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【伝説のハット・リバー公国】現代の世に王国を建設!ほんとうに“じぶんの国"を作ってしまった人物とは?

原田ゆきひろ歴史・文化ライター

突然ですが、あなたはこれまで「自分の国を作りたい」「王様になりたい」などと、思った事はあるでしょうか。

大半の人にとって、それは歴史上の出来事か、あるいはファンタジー世界のお話と思うことでしょう。

しかし、この現代にあって一般人でありながら、本当にそれをやってのけてしまった、とてつもない人がいるのです。この記事ではその一連の出来事を、わかりやすくお伝えして参ります。

ときは今から約55年まえ、1969年。オーストラリアの西側で小麦農場を営む、ケースリーさんという人がいました。

あるとき地元の州政府が、販売を許可する小麦の量について、法令の改正を行いました。しかしケースリーさんにとって、割り当てられたのはとても少量。

「これは、とても納得ができない。法案を作り直してくれ!」怒ってそのように主張するも、訴えはまるで通じず。そこでケースリーさんは、こう言いました。

「もういい。だったらオーストラリアから独立して、私はみずから理想の国をつくる!」

賛同する家族や仲間が加わり、約30人に達するとケースリーさんはこの地に、あたらしい国の設立を宣言。

1970年4月、面積75キロ平方メートルの「ハット・リバー公国」が建国され、ケースリーさんは初代国王に就任しました。

これは、決してただのアピールやジョークではなく、本気で実行したのです。通貨はハットリバー・ドル、国旗をデザインして、国歌も作詞作曲しました。そしてイギリスのエリザベス女王を、国家元首とすることも宣言しました。

しかし当然ながら、地元のオーストラリア州政府は認めません。「あなたはオーストラリア国民ですよ。まずは滞納している税金を、きちんと納めなさい」

ケースリーさんは建国宣言以来、ここは別の国になったのだからと、オーストラリアに税金の支払いをストップしていたのです。

そこにはとうぜん対立が生じ、非難する人や馬鹿にする人々もいた一方、応援する人々も現れはじめ、徐々に「まあ・・ここまでするのだったら」という雰囲気が、醸成されていきました。

ハット・リバー公国は、途中で“王国”に名を改めるなど、様々な出来事がありました。ちなみに国連をはじめ世界の国々も、さすがに承認することはありませんでしたが、事実上はずっと独立を保ち続けたのです。

やがて、この話を聞きつけた旅人やマスコミも訪れ、観光業が成り立ちました。公国へ入るには約300円の入国ビザが必要なのですが、多い時には年間4万人近い人が訪れました。そうすると300×4万で、年間1200万円を超える収入となります。

加えて公国のお土産屋では、オリジナルキーホルダー、帽子、ハガキなどのグッズも販売。本業の小麦の売り上げも合わせ、ハット・リバー公国の経営は、十分に成り立ったのでした。

また“隣接する”オーストラリアの州には、友好の証と称して農産物を送るなど、硬軟を織りまぜた立ち回りで、周囲と巧みに関係を保ち続けました。

ちなみに日本からも、マスコミや観光客が訪れており、ハット・リバーと藤子不二雄のアニメ“忍者ハットリくん”は響きが似ているとネタにされると、王様も大喜び。

忍者ハットリくんのイラストとともに、旅人と一緒に記念写真を取るなど、ご本人のユニークなキャラクターもあり、多くの人に親しまれて行きました。

このように、史上まれにみる偉業をなしとげたケースリーさんでしたが、2019年にお亡くなりになり、息子のジョージさんが公国のあとを継ぎました。

しかし同年を境に新型コロナウイルスの流行が始まり、収入の柱であった観光が消滅。経営が困難となり、残念ながら2020年8月、ハットリバー公国は解散が宣言され、ここに50年にわたる歴史が、その幕を閉じました。

世界情勢として仕方がないとは言え、最後の最後まで貫き通した、ケースリーさんの夢の王国に、現在は足を運べないと思うと惜しまれます。

かつては公国の公式ホームページが存在し、現在も検索を行うと跡地にたどり着くことが出来ますが、英語で“閉鎖されました”と表記されています。

※イメージ
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・・さて、この現代に誕生した王国は、エピソードとして大変ユニークですが、それだけではなく、私たちに大切なメッセージも教えてくれている気がします。

私たちが暮らすこの世の中は、思い通りにならないことも多いです。しかし、それに不満や文句だけ言って過ごすのではなく「だったら自分が、理想郷を作ろう!」というスピリットは、人生の価値観としてとても尊いものに思えます。

世界の切り取り方は、自分次第。ケースリーさんの生き様は、そのようなメッセージにも感じられ、私たちも是非これを大切な学びとして、より良い人生を生きて行きたいものです。

歴史・文化ライター

■東京都在住■文化・歴史ライター/取材記者■社会福祉士■古今東西のあらゆる人・モノ・コトを読み解き、分かりやすい表現で書き綴る。趣味は環境音や、世界中の音楽データを集めて聴くこと。鬼滅の刃とドラゴンボールZが大好き■著書『アマゾン川が教えてくれた人生を面白く過ごすための10の人生観』

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