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【神戸】今度はお化け屋敷!?「横尾忠則」の描く世界が、あなたを恐怖の根元へと引きずり込んでいく…

Hinata Yoshioka旅するフォト&ライター(神戸市)

今の世の中、恐怖がはびこっています。恐ろしや〜です。真面目な話、せっかくの人生だからもっと楽しく前向きに生きていきたいと思いますよね。そんなあなたに、この秋行って欲しいのが「横尾忠則の恐怖の館展」です。

一体何で恐怖展が、前向きな人生とどう関わっているの?と、きっと疑問に思われるでしょう。実は私にもよく分かっていないというのが正直なところですが、何故かそんな予感がするのです。ということで皆さん、その謎をこれから一緒に紐解いていきましょう。

さて。2階の展示会場へ向かうためにエレベーターに乗り込んだ私。ふと横を見てギョッ!狭いエレベーターの壁や鏡に、血が飛び散っています。あの、マジ怖いんですけど〜

プロの業者の方が、しっかりと演出されたという「飛び散る血」
プロの業者の方が、しっかりと演出されたという「飛び散る血」

しょっぱなからビビりました。だって何だかリアルな感じがしませんか?エレベーターに血のりって…。これから何が起こるんだろうと少し身構えながらエレベーターを降りると、ひとり薄暗い踊り場にポツンと取り残されてしまいました。これはもう完全にお化け屋敷です。

横を振り向くと真っ黒な扉の前に人が立っています。お化け?いや、よく見るとスーツを着ています。案内人さんでした。ここで中に入る前に撮影などの注意点( ※写真を撮るのOKらしいです!) を聞いたのち 、扉がスッと開かれました。

「では、いってらっしゃいませ」と、後ろで静かに扉が閉められます。あぁ遂に私は闇への一歩を踏み出してしまったんだと、平凡な日常に少し後ろ髪を引かれるような思いです。

暗闇の中に浮かぶ提灯と、生々しく置かれた女性の生首
暗闇の中に浮かぶ提灯と、生々しく置かれた女性の生首

狭い迷路のような通路を進みながら、数枚の絵に出会いました。この薄暗い空間でひとり横尾忠則の絵と向き合うには、少しばかり心の準備が必要だったかも知れません。まともに見れないままに私の足は急ごうとしています。何だろう、怖いのかな。

江戸川乱歩シリーズ。これらの絵の中に共通して描かれている人間の「恐怖」という感情
江戸川乱歩シリーズ。これらの絵の中に共通して描かれている人間の「恐怖」という感情

横尾さんの絵は結構ポップなんです。色使いもデザインも、面白味があったりするから恐怖と言っても鳥肌が立つような恐怖とはまた違います。では何故、私の足は無意識にこの場を離れたがっているのでしょうか。

薄暗い中、急に女の人の悲鳴が聞こえてビクッとしました。遠くで何かが繰り返されているような不穏な音もしています。不意にピカッと絵が照らされたかと思うと、胸を突き刺された裸の女性が浮かび上がり、その横でポップな描写で描かれた往年の女優さんが笑っていました。シュールです。

絵のタッチや情景の違いで生まれるコントラストも、独特の世界観を醸し出している
絵のタッチや情景の違いで生まれるコントラストも、独特の世界観を醸し出している

狭い迷路のような暗闇や、広く殺伐とした廃墟に飾られる横尾忠則の絵。今回、恐怖というテーマの元に様々な絵を見て分かったことがあります。数々の絵の内側に描かれている恐怖とは「心の中に描く恐怖心」、つまり心が作り出した恐怖の世界の「イメージ」なのです。

この展覧会を始めるにあたり、横尾さんからの挨拶の言葉があったのですが、その中に「恐怖は誰の中にも棲みついています。そんな恐怖を描くことで恐怖を吐き出しています」という一言がありました。

恐怖というものを正面から見つめ、自分は何を怖がっているのかを知り、そして吐き出す。この作業は自分一人ではなかなか出来にくい作業です。それどころか無意識のうちに心の中にたっぷりと恐怖を溜め込んでしまっているという事実さえ、私たちは今まで気づくこともなかったのではないでしょうか。

突き飛ばされた女性の手からは、目玉焼きが乗ったフライパンが落ちていく
突き飛ばされた女性の手からは、目玉焼きが乗ったフライパンが落ちていく

お腹に溜まったものはいつしかパンパンに膨れ上がり、やがては病をもたらすかも知れません。その溜まった恐怖を認めて全部吐き出してしまう。横尾忠則の絵は、誰もの心の中にある闇をハッキリと描き出しています。私の足はそれを認めたがらず、ただただ怖がって逃げようとしていたのでしょう。

これはチャンスかも知れません。横尾忠則はいとも簡単に、私たちを行くべき場所へ一度引きずり込んでくれるのです。結構な荒治療ですが、ちゃんと通り抜けれればまさにそれは「浄化」なのです。…とまあ、熱く語ってしまいましたが、これは私の勝手な妄想ですので皆さんどうぞご自由にご覧くださいね。

近代美術館の倉庫に取り残されていたものをそのまま展示した、まさに廃墟
近代美術館の倉庫に取り残されていたものをそのまま展示した、まさに廃墟

それにしてもこの美術館、いつも手が込んだ仕掛けがされています。過去にやった「温泉展」や「病院展」など、まるで本物さながらの仕掛けは「美術館コスプレ」と呼ばれる所以です。3階はフロア一全体が廃墟になっていました。

現在、東京で横尾さん史上最大規模の個展が開かれていて、各種メディアでも特番が組まれていたそうなのですが、横尾さん曰く「東京のものは見飽きた、こっちの方が面白い」だそう。

絵の前には明かりが灯されたローソクが並んでいる
絵の前には明かりが灯されたローソクが並んでいる

時計メイカー「Swatch」や「ISSEY MIYAKE」とのコラボ、カルティエなど有名ブランドからのオファーや東京の玄関口にある丸ビル・新丸ビルの外壁でのパブリックアート「東京大壁画」など、飛ぶ鳥を落とす勢いで現在も大活躍中な横尾さん。

そんなワールドワイドな横尾さんの美術館が、ここ神戸にあるってことを誇りに思いませんか?私は「横尾忠則、凄いなぁ」と、何か刺激を受ける度にそう思っています。

廃墟にあるのはガスマスク。横尾忠則の絵と共鳴して異空間へと誘う入り口を彷彿させている
廃墟にあるのはガスマスク。横尾忠則の絵と共鳴して異空間へと誘う入り口を彷彿させている

微笑みながら横たわっている、美しい女性がいらっしゃいました
微笑みながら横たわっている、美しい女性がいらっしゃいました

ここにあるとまるで「遺影」のようだと表現されていた、ポートレイトの数々
ここにあるとまるで「遺影」のようだと表現されていた、ポートレイトの数々

あれもこれも、ここにあるのは全て横尾忠則の「恐怖」の心象風景
あれもこれも、ここにあるのは全て横尾忠則の「恐怖」の心象風景

まだ横尾忠則の作品を見たことがないそこのあなた!独特な世界観にヤラれちゃいに行ってみては如何でしょうか。もしかしたら、日頃の恐怖も上手に吐き出すことができるかも知れませんよ。

横尾忠則の恐怖の館展

開催期間:2021年9月18日〜2022年2月27日
場所:横尾忠則現代美術館
開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
※当面の間、金・土曜日の夜間開館を中止させていただきます
休館日:月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始(12月31日、1月1日)、メンテナンス休館(不定期)
観覧料:一般700円、大学生550円、70歳以上350円、高校生以下無料
電話番号:078-855-5607(総合案内)
住所:神戸市灘区原田通3-8-30
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※ 本展は予約優先制です

※館内での撮影は、下記の条件の範囲内で可能です

・フラッシュは使用しないでください
・三脚は使用しないでください
・動画の撮影はしないでください
・他の鑑賞者の鑑賞を妨げないでください
・撮影された写真は非営利目的に限り使用可能です
・写真に来館者が写っている場合、肖像権に触れる場合がありますのでご注意ください

旅するフォト&ライター(神戸市)

旅なしに人生は語れない、ノマド系フォトライター。国内から世界各国まであちこち歩きまわって取材する、体当たりレポートを得意とする。趣味は美味しいもの食べ歩き、料理、音楽、ダンス、ものづくり、イベント企画などなど、気になる物には何でも手を出してしまう。南国気質で、とにかくマイペースな自由人。

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