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木村拓哉主演『レジェンド&バタフライ』入門 綾瀬はるか演じる信長の妻・濃姫はどのような女性だったのか

濱田浩一郎歴史家・作家

木村拓哉さん主演の映画『レジェンド&バタフライ』(以下、『レジェンド』と略記)が公開されています。木村さんが演じるのは、戦国武将・織田信長。信長の妻・濃姫を女優の綾瀬はるかさんが演じています。

『レジェンド』での濃姫は、これまで大河ドラマや時代劇で描かれてきた濃姫とは違い、破天荒。殺陣もするし、気が強い。信長にも堂々と意見します。異色の濃姫ではありますが、私としては違和感なく、映画に没入することができました。それも、綾瀬はるかさんという女優の力がなせる業だと感じました。

さて、では濃姫とはどのような女性だったのでしょうか?我々は「濃姫・濃姫」とよく言いますが、それは彼女の名前ではありません。濃姫とは「美濃国(岐阜県)出身の姫」という意味の名称に過ぎないのです。しかも、濃姫という名称は、しっかりした史料に登場するわけではありません。江戸時代中期頃に出来た俗書に載るのみです。

信長の生涯を記した『信長公記』(著者は信長の家臣・太田牛一)には、濃姫が信長に嫁ぐ記述がありますが「道三が息女、尾州へ呼取り候キ」とあります。美濃国の「斉藤道三の息女(これが濃姫のこと)を尾張国へ呼び迎えられた」(信長と濃姫との縁組)という意味です。

信長の妻を「濃姫」ではなく「帰蝶」「胡蝶」(蝶のこと)と記す書物もありますが、それら書物も信頼性には欠けており、信長に嫁いだ道三の娘が何という名であったのかは、残念ながら不明です。

濃姫の生年は天文4年(1535)とする書物もありますが、はっきりしたことは分かりません。この記述に従うとすると、信長は天文3年(1534)の生まれですので、信長の方が1つ上ということになります。濃姫の母は、明智家に縁ある小見の方と言われますが、定かではありません。

信長と結ばれた濃姫ですが、子供には恵まれなかったようです。『信長公記』には、濃姫が信長に嫁いだという記述があるだけで、その後、濃姫がどのような生涯を送ったかについては書いていません。謎多き、信長の妻・濃姫。その濃姫の一生を『レジェンド』は、想像を膨らませて、見事に描いてくれたと思います。

歴史家・作家

1983年生まれ、兵庫県相生市出身。皇學館大学文学部卒業、皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。『播磨赤松一族』(KADOKAWA)、『北条義時』『仇討ちはいかに禁止されたか?』(星海社)、『家康クライシスー天下人の危機回避術ー』(ワニブックス)ほか著書多数

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