食品ロスを活用した“おすそわけ食堂”オープンまでの軌跡 22歳・店主の思い

今治建城

映像作家

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 平地が少ないなど地理的条件が悪く、農業生産条件が不利である中山間地域にあり、人口減にも苦しむ高知・香北町で、この春、希望をもたらす小さな食堂がオープンした。周辺の農家から規格外や取れすぎた野菜を「おすそわけ」してもらい、食品ロスを防ぎながらも、地域の拠点となる食堂になりたいとの希望を込めて名付けられた「おすそわけ食堂 まど」。オープンしたのは、今年3月に大学を卒業したばかりの陶山智美(22歳)さんだ。鳥取県出身で高校生のころは、海外での農業支援をと夢見ていたが、「日本に課題があるのに、海外にいかなくてもいいのでは?」という高校時代の恩師の声に突き動かされ、血縁のない高知県に飛び込んだ。陶山さんの挑戦を追った。

<おすそわけ食材で日替わり定食を>
 「おすそわけ食堂 まど」はその名の通り、規格外やとれすぎた野菜などを地域の農家からおすそわけしてもらい、その日ある食材によってメニューが変わる日替わり定食をメインに提供している。毎朝、メニューを考え、仕込みするのが日課だ。営業時間に関係なく、突然「ちみちゃ~ん」とドアを開け、段ボールいっぱいに入った野菜などを地元の生産者が持ってきてくれる。中には陶山さんの存在を聞きつけ、破棄寸前の白菜やキャベツが余っているから畑に取りに来てという農家も現れる。日替わり定食の他にもジビエカレーやカボチャのパスタ、今日の逸品メニュー(例えば、ナスとほろほろイノシシのしぐれ煮)など、日々陶山さんのアイデアを形にしたものが新しいメニューとしてアップグレードされている。また、高知県のジビエ加工処理場から地元の野生動物の肉を安くおすそわけしてもらっており、狩猟免許も持っている陶山さんは、

「都会だと高級料理のイメージがあるが田舎だとそういったものではなく、獣の被害も多々あり、日常的に食べられているので、まどでも同じように気楽に食べられるようなジビエ料理を提供したい」

と話す。現時点では月曜以外は営業し、メディアで陶山さんを知って働きたいと駆けつけたアルバイトの子や地元の大学生、地域の方が集まったLINEのグループチャットにて「明日お店に出られる人」などとボランティアを募る形で運営している。

<「”こども食堂”としての役割も」陶山さんの思い>
 陶山さんは学生時代忙しく、食生活が乱れがちだった。そんな時にバイト先の農家のおばちゃんが
「ゆず味噌おにぎり」や「おからのおかず」などを作ってくれて、それらをまとめて入れたタッパーごと渡してくれた時があった。

「ものをもらうのも嬉しいけど、それ以上にくれた人の心が感じられて、それがすごく嬉しくて、ただのもののやりとり以上の価値があることに気付いた」

 学生時代のバイト先では、働く子育て世代のお母さんたちも陶山さんと似たような状況にあり、時間もお金も無い状態で安く済むコンビニでご飯を済ますことも多かったという。その子供も、孤食や貧しい食事をとらねばならない問題が起こっていた。そんな現状を目の当たりにして、ちょっとでも安く、時間がなくてもふらっと寄れて温かいものが食べられる場所がないかと考えるようになった陶山さんは、この頃からこども食堂にも興味を持ち出した。

「一般的なこども食堂は週に数回程度の運営なので、毎日開いてるこども食堂があったらいいなと思い、こども食堂の要素を取り入れ、子どもの居場所としても機能させたい」と思いを語る。

 大学4年生の時には、その思いを形にするために、普段は喫茶店として営業している店舗を夜だけ間借りする形で、おすそわけ食堂の運営を開始した。スタッフは全員大学生で授業が終わった後週4〜5のスケジュールで大学卒業まで続けた。当時も親子で来るお客さんはいたが、もっと子供が来やすい立地で昼間も営業できるように、前の店舗から車で10分ほど離れた香北町に小さな古民家を借りて本格的に食堂を営んでいくことを決めた。子供のメニューは現在300円で提供し、今後は子育て世代のお母さんを雇用することで母親にとっても働きやすい環境を作っていきたいと話していた。

<持続可能な街のために>
 まどのある高知・香北町は、都市部から離れた平野の外縁部から山間地に至る"中山間地域"と言われる地域だ。人口減少や少子高齢化が著しく進んでいる地域が多く点在し、若者は都心部へと移動し、時間と共に集落消滅の危機に迫っている場所もある。
「まどを地域の交流の起点にしたい」と話す陶山さんだが、捨てられるはずの作物が料理に変わり、街の人や子供に提供されることや生産者と一緒に商品を開発したりすることで農家の人のやりがいを生み出し、気持ちの面での支援に努めている。
 実際に取材する中でも第三者同士の繋がりができている場面を多く見かけた。まどに行くと必ず新しい出会いがあり和気あいあいと交流する人たちの温かい空気は都会にはない経験だった。
 ボランティアの方々が、陶山さんに熱心に手を貸す姿を見て、持続可能な街にするための明確な答えはないが、地域に住む当事者の意識の変化がもっとも大事なことではないかと気付かされた。お金では解決しない大事なものが「おすそわけ食堂 まど」にはあり、「この町に住み続けたいと思える心境の変化」がおすそわけの心でつながる力ではないだろうか。

 オープンして二カ月ほどたった陶山さんの顔つきは、オープン前の頃と比べて自信に溢れていた。今では週末には外に臨時の席を出すほど盛況でスタッフ5人でも手が回らない状態だそうだ。今後はもっと出来ることを増やして地域に貢献していきたいと語る陶山さんだが、近々高校生の寮への宅配業務を開始するなど、具体的なアイデアが動き出している。

「この食堂が、誰かと繋がる”窓口”となり、ここから広がるおすそわけの連鎖が”円”になって循環していくことを目指して、今日もこの場を開きます。」

 そんな思いが食堂の"まど"という名前に込められている。この作品は、まさに陶山さんの中にある確かな強い思いが、周りを少しずつ動かし、それが連鎖して大きくなっていく様子をリアルタイムに写すことができたと感じている。今後また地元に戻る感覚でまどへ帰ることが待ち遠しい。

◆おすそわけ食堂 まど 公式インスタグラム:最新の情報はインスタグラムより発信中なので興味のある方はぜひ!
https://www.instagram.com/osusowake_mado/

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本作品は【DOCS for SDGs Sponsored by CONNECT】で制作された作品です。
【DOCS for SDGs】他作品は下記URLより、ご覧いただけます。
https://documentary.yahoo.co.jp/sdgs/
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今治建城/Tatsuki Imaji

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