたちまち大人気番組に成長し、『ウルトラセブン(1967)』や『帰ってきたウルトラマン(1971)』、『ウルトラマンタロウ(1973)』や『ウルトラマンティガ(1996)』等、現在まで派生作品が制作され続けており、7月8日より最新作『ウルトラマンブレーザー(2023)』(外部リンク)が放送予定です。

ウルトラマンシリーズ(筆者撮影)
ウルトラマンシリーズ(筆者撮影)

さて、当シリーズの原点である『ウルトラマン(1966)』は、M78星雲「光の国」からやって来た宇宙人ウルトラマンが、科学特捜隊のハヤタ隊員と一体化し、陸海空や宇宙から現れる怪獣達から地球を守る物語。

つまり、ウルトラマンは宇宙からやって来た存在であり、この「ウルトラマン=M78星雲の宇宙人」という設定は、後のシリーズに登場するウルトラマン達にも継承されていきました。

・・・ところが、現在まで登場した約50体のウルトラマンの中で、宇宙から来たのではなく、地球が生み出したウルトラマン達がいたことをご存知でしょうか?

そのウルトラマン達こそ、1998年にテレビ放送された『ウルトラマンガイア』に登場した、ウルトラマンガイアとウルトラマンアグルでした。

『ウルトラマンガイア(1998)』よりウルトラマンガイア(右)とウルトラマンアグル(左)(筆者撮影)
『ウルトラマンガイア(1998)』よりウルトラマンガイア(右)とウルトラマンアグル(左)(筆者撮影)

両ウルトラマンは、従来のウルトラマンとは異なり宇宙出身ではなく、宇宙からやって来る未知なる存在(根源的破滅将来体)が送り込む怪獣達から地球を守るため、地球そのものが生み出した存在だったのです。

ウルトラマンガイアは「大地の赤き光の巨人」、ウルトラマンアグルは「海の青き光の巨人」であり、陸と海を象徴する両者は、本来ならば協力して戦う存在であるのですが、本作において地球を守ることへの考え方の違いから何度も衝突しており、状況によっては決闘にまで発展してしまったこともありました。

「どうしてそんなに仲が悪いの?」といいますと、根本的な対立要因として「地球を守るのに人類は必要か否か?」という両者の主張の食い違いでした。

つまり、「地球は人類を含めて守るべきだ」と信じるガイアに対し、

「環境を破壊する人類は地球にとって癌細胞だ」と排除を主張したのがアグルだったのです。

ウルトラマンアグルに変身する藤宮博也がこのような考えに至った背景には、「地球を守るための排除対象は人類」という自らが制作したコンピューターの回答を信じてしまったことが根底にあるのですが、彼自身も恩師の死や、柄の悪い連中に袋たたきにされたりと、彼自身の内面での葛藤や、人間達の醜い部分を体感したこともありました。

「人間は汚い・・・人間は醜い・・・人間なんて、人間なんて、みんな地球から吐き出してやるっ!」(ウルトラマンガイア第25話『明日なき対決』より藤宮博也のセリフ)

しかしそんなアグルも、彼の身を案じる女性(吉井玲子)の存在や、もう一人のウルトラマンであるガイアとの交流を通じて、次第に考えを改めていきます。

アグルの力を得たガイア(スプリームヴァージョン、右)と復活を果たしたウルトラマンアグル(V2、左)(筆者撮影)
アグルの力を得たガイア(スプリームヴァージョン、右)と復活を果たしたウルトラマンアグル(V2、左)(筆者撮影)

その結果、藤宮はウルトラマンの力をガイアに託して、一度はアグルへの変身能力を失うも、ガイアの窮地に変身能力を取り戻し、ガイアと共闘しながら怪獣達との戦いに身を投じることになります。

「アグル!俺はもう一度、戦いたい!!」(ウルトラマンガイア第41話「アグル復活」より藤宮博也のセリフ)

私もこの『ウルトラマンガイア』という作品をリアルタイムで視聴していた、いわば「リアタイ世代」なのですが、これまでのウルトラマンが地球を守る存在であったのに対し、人類は滅ぼすべきだと主張したウルトラマンの登場は衝撃的でした。このウルトラマンアグルはガイアと並ぶ人気キャラクターとして現在まで定着し、現在までたくさんの商品が発売されてきたほか、放送終了から約25年経過した近年は、彼の新たな姿(スプリームヴァージョン)もお披露目となるなど、その人気は健在です。

ウルトラマンアグル関連玩具(1998年~2009年まで 筆者撮影)
ウルトラマンアグル関連玩具(1998年~2009年まで 筆者撮影)

2021年のウルトラマン催事で初登場したウルトラマンアグル(スプリームヴァージョン、左より2番目)とウルトラマンガイア(スプリームヴァージョン、右より2番目)(筆者撮影)
2021年のウルトラマン催事で初登場したウルトラマンアグル(スプリームヴァージョン、左より2番目)とウルトラマンガイア(スプリームヴァージョン、右より2番目)(筆者撮影)

【『リトル・マーメイド』の大成功の裏で】アカデミー賞受賞作が商品展開に大苦戦した背景とは?

みなさまは海を舞台としたアンデルセンの『人魚姫』の物語をご存知でしょうか?

『人魚姫』とは、1837年に発表されたデンマークの童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセン作の物語です。どんなお話しなのか、概要的にまとめますと・・・

『人魚姫』(ハンス・クリスチャン・アンデルセン作)
6人姉妹の末っ子である人魚姫が15歳の誕生日に、海上の船に乗っていた人間の王子に恋をします。しかし嵐が発生し王子は海へと投げ出され、人魚姫は王子を助けることに成功します。その後、海底へと戻った人魚姫は王子に会いたい気持ちを抑えられず、海の魔女のもとを訪れて、その美しい声と引き換えに人間になる取引をします。しかしその取引とは「歩くたびにナイフで刺されるような激痛が走る人間の足を得るかわりに美しい声を失い、王子の愛を得られなければ泡となって消えてしまう」というものでした。人間になった人魚姫は王子と再会しますが、王子は彼女が命の恩人であると知らず、さらに別の女性との縁談話が持ち上がったことで、その女性こそが命の恩人であると誤解してしまいます。その上、王子が彼女との結婚を決めてしまったことにより、人魚姫の恋は叶わなくなってしまいました。妹の身を案じた人魚姫の5人の姉達は自分達の髪と引き換えに魔女から短剣をもらい、これで王子を刺すことで人魚から人魚に戻れることを提案します。しかし人魚姫は王子を刺すことができず、海に身を投げて泡となってしまいました。しかし人魚姫は風の精となり、空に流れ続けるのでした。

空想の産物ともいえる海の生物、人魚と人間の悲恋を描いた本作。「なんて救いようのない話だ」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、このように本作のヒロインである人魚姫が悲劇的な結末を迎えたのに対し、原作をハッピーエンドの物語としてリメイクしたのが、みなさまご存知のディズニー映画『リトル・マーメイド(1989)』でした。

米国ハワイ州 アウラニ・ディズニーリゾート内にて(2012年筆者撮影)
米国ハワイ州 アウラニ・ディズニーリゾート内にて(2012年筆者撮影)

アウラニ・ディズニー・リゾート & スパ コオリナ・ハワイ
・住所:92-1185 Ali'inui Dr, Kapolei, HI
・TEL:+1 866-443-4763
・公式サイト:https://www.disneyaulani.com/jp/(外部リンク)

先日、ディズニー制作の実写版映画『リトル・マーメイド』(外部リンク)が公開されたことも記憶に新しいかと思いますが、この『リトル・マーメイド(1989)』がどんな物語だったか、少し覗いてみましょう。

『リトル・マーメイド(英語タイトル:The Little Mermaid)』
人間の世界に憧れる、海の王・トリトン王の娘アリエルが、船上で出会ったエリック(王子)に恋をします。嵐により船から荒海へと投げ出されたエリックの命を助けたアリエルは彼のことが忘れられず、さらに人間嫌いの父の怒りを買ったことで思いあまり、海の魔女・アースラと取引をします。その取引とは、アリエルが人間になる代わりに、彼女の声と、3日目の日没までにエリックに愛され真実のキスを交わさなければ、アースラの奴隷になるという非道な条件でした。人間になったアリエルはエリックと再会し、次第に心惹かれていくエリックですが、アースラの妨害にあい、アリエルは日没まで真実のキスをすることは叶いませんでした。アースラの目的は、自らを追放したトリトン王への復讐であり、その娘であるアリエルを利用することで、海の支配をもくろんでいたのです。真実を知ったエリックはアースラに戦いを挑み、アースラは滅びます。アリエルがエリックを愛していることを理解したトリトン王は、アリエルを人間の姿に変え、エリックは彼女と結ばれ物語はハッピーエンドを迎えるのでした。

『リトル・マーメイド』は、アンデルセン原作の『人魚姫』を題材に、悲劇的な結末だった物語をハッピーエンドに、原作では名もなかった海の魔女を強大な悪役として描くことを基本方針に物語が公開され、記録的な興行成績を上げる大ヒットを記録しました。また本作の音楽はアカデミー最優秀オリジナル作曲賞、最優秀主題歌賞(アンダー・ザ・シー)に輝きました。

本作の興行的な大ヒットは、『美女と野獣』、『アラジン』、『ライオン・キング』と1990年代前半の一連の大ヒットに繋がる新時代の幕開けになったといわれています。

その後、映画次回作やテレビシリーズの制作等、アリエルは数あるディズニープリンセスの中でも根強い人気を博しつつ現在に至っていますが、実は『リトル・マーメイド』はこれ程の好成績を挙げたのにもかかわらず、本作公開当時、人形やゲームといった関連商品が振るわなかったという逸話が残されています。

東京ディズニーランドのスタートアップチームに参加していたダグ・リップ氏によれば、『リトル・マーメイド』公開当時、本作の関連商品は数も種類もお粗末で、ディズニーストアにも僅かな種類の商品しか置いていない状態だったようです。その上で、商品開発に取り掛かった時期も遅く、さらに商品化の企画から店等に並ぶまでの時間がかかりすぎたことを指摘しています。

ワイキキ水族館(2018年筆者撮影)
ワイキキ水族館(2018年筆者撮影)

ワイキキ水族館(Waikiki aquarium)
住所:2777 Kalakaua Ave, Honolulu, HI 96815
TEL:+1 808-923-9741
公式サイト:https://www.waikikiaquarium.org/(外部リンク)

この『リトル・マーメイド』の商品展開の失敗は、ディズニー社内のコミュニケーションと市場理解が不足しており、小さな女の子がマーメイドのお人形でどんな遊びをするのか、映画の脚本やマーケティング担当者にもそういった知識が皆無であり、正に「惜しい機会を逃してしまった!」と一斉に声を上げる状態だったようです。

この教訓が生かされたのが、映画『美女と野獣』と『ライオン・キング』でした。両作とも映画が大ヒットしただけでなく、関連商品の売り上げも記録的な数字を達成しました。

今でこそディズニー映画の新作が公開されれば、公開を控えた週には既に、ディズニーストア店内でおもちゃや洋服、雑貨等が棚いっぱいに並べてある状況ですが、当時はまだこのような認識は確立されておらず、商品販売には苦労をしていたようです。

【アリエルからプリキュアへ】はかなく消えた人魚姫が自立した強い女性へ変身したわけとは?

このように、アンデルセンの『人魚姫』の世界を再構築した『リトルマーメイド』は、映画のヒットのみならず、東京ディズニーシー(外部リンク)を筆頭にテーマパークにおいてもその世界観が受け入れられたのに対し、日本のアニメ作品においても、先述した『人魚姫』や『リトルマーメイド』を踏まえた上で、新たな人魚姫像を構築しようとした国民的アニメシリーズが存在します。

そのアニメシリーズこそ、東堂いづみ先生の原作で、2004年に放送が開始された東映アニメーション制作のアニメ作品『ふたりはプリキュア』に端を発するプリキュアシリーズでした。

「女の子だって暴れたい!」というキャッチコピーのもとで誕生した『ふたりはプリキュア(2004)』は、性格の異なる2人の女の子が伝説の戦士・プリキュアとなり、邪悪な組織と戦う物語。

好評を博した『ふたりはプリキュア(2004)』はその後、『ふたりはプリキュア Max Heart (2005)』や『ふたりはプリキュア Splash Star(2006)』と派生作品が毎年放送され、以降も『Yes!プリキュア5 (2007)』、『スマイルプリキュア(2012)』、『ヒーリングっどプリキュア(2020)』と世代を跨ぎながらシリーズ化され、現在放送中の『ひろがるスカイ! プリキュア 』において、プリキュアはシリーズ誕生20周年を迎えました。

『ふたりはプリキュア(2004)』から『ひろがるスカイ!プリキュア(2023)』まで歴代プリキュアのフィギュア(筆者撮影)
『ふたりはプリキュア(2004)』から『ひろがるスカイ!プリキュア(2023)』まで歴代プリキュアのフィギュア(筆者撮影)

そんなプリキュアシリーズにおいて、アンデルセンの『人魚姫』を継承したプリキュアが複数登場しました。しかし、その人物像は作品によって変化を遂げていたのも特徴であり、中には人魚姫をモチーフにしながらも、悲恋の末に泡となって消えた原作を真っ向から否定する強い女性として描写された者もいました。

そこで本記事では、プリキュアシリーズ20年の歴史の中で登場した、2人の人魚姫をモチーフにしたプリキュアをご紹介します。

最初にご紹介するのは、プリキュアシリーズ第12作目『Go! プリンセスプリキュア(2015)』に登場した「海のプリンセス」ことキュアマーメイド(海藤みなみ)。同シリーズにおいて初めて人魚をモチーフとしたプリキュアであり、変身する海藤みなみは大企業「海藤グループ」の令嬢かつ文武両道の才色兼備であるため、周囲からは「学園のプリンセス」または「みなみさま」と呼ばれる、いわば「高嶺の花」のような存在でした。

強く!やさしく!美しく!『Go! プリンセスプリキュア(2015)』。写真左がキュアマーメイド(筆者撮影)
強く!やさしく!美しく!『Go! プリンセスプリキュア(2015)』。写真左がキュアマーメイド(筆者撮影)

しかしながらお化けを怖がっていたり、苦手だった泳ぎをイルカのサポートを受け克服したこと、さらに海の獣医になりたいという将来の夢が家族の意に反するのではないかと苦悩していたこと等、決して完璧な存在ではないことも彼女の特徴でした。本作最終回では大人の女性になり、海洋学者となったみなみの姿が描かれます。

キュアマーメイド(海藤みなみ)関連商品(一部は販売を終了しております。筆者撮影)
キュアマーメイド(海藤みなみ)関連商品(一部は販売を終了しております。筆者撮影)

そんなキュアマーメイドですが、『Go! プリンセスプリキュア(2015)』のテレビ放送だけでなく、本作のコミカライズ(漫画版)作品でも彼女の活躍が描写されており、なんと彼女自身が人魚姫の役を演じ、海の泡となって消える人魚姫の運命を覆す姿が描かれました。

上北ふたご先生による漫画『Go! プリンセスプリキュア(2015)』。人魚姫のお話は写真左の1巻に収録(筆者撮影)
上北ふたご先生による漫画『Go! プリンセスプリキュア(2015)』。人魚姫のお話は写真左の1巻に収録(筆者撮影)

『Go! プリンセスプリキュア』①かきおろし
本作は七瀬ゆい(プリンセスプリキュア達をサポートする友人)が創造した絵本の世界。人魚の天敵である人間(王子)に恋をしてしまったために、人魚の国から勘当された人魚姫(キュアマーメイド)は、魔女にお願いして尾びれを足に変えてもらいます。しかしその交換条件として美しい声を奪われ、ひと足歩くごとに激痛が走るほか、王子が他の女性と結婚すれば海の泡となって消えるという呪いをかけられてしまいました。人魚姫は王子と再会できたものの、王子は別の娘を命の恩人と勘違いしてしまいます。そんな人魚姫の姿に胸を痛めた花花姫(キュアフローラ)は、人魚姫に魔法の靴を与え、その靴を履いて華麗に踊る人魚姫の姿を見て王子は真実を思い出し、人魚姫は王子と結ばれ、泡となって消える運命を覆すことが出来たのでした。

このように人魚姫を題材としたキャラクターであるものの、原作で描かれた悲劇を覆し、運命に抗う自立した強い女性を描いていくというプリキュアシリーズの作風はその後も継承され、2人目の人魚姫のプリキュアは、人間に憧れる人魚そのものがプリキュアに変身するという描写が試みられました。

プリキュアシリーズ第18作目『トロピカル〜ジュ!プリキュア(2021)』では、プリキュアの一員として、シリーズ初の人魚のメンバーが登場しました。

『トロピカル〜ジュ!プリキュア(2021)』は、架空の町である「あおぞら市」を舞台に、4人の少女達(キュアサマーこと夏海まなつ達)と人魚の出会い、少女達のプリキュアへの覚醒、さらに本作の敵陣である「あとまわしの魔女」一味とプリキュアの戦いを描いた物語。

『トロピカル〜ジュ!プリキュア(2021)』より5人の主人公。(写真左より)あすか、みのり、ローラ、まなつ、さんご(筆者撮影)
『トロピカル〜ジュ!プリキュア(2021)』より5人の主人公。(写真左より)あすか、みのり、ローラ、まなつ、さんご(筆者撮影)

そんな本作において重要なキーパーソンであるのが、少女達をプリキュアへと覚醒させた人魚の存在でした。

彼女の名前はローラ(本名:ローラ・アポロドース・ヒュギーヌス・ラメール)。人魚の国である「グランオーシャン」から来た人魚であり、「あとまわしの魔女」によって襲撃された人魚の国を救うため、世界を守る伝説の戦士・プリキュアをみつける使命を帯びて、あおぞら市へとやって来ました。

彼女の性格ですが、我が強い上に自惚れ屋であり、明るくお調子者。さらに「グランオーシャンの次期女王になる!」という野心のもと、まなつ達に「あなたプリキュアにならない?」と接触し、当初はプリキュアを自らの野心を叶える捨て駒とさえ考えていました。

しかし、そんなローラもまなつ達と学校生活を共にし、あとまわしの魔女の一味との戦いを経ながら、まなつ達と絆を深めていきます。やがて、これまで人間を見下してきた彼女の中には「人間になりたい」という気持ちが芽生えるようになりました。

上北ふたご先生による漫画『トロピカル〜ジュ!プリキュア(2021)』(筆者撮影)
上北ふたご先生による漫画『トロピカル〜ジュ!プリキュア(2021)』(筆者撮影)

そんな中、あとまわしの魔女の一味達によってまなつ達が痛めつけられた際、ローラは「絶対に許さない!」と怒りを爆発させ、自らも5人目のプリキュアである「キュアラメール」へと覚醒を遂げます。さらに変身を解除すると人間の姿になっており、彼女は強い意志のもとで「人間になりたい」という願いを自らの意思で叶えたのでした。

このように番組開始当初は、ローラはわがままかつ利己的な性格であったものの、実は情に厚く素直な一面があり、さらに仲間の窮地に全力で向き合う姿も描かれていきながら、最後には強い意志によって人間になるという夢を叶えており、自立した存在として描かれていました。

『トロピカル〜ジュ!プリキュア(2021)』において、人魚をモチーフにしたキャラクターを登場させるにあたり、制作側が念頭に置いたのはアンデルセンの『人魚姫』ではなく、先述したディズニー映画の『リトルマーメイド(1989)』でした。

シリーズ構成の横谷昌宏氏によれば、本作のモチーフに『人魚姫』を取り入れるにあたり、今(放送当時)の子ども達は『人魚姫』というと『リトルマーメイド』をイメージして、アンデルセンの方はピンとこないという話が出たことや、王子様のために生きる女性よりも、自立した強い女性の方が好きとコメントされています。

この制作背景から、『トロピカル〜ジュ!プリキュア(2021)』本編では原作にあった恋愛要素は排され、メイクをするのは王子様(だれか)のためではなく、敵と戦う際に変身する(または気合いを入れる)手段として描写されているほか、ローラ自身も『人魚姫』の物語に反発しています(本作第4話)。

こうした日米アニメ作品を通じた『人魚姫』における女性像の変化も魅力的だと思います。

今回ご紹介した作品ですが、『ウルトラマンガイア(1998)』は動画配信サービス『TSUBURAYA IMAGINATION』(外部リンク)にて、『リトル・マーメイド』はDisney Plus(外部リンク)、プリキュアシリーズもamazonプライムビデオ(外部リンク)にて配信中です。

もし本記事をご覧になり、作品に興味を持たれましたら、こちらをご覧頂ければと思います。

最後までご覧いただきまして誠にありがとうございました。

参考文献一覧
・アロハ検定協会、「アロハ検定 オフィシャルブック」、株式会社ダイヤモンド・ビッグ社
・ダグ・リップ、「ディズニー大学」、株式会社アルファポリス
・小宮山みのり、「ディズニートリビア~夢みるオトナたちに捧ぐ~」、株式会社講談社
・小宮山みのり・境沢あづさ、「ディズニーアニメーション大全集 新版」、株式会社講談社
・上北ふたご、「プリキュアコレクション Go!プリンセスプリキュア 1」、株式会社講談社
・川井久恵、「アニメージュ2022年1月号増刊 トロピカル~ジュ!プリキュア特別増刊号」、徳間書店
・水谷隆介、「トロピカル~ジュ!プリキュア オフィシャルコンプリートブック」、株式会社学研プラス

この記事をご覧頂き、「海外での日本特撮やアニメ作品の展開に興味を持った」という皆様、私の過去の記事やTwitterにて、海外現地での様子や商品展開についてもお話をさせて頂いております。宜しければ、ご覧ください。

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二重作昌満(CREATORSサイト)

博士(文学)/PhD(literature)

博士(文学)。日本の「特撮(特殊撮影)」作品を誘致資源とした観光「特撮ツーリズム」を提唱し、これまで包括的な研究を実施。国内の各学術学会や、海外を拠点とした国際会議へも精力的に参加。200を超える国内外の特撮・アニメ催事に参加してきた経験を生かし、国内学術会議や国際会議にて日本の特撮・アニメ作品を通じた観光研究を多数発表、数多くの賞を受賞する。国際会議の事務局メンバーのほか、講演、執筆、観光ツアーの企画等、多岐に渡り活動中。東海大学総合社会科学研究所・特任助教。

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