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貴重な文化財「残念石」の大阪・関西万博トイレ活用計画に反対するこれだけの理由【歴史家解説】

濱田浩一郎歴史家・作家

京都府木津川市の木津川流域に残されたいいわゆる「残念石」。一般的には、江戸時代初期に大坂城再建のための石垣用に切り出されながら、「残念ながら」使われなかった石のこととされている(しかし、実際には、城作りの名手と言われる武将・藤堂高虎が、城の普請がいつあっても良いように、貯めていた石材のことである。残石という)。この残念石を2025年開催予定の大阪・関西万博会場のトイレの建物の柱に使う計画が浮上し、波紋を広げている。長辺約3メートル、最大13トンの4個の残念石を万博会場のトイレの建物の柱に使う計画だと言う。ちなみに、残念石の表面には、石を切り出される際に開けられた矢穴などが残っている。単なる建築廃材ではないのだ。

木津川市の市文化財保護課は「万博での計画も保存活用の一環。石を案内している地元の団体とも相談し残念石を知ってもらえればという結論になった」(「残念石」を大阪万博のトイレに使う残念な計画が浮上『東京新聞』2024年1月29日)と話したというが、筆者は残念石を運搬し、トイレの建物の柱に使う計画には反対である。市は「万博での計画も保存活用の一環」と主張しているが、場合によっては「保存」ではなく、貴重な文化財の「破壊」に繋がる可能性があるからだ。

「400 年越しに大阪へ!「残念石」を「万歳石」へプロジェクト」によると「大阪へ石を運ぶ過程や建築ができる過程でイベントを開きながら、多くの方に参加していただいて祭りのように先人達が切り出した石を運び、現代の私たちの力で、新たな建築を作り上げること」(CAMPFIRE上に掲載)を構想しているという。市は「残念石の加工や現状変更を行わないこと、傷つけないための養生を貸与の条件とする方針」(前掲『東京新聞』)というが、運搬の過程や建築時、展示期間中に傷まないかが懸念される。

また同プロジェクトによると「残念石を夢洲に運び一定期間建築材として利用した後に、その建物をまた大阪内のどこかの土地に建物ごと移設を行」う構想もあるという。しかし、残念石は石の所在そのものにも歴史的価値があるので、完全移設してしまう事にも筆者は反対である。何より、貴重な文化財をトイレの柱に使うという発想そのものが筆者には受け入れられない。現代人の傲慢さの現れであり、歴史(文化財)を冒涜するものではなかろうか。「残石」をトイレの柱として使用し、「残念石」にしてはならない。

歴史家・作家

1983年生まれ、兵庫県相生市出身。皇學館大学文学部卒業、皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。『播磨赤松一族』(KADOKAWA)、『北条義時』『仇討ちはいかに禁止されたか?』(星海社)、『家康クライシスー天下人の危機回避術ー』(ワニブックス)ほか著書多数

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