Yahoo!ニュース

木村拓哉主演『レジェンド&バタフライ』入門 織田信長が焼かれた斧を持って歩み、人を成敗させた深い事情

濱田浩一郎歴史家・作家

木村拓哉さん主演の映画『レジェンド&バタフライ』が公開されています。2月15日には、同映画のオンライン・ファンセッションイベントが開催され、木村さんは大友啓史監督とともに出席されていました。

さて、木村さんが、『レジェンド』で演じるのは、有名な戦国武将・織田信長。信長と言えば、気性が荒く怖いイメージが一般にはありますが、そうではなく、優しく思いやりのある面もこれまで見てきました。とは言え、信長は「仏」の顔を見せる時ばかりでなく「鬼」の顔を覗かせる時もあったのです。では、信長はどのような時に怒り、人を殺したのでしょうか?

『信長公記』(信長の家臣・太田牛一が記した信長の一代記)には、尾張時代の信長にまつわる次のような話が載っています。尾張国海東郡大屋というところに、織田信房の家来で甚兵衛という庄屋がおりました。そして、隣村には左介という男がいて、2人はとても仲が良かったそうな。

ちなみに左介は、信長の乳母の子・池田勝三郎(恒興)の家臣でした。勝三郎は信長とは「乳兄弟」であり、当時、力を持っていました。ところが、甚兵衛が年貢を納めるため、清須に行っている間に、なんと、この左介、甚兵衛の家に夜、強盗に入ったのです。

甚兵衛の妻は、左介にしがみつき、左介の刀の鞘を奪います。この事件、どう考えても左介が悪いのですが、双方が尾張守護の斯波氏に言い分を主張。現代では考えられませんが、火起請(焼いた鉄を握らせ、それを持てるかどうかで、主張の真偽を判定すること。取り落したら偽りを言っていることとされた)で判定することになります。

山王社の神前にて、火起請は行われます。左介は焼かれた鉄(手斧)を取り落としてしまうのですが、池田の家来衆は奢っていたということもあり、左介を庇います。そうしたところに、鷹狩り帰りの信長が登場。

大勢の者がざわついているのが気になり「どうしたのか」と尋ねます。双方の言い分を聞いた信長は、顔色を変えたといいます。左介(池田側)が不正をしていると勘付いたのでしょう。信長は左介が焼かれた鉄を取った時の様子を細かく聞き取ります。そして「どのくらい鉄を焼いて、左介に取らせたのか。やって見よ」と命じます。

鉄は焼かれて赤くなります。信長はそれを見て言いました。「私が焼かれた鉄を上手く取ることができたならば、左介を成敗する。そのように心得よ」と。信長の手には焼かれた斧が置かれます。信長は斧を取り落とすことはありませんでした。

3歩歩んで、斧を柵に置いた信長は「確かに見ていたな」と一同に言うと、左介を成敗させたのでした。『信長公記』は、信長のこの裁きを「凄まじい」と記しますが、信長という人物が不正を憎んでいたことが分かりますし、自らの乳母の子の家臣であっても依怙贔屓しない公正さがありました。もちろん、現代から見たら、信長の裁き方も問題ではあるのですが・・。

歴史家・作家

1983年生まれ、兵庫県相生市出身。皇學館大学文学部卒業、皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。『播磨赤松一族』(KADOKAWA)、『北条義時』『仇討ちはいかに禁止されたか?』(星海社)、『家康クライシスー天下人の危機回避術ー』(ワニブックス)ほか著書多数

濱田浩一郎の最近の記事