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「尊敬する」と「尊重する」の違いは?

畠山仁美所作講師

「似ているけれど意味が違う言葉」その6

今回は、「尊敬する」と「尊重する」の違いについて掘り下げてみます。
あなたは、どのように使い分けていますか?

尊敬とは

語源から見てみると、

尊:手に持った酒樽を差し出す様子、酒を神さまにささげる様子を表している漢字。 

敬:神様にお祈りをしている様子、神様や畏れ多い人の前でかしこまっている様子を表している漢字。

「うやまう」の「うや」は「礼」のこと。「まう」は「舞う(動作)」のこと。つまり、「礼をもって振る舞う」となります。

「尊」も「敬」も神様の前にいる様子を表していることから、「尊敬」には、頭を下げるような、仰ぎ見るような気持ちが込められています。

そこから、その人の人格や行い、業績などの素晴らしさに感じ入り、見習いたく思うような気持ちになることを意味しています。

尊重とは

「人や人命、人権などを重んじること。人の意思、考え、意見などを重んじ、配慮すること」です。

「重んじる」は、重要なものとして大切にする、価値のあるものとして扱う、ということ。

「尊重」は「その価値を認め、大切にする、重んじる」という意味ですが、対象は人に限定されず、モノや概念なども尊重の対象となるのが「尊敬」との大きな違いです。

尊敬語は、尊重語?

ちなみに、敬語には「尊敬語」というものがありますが、文化庁は「敬語の指針」のなかで「相互尊重」という言葉を繰り返し使っています。

「 敬意表現とは、コミュニケーションにおいて、『相互尊重の精神』に基づき、相手や場面に配慮して使い分けている言葉遣いを意味する。

それらは話し手が相手の人格や立場を尊重し、敬語や敬語以外の様々な表現からその時々にふさわしいものを自己表現として選択するものである。

『相互尊重の精神』とは、一人一人の人間を大切にするという基盤に立って、相手の人格を互いに尊重する精神のことを言う。」 (文化審議会『敬語の指針』(2007))

昨今、相手を尊敬しているから、尊敬に値する人物だから敬語を使う、尊敬していない人には敬語は使わない、と考える人は、かなり少ないかと思います。

「敬語の指針」にもあるように、現代において「敬語」は、「尊敬の表現」というよりは、「尊重の表現」であると言えます。

たとえば自分と相手の考え方や意見が違っていたとしても、その意見に至ったプロセスも含め、お互いの考えを尊重する。

年齢が上だから、立場が上だから、ということだけでなく、お互いが一人の人間として尊重し合っているというマインドが言葉の使い方にも表れているのが「敬語・敬意表現」ということなのでしょう。

まとめ

◆尊敬する:その人の人格や行い、業績などの素晴らしさに感じ入り、仰ぎ見るような気持ちになること。

◆尊重する:その価値を認め、大切にすること。対象は人に限定されず、モノや概念なども対象となる。

「敬語・敬意表現」は「相互尊重の精神」がベースにある言葉の使い方。尊敬はできなくても尊重はできる、ということなのだろうと思います。

日常なんとなく使っている、似ているけれど意味が微妙に違う言葉を調べてみると、その物事の本質が垣間見えることがあります。これからも色々な言葉の違いを取り上げていこうと思っています。

所作講師

日常の振る舞いを見直すことで、心・体・生活を整えるお手伝いをする所作講師。立つ・座る・歩く・物を扱う・挨拶する、といった日常あたりまえに行っている所作を通して、振る舞いだけでなく自分の内面も見つめ直すレッスンが好評。2011年の開講以来マンツーマンレッスンにこだわり、一人一人と向き合ってきた。ブログ【所作美人のヒント】では、バタバタと忙しい日々の中で、所作を通して自分を磨く考え方を発信。著書「一日一分からはじめる『おだやかな人になる所作の習慣』」

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