北野に「食とアート」の面白いスペースができているのをご存知でしょうか。以前から気になっていたものの、いつ行こうかなとベストなタイミングが来るのを待っていたのですが、ご縁がつながってこの日ようやく伺うことに。

お店の前の黒板に書き込まれた魅惑的なメニューの数々。ランチの種類はいろいろあるのですが、今日は「惣菜デリ3品」にメイン料理のついたセットを頂くことに。メインのチョイスは「六甲牛イチボの薪焼きステーキ」です。

少しレアに焼かれたステーキは、地元神戸の牧場で育てられたこだわりの六甲牛。炭焼きでゆっくりと火を入れているお肉はしっとりとして肉汁もじんわり、薪の皮で燻して香り付けをしている為どこか野生味も感じさせてくれます。

ソースなどの余分な味付けがなく、スペインのミネラルたっぷりの岩塩と黒胡椒だけでのシンプルな味付けで、噛めば噛むほどお肉の味わいをどこまでも楽しむことができました。

里芋のペーストがのった自家製パン、厚切りごぼうのアラビアータ、自家製バルサミコソースのきいたグリーンサラダの「3種の惣菜デリ」。里芋のペーストには手作りのヴィーガンチーズが入っていて、パンに至っては酵母から全部手作りという手間のかけように驚きます。

ただ食べるだけでなく、食べ物の裏側にちょっとした物語があるのが汀の面白いところ。例えば今日のランチのメニューに使われていたヴィーガンチーズは、外国人の多い北野エリアということで月に一回開催されるヴィーガンナイトから生まれたものだったりします。

汀が大切にしている、偶発性。飲食店としてオープンした汀ですが、実は元々やりたかったことがあるのだとか。

オーナーの濱部さんは児童福祉の勉強をしていた経験があり、こどもやお母さんを含め、色んな人達が出会って楽しめる公園のような空間を作りたかったことから「汀(みぎわ)」の構想を始めたのだと言います。

「汀」とは波打ち際のことを意味していて、水が満ちれば生き物たちの住処、水が引けば人間の居場所となるような自由で固定化されない場所。そんなふうな場所にしたいという濱部さんの想いは徐々に現実化していきました。

昔から虫や動物が好きだった濱部さんは最初、生き物に囲まれて住めるような自然豊かな場所でお店を探していたのですが、家庭の事情もあって断念。

旦那さんが北野でレストランをやっていることもあって、近くで同じように食べ物をメインにしたお店として汀をオープンすることにしました。

食ベ物の後ろには生き物の存在があります。色んな生き物を知ることができる仕掛けを作り、そこで多様性を認められるような空間にできたらと濱部さんは日々考えます。

店内を見上げるとロフトのようなスペースを発見。階段を上るとこどもたちの秘密基地のような小さな空間が隠れていました。通り道には虫や動物に関するものが飾られていて、本棚には絵本も沢山並んでいます。ここでは「貸し出し図書」もしているそうですよ。

こどもが遊んでいるのをただ見守るだけでなく、家族もワインを飲んでくつろいだりと、個々がそれぞれに楽しめる空間を目指す「汀」。壁の奥には100種類の品揃えがあるワインセラーもあって、覗き込みたくなるほど魅力的です。

オープンして1年の間に既に50以上のイベントを開催したそうで、その中でも印象的だったのはバレーダンサーとバイオリニスト、ピアニストが共演したものだったのだとか。

その時は店内にステージというものを特に作らず、お客さんはご飯を食べ、こどもも自由に遊びながらの区切りない空間でのイベントだったといいます。まさに汀的世界。

イベントはちょっと敷居が高いかなと思う人も、気軽に入れる「ランチ」や「ちょい飲み(ワインと惣菜2種)」、土日祝は「カフェタイム」の時間帯も空いているそうなので、まずはそこから始めてみるのもいいかもですよ。

汀(みぎわ)