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木村拓哉主演『レジェンド&バタフライ』では描かれない 武田信玄が織田信長の趣味を聞く話

濱田浩一郎歴史家・作家

木村拓哉さん主演の映画『レジェンド&バタフライ』が公開されています。木村さんが演じるのは、有名な戦国大名の織田信長。『レジェンド&バタフライ』には、羽柴秀吉や明智光秀、徳川家康などの武将は登場してきますが、信長と対決することになる甲斐国(山梨県)の大名・武田信玄については描かれていません。

その信玄が信長のことについて、あれこれと僧侶に聞いたという話が『信長公記』(信長の家臣・太田牛一が書いた書物)には載っています。その逸話からは、信長の死生観というものもうかがう事ができるのです。

天台宗の僧侶・天沢が関東に行く途中、甲斐国に立ち寄ります。「信玄公にご挨拶していくが良い」との役人の勧めもあり、天沢は信玄と面会することになるのです。

信玄は天沢に「どこの国の生まれか」とまず尋ねます。天沢が「尾張国の生まれでございます。上総介殿(信長)の清須城より50町東、天永寺に住んでいます」と答えると、信玄は信長の様子をありのまま申せと天沢に要求。

天沢は、信長が毎朝、馬に乗ること。鉄砲の稽古をすること。弓や兵法の稽古を師匠を付けて行っていること、鷹狩に出かけていることなどを話します。ちなみに『レジェンド&バタフライ』でも信長の鷹狩りの場面が描かれていました。 

さて、信玄は天沢に「その他に信長に趣味はあるか」と聞きます。「舞いと小歌が趣味にございます」と天沢。天沢は信長が敦盛を舞うことも伝えます。「人間50年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり」(人間の一生は50年ばかり、まことに短い、夢幻のようなものだ」

信長がこの歌を歌いつつ、舞う事を天沢は信玄に話したのでした。「小歌も上総介殿は歌います」と天沢が言うと、信玄は「変わったものが好きだな」と述べたということです。

信長が歌った小歌というのは「死のふは一定、しのび草には何をしよぞ、一定かたりをこすよの」(死は誰にでも必ず訪れるもの。生前を偲ぶたよりとして、生きている間に何をなそうか。人はそれをよすがとして、必ず思い出を語ってくれるであろう)というもの。

信玄は天沢に、信長が歌う真似をしてみよと命じます。天沢は歌った事がないと一度は辞退しますが、重ねて勧められたので、ついに歌ったという事です。

それにしても、敦盛や小歌からは、信長の死生観というものが垣間見えます。その事を知り、信玄は信長のことを(只ならぬ奴)と感じ取ったでしょうか。そこまでは、残念ながら『信長公記』には書かれていません。ただ、信長の鷹狩りの様(家臣を適切に配置し、獲物を仕留める)を聞き「信長が武者の心を掴んでいることも尤もなことだ」と感嘆したそうです。

歴史家・作家

1983年生まれ、兵庫県相生市出身。皇學館大学文学部卒業、皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。『播磨赤松一族』(KADOKAWA)、『北条義時』『仇討ちはいかに禁止されたか?』(星海社)、『家康クライシスー天下人の危機回避術ー』(ワニブックス)ほか著書多数

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