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【世界史】最高神が悪魔に?信仰の都合で“聖”から“魔”へ変えられてしまった悲しき神々・3選

原田ゆきひろ歴史・文化ライター

古代から現在にいたるまで、この地球上にはありとあらゆる宗教が存在し、

その数だけ様々な神様が、崇められてきました。

世界を創造した。水や食べ物を与えてくれる。人間を救ってくれる・・などなど。

しかし、そんな人々の拠りどころから一転、信仰や思想の違いから

災いをもたらす“悪魔”と見なされてしまった、悲しき神々も存在します。

この記事では、そうした中でもとくにメジャーであり、昨今の

ゲームやアニメ作品にも登場する、代表的な“3神”をピックアップし、ご紹介します。

ぜひご興味をもって、ご覧頂けましたら幸いです。

①【女神アシュタルト】→地獄の君主アシュタルト 

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むかし、むかし。まだキリストも誕生していない、はるか古代。

今でいう中東地域やアフリカ北部あたりで、

アシュタルトと呼ばれる女神が、人々に信仰されていました。

彼女は豊穣の女神、あるいは安産をもたらす女神として、親しまれていたと言います。

民衆をはじめ、イスラエルの王様や、強国家カルタゴの君主さえも

率先して像を作り、国をあげて信仰していたとも伝わります。

また古代エジプトにおいては・・上記と性格は異なりますが

盾や槍を装備した女戦士の姿で、戦いの女神として、崇められていたケースもありました。

しかし、のちに勢力を拡大した宗教・・とくに一神教にとっては

これほど信仰を集めるアシュタルトが、危険視される出来事が起こります。

ユダヤ教の神官などから、厳しく攻撃されるといったことも起こりました。

旧約聖書にも「アシュタルトを崇拝した王が、神の怒りで罰せられた」

といったエピソードが、記されています。

やがて国家や宗教の、様々な勢力図も変遷していった結果

いつの間にかアシュタルトは「悪魔の軍団を率いる、地獄の君主」

という物語が、出来あがってしまっていました。

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もと女神なのですが、性別も男性のように変えられ、さらにヨーロッパなどでは

悪魔を召喚できる・・とされる魔術書“グリモワール”に記されるなど、

邪悪な存在の、筆頭にされてしまったのです。

現代日本においても、人気ゲーム“女神転生”シリーズなどでは、魔王の肩書きで登場。

一方でゲーム“ティアーズ・トゥ・ティアラ2”では、メインヒロインにして

主人公を助ける女神アシュタルト(cv釘宮理恵)として、キャラクターの題材となっています。

ゲーム【ティアーズ・トゥ・ティアラII 覇王の末裔】より
ゲーム【ティアーズ・トゥ・ティアラII 覇王の末裔】より

“聖”か“魔”か?古来から現代に至るまで、様々な視点によって、

まさに180度ちがう立場で、みなされている存在と言えます。

②【最高神バアル】→邪神ベル・ゼブブ

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はるか古代、“バアル”と呼ばれる、嵐と慈雨の神が信仰されていました。

女神アシュタルトと同時に、信仰されていた地域もあると伝わりますが、

今でいう中東地域や、アフリカ北部など広いエリアで“バアル・ゼブル”

言語によっては“ベル・ゼブル”(崇高なる神の意)と呼ばれ、崇拝されてきました。

しかし、やはり後に勢力を広げた国家や宗教から、危険視されることになります。

とくにバアル神を信仰していた、古代国家・カルタゴなどは、

一時はローマを散々に打ち破り、滅亡の一歩手前に、追い込んだほどの強さを誇りました。

おそらくヨーロッパの人々に、その恐怖の記憶が、語り継がれたことも一因でしょうか。

のちにローマ帝国の国教となったキリスト教なども、バアル信仰を邪教視。

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バアル・ゼブルの発音をもじった「ベル・ゼブブ(ハエの王の意味)」と呼称し

新約聖書の物語においても、悪魔や悪霊といった肩書きで、登場しています。

近世ヨーロッパでは“ベルゼビュート”などと呼ばれることもあり

地獄の支配者・堕天使ルシファーの側近というポジションに。

・・あるいは、文献によってはルシファー以上の実力者とも、みなされています。

かんぜんに邪悪な存在の筆頭扱いですが、一部では何故か、

作物を荒らすハエの害から、人間を守ってくれる存在として、語られるケースも存在します。

③【太陽神モレク】→魔王モレク

モレクは、古代の中東地域で太陽の神として崇められ、人々を災害から守り

また豊作をもたらす存在として、広く信仰を集めていました。

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しかし、その加護を得るには「人間の生贄が必要」とされていた地域もありました。

具体的には儀式などで、牛の姿をかたどった像に子どもが入れられ、

生贄として捧げられていた記録が、存在しています。

そうした経緯もあってか、旧約聖書ではモレクを“生贄を求める悪魔”と位置づけ

崇拝を固く禁じています。

もちろん現代の価値観でも、生贄を捧げるなど、とんでもない事ですが、

中南米など他の古代国家においても、「生贄」の風習は存在していました。

決して肯定はできませんが、しかし現代よりはるかに災害・疫病・飢餓などが

恐怖であった時代においては「何とかして神を喜ばせなければ」

そうした思想が、切実な事情から生まれた側面も、あるでしょう。

なおヘブライ語でモレクは「王」を意味するとも言われ、それに従い魔王の肩書きで

語られることが、しばしばあります。

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17世紀にイギリスの詩人が執筆した叙事詩「失楽園」においても

モレクは生贄を求める、強力な悪魔として描かれています。

その物語では、実はもともと位の高い天使であったとされ、

この設定は実際に、もと神様であった名残りかもしれません。

ストーリー上では堕天したルシファーに、いち早く賛同し

彼が地獄へ落された際には、真っ先に駆けつけ、味方となったエピソードも語られます。

そして大天使ガブリエルと対決するなど、ベルゼブブらと同じく、

聖なる者たちの対極として、位置づけられてしまった存在と言えるでしょう。

神と悪魔の解釈

以上、もともと聖なる存在として信仰されながらも、様々な変遷から

邪悪の筆頭となってしまった、3神をご紹介しました。

これらの歴史には、様々な信仰や思惑が、複雑に絡み合っており

どちらが正義で悪かといった見方は、簡単に出来るものではありません。

また、ここまでの話と違う言い伝えも、各地には多数あります。

ただ私たちとしては、こうした歴史に触れるとき、何か1つの価値観を絶対と思わず

様々な角度から判断する視点こそ、いちばん大切な事のように思います。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

歴史・文化ライター

■東京都在住■文化・歴史ライター/取材記者■社会福祉士■古今東西のあらゆる人・モノ・コトを読み解き、分かりやすい表現で書き綴る。趣味は環境音や、世界中の音楽データを集めて聴くこと。鬼滅の刃とドラゴンボールZが大好き■著書『アマゾン川が教えてくれた人生を面白く過ごすための10の人生観』

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