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冬アイスブームの裏側 ~寒い季節の甘い革命~

アイスマン福留アイスクリーム評論家

どうも。アイスマン福留です。最近、「冬アイス」という言葉が広く認知され、人気を集めています。では、「冬アイス」とは具体的に何を指すのでしょうか。これは、冬に特化して開発されたアイスクリームや、冬季に好まれるフレーバーのことです。冬にアイスクリームを楽しむという行為は、暑さを避ける必要がないにも関わらず、その魅力に引き寄せられる状況を示しています。さらに、高カロリーや濃厚&上質な味わいを求める人々にとって、バラエティ豊かなプレミアムアイスクリームが市場に出る冬は、まさに「旬」であると言えるでしょう。

夏のアイスと冬のアイスの違い

夏の暑い時期は、アイスに対して“涼”を求めることが多いため、氷系やシャーベット、フルーツフレーバーが主流になります。一方、冬になると、乳脂肪分が高く濃厚なアイスクリームや、生チョコレート、アルコールを使ったラムレーズンなど、温かい部屋でじっくりと味わいたいフレーバーが登場します。特にハーゲンダッツは、12月に最も売れると言われています。クリスマスや年末に、一年間がんばった自分へのご褒美として購入するケースが多いのでしょう。ハーゲンダッツはアイスクリームに特化したブランドとして、秋冬時期にも開発に力を入れています。また、秋冬の時期は素材によりこだわった、大人向けの上質な味わいが好まれる傾向があります。

ハーゲンダッツ Specialite(スペシャリテ)「ショコラシャンパンストロベリー」
ハーゲンダッツ Specialite(スペシャリテ)「ショコラシャンパンストロベリー」

冬アイスのはじまり

冬アイスの歴史を振り返ると、1950年代半ばあたりから60年代にかけて大手乳業メーカーによってデコレーションアイス(アイスクリームケーキ)が登場しました。これがクリスマスにアイスを食べる習慣、あるいはそういった文化を形成したと考えられます。僕はこれを「冬アイスのはじまり」だと考えています。「冬アイス」という言葉が広く知られるようになったのは最近のことですが、実は半世紀以上も前から冬にアイスを楽しむ習慣は存在していたのです。

アイスクリームケーキ
アイスクリームケーキ

アイスクリームの芸術品

1971年に登場した「レディーボーデン」は、「アイスクリームの芸術品」として市場を席巻しました。クリスマスケーキやデコレーションアイスの代替品としても注目されました。特に印象的だったのは、レディーボーデンのCMで流れていたメロディです。「ルパン三世 愛のテーマ」を手掛けた大野雄二氏とソニア・ローザ氏のタッグによるボサノバ調の「レディーボーデン」の曲は、気品溢れるレディーボーデンのイメージにぴったりで、多くの人を魅了しました。

「レディーボーデン」のCM曲が収録されている「CMカーニバル Vol.1」
「レディーボーデン」のCM曲が収録されている「CMカーニバル Vol.1」

今でも多くの人の心に深く刻まれていることでしょう。また、レディーボーデンのヒットには、アイスクリームの魅力はもちろんのこと時代背景も大きく関係しています。それは、冷蔵庫の普及です。特に冷凍機能付きの2ドア式電気冷蔵庫が普及したことにより、ストックスペースが生まれ「レディーボーデン」や「リーベンデール」のような大容量(パイントサイズ)のプレミアムアイスクリームが人気を博しました。このようなアイスクリームが提供するちょっとした特別感や贅沢さが、クリスマスケーキの代替品として注目され、冬アイスの普及に貢献したと考えられます。

レディーボーデン
レディーボーデン

包丁で切り分けて食べる次世代型アイスクリームケーキ

冬アイスを語る上で欠かせないのが、1980年代に登場した次世代型のアイスクリームケーキです。当時世界最大のアイスクリームメーカーであったユニリーバ社と森永乳業が技術提携して販売した「エスキモー」ブランドの「ビエネッタ」は、高級感あふれる箱に入っており、直方体の形状に豪華なデコレーションが施された、ケーキのようなアイスクリームです。何層にも重なるアイスとチョコレートの層は、まるでミルフィーユのよう。やわらかなアイス層とパリパリとしたチョコレート層が、贅沢な味わいを生み出しています。ケーキのように包丁で切り分けて皿に盛り付け、家族で共に味わう特別な体験は、多くの人にとって美しい思い出として心に残っていることでしょう。

森永乳業ビエネッタ
森永乳業ビエネッタ

冬アイスを世に知らしめた商品

1980年代に登場し、冬アイスの象徴となったのが「雪見だいふく」です。この商品は「冬アイス」をメジャーにするきっかけとなりました。テレビCMで雪の降る寒い季節にコタツで雪見だいふくを食べるシーンを放映し、「コタツでアイス」というイメージを広め、冬アイスブームを牽引しました。2018年からは通年販売を開始し、現在では季節ごとのフレーバーや企業とのコラボレーションも積極的に行っています。冬にアイスを楽しむ文化は広く受け入れられ、その勢いはまだ衰えていません。「コタツでみかん」に代わり、「コタツでアイス」という新たなキーワードが浸透していく可能性もあります。

ロッテ「雪見だいふく」
ロッテ「雪見だいふく」

コンビニの登場

冬アイスの普及には、アイスの流通方法の変化が大きく影響しています。特に、コンビニエンスストアの登場とその浸透が重要な要素です。昔はアイスを買う場所といえば、駄菓子屋や町の個人商店などが主で、季節によって冷凍ケースに並ぶ商品が変わっていました。夏はアイス、冬は中華まんという具合です。しかし、1980年代から1990年代にかけてコンビニエンスストアが急速に増え、身近な存在となりました。これにより、季節を問わずアイスクリームを取り扱うようになり、季節性という概念が薄れていきました。現在では、アイスクリームも中華まんも一年中楽しめるようになっています。季節を問わずアイスクリームを取り扱うことで、冬でもアイスを楽しむ文化が根付きました。

コンビニエンスストア
コンビニエンスストア

インターネットとSNSで広がる

個人が情報を発信できる時代の到来により、「冬でもアイスクリームはおいしい」という共通の認識や共感が広がり、これが冬アイスの普及に一役買ったと言えるでしょう。寒い時期に温かい部屋でアイスクリームを味わうことは、おいしさと幸福感をもたらすちょっとした極上の体験として、多くの人に受け入れられています。

盛り上がる冬アイス市場

メディアの力は、ブームの普及に欠かせません。2015年、ある人気番組で「冬アイスの世界」が特集され、これがきっかけで「冬アイス」という言葉が広まりました。続く2016年、セブン-イレブンは「冬アイス」をテーマにしたテレビCMを放映。同時に試食会やキャンペーンも積極的に行いました。冬にアイスの宣伝を行うという斬新なアプローチは成功を収め、多くの人々に「冬アイス」という言葉を広めました。

さらに、2016年には一般社団法人日本アイスマニア協会が11月15日を「冬アイスの日」と制定しました。この日にはアイスクリームメーカーがおすすめする冬アイスの無料配布などの啓発活動が行われ、「冬アイス」は今や広く知られる言葉となりました。

アイスクリームの楽しみ方は時代と共に多様化し、今では一年中楽しめるようになりました。特に「冬アイス」は、ここ数年で単なるブームから文化へと変化しています。これから訪れる本格的な冬でも、「冬アイス」の魅力は衰えることなく続いていくでしょう。

アイスクリーム評論家

年間に食べるアイスの数は1000種類以上。コンビニアイスクリーム情報サイト「コンビニアイスマニア」を運営。日本中のご当地アイスを食べ歩き、全国を制覇。2014年に一般社団法人 日本アイスマニア協会を設立し代表理事に就任。ご当地アイスが100種類以上集まるアイスクリームイベント「アイスクリーム万博(あいぱく)」を主宰。アイスクリームの業界紙でコラムを連載するほか、アイスクリームの専門家としてメディアに出演。著書:『日本懐かしアイス大全』『日本アイスクロニクル』『ご当地アイス大全』(辰巳出版)等。

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