「楽しみながら災害時に役立つ力を」――四輪バギーで被災地支援に駆けつける僧侶【#これから私は】

伊納達也

ビデオグラファー

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「今こそ自分たちの力が役に立つ時だ」。2020年12月、豪雪のため、新潟県・関越自動車道で車が立ち往生。2000台近くの車が動けずにいるなか、警察でも自衛隊でもない四輪バギーとスノーモービルが現れた。圧雪作業を行って、人が歩ける道を作り、食料や燃料、水などの支援物資を夜通し配布した。そのバギーに乗っていたのは、長野県小布施町にある浄光寺の副住職・林映寿さん。なぜ長野県のお坊さんが、バギーに乗って新潟に現れたのか? きっかけは東日本大震災にあった。

●瓦礫だらけで、一般の車両が入れない

2011年4月、長野県小布施町にある浄光寺の副住職・林映寿さんは、仲間と集めた支援物資を持って、宮城県女川町へ向かった。震災からまだ日が経っていないのに、子どもたちから笑顔でお礼を言われ、驚く。林さんは支援活動を「日本笑顔プロジェクト」と命名。賛同して集まった仲間とともに、2年にわたり、ほぼ毎月、被災した学校での学習支援や炊き出し、瓦礫の撤去などの支援を続けた。

支援活動を行うなかで、気づいたことがあった。

「瓦礫だらけで、一般の車両は入れない場所が多い。物を運ぶのも人の移動も、人力で行わざるを得ない」

どんな移動手段が有効なのか考えるなかで、全地形対応車、通称「四輪バギー」を知る。未舗装の道を走ることに特化して作られた乗り物で、泥や雪などにより通常の車が走れない悪路でも走行可能だ。林さんはいざという時の備えとして、四輪バギーを購入。山の林道の移動に使ったり、排土板を付けて雪かきに使ったりするようになった。

●重機を動かす担い手不足の壁

2019年、小布施町でも災害が起きた。日本各地に大きな被害をもたらした台風19号により、小布施町を流れる千曲川が氾濫。町内で100棟を超える建物が浸水し、河川敷にあった果樹園や畑などが水没するなどの被害があった。

浄光寺は山沿いにあるため浸水被害は免れたが、被災した農家や企業には交流のある人々が多く、林さんはすぐに復旧支援活動を開始する。仲間とともに、果樹園の復旧作業、被災した家庭へ暖房器具の配布、各地から集まったボランティアの指揮など、精力的に活動した。四輪バギーも泥の中の作業で活躍。移動や物資の運搬でフル稼働だった。

復旧作業で大きな比重を占めたのが、果樹園の泥の撤去作業だった。台風の被害があったのは10月。泥に埋まった状態が長く続くと、果樹がだめになり、翌年の収穫もできなくなってしまう。一刻も早い復旧のために、ボランティアとともにスコップで泥をかきだす作業を続けた。しかし、作業の終わりが見えない。体力も気持ちも削られていった。

手作業の限界を感じた林さんたちは、パワーショベルなどの重機を使うことに。しかし、専門職の人は他の地域で復旧作業を行っていて、重機を扱えるボランティアもなかなか集まらない。重機を貸してもらったが、作業を続けるうちにメンテナンスをする必要も出てくるなど、知識の必要性も実感した。

「自分たちで重機を扱えるようになるしかない」

林さんやボランティアは、重機の免許を取得することにした。さらに、関係機関の協力を得て、2019年12月から2020年2月にかけて計6回、重機講習会を主催。重機を扱える人を100人近くまで増やしていった。

●重機の講習会はエンターテインメントになる

講習会を開催するうち、若い人や女性なども参加するようになっていった。林さんは、参加者が重機の操縦をとても楽しんでいることに気づく。参加者の一人は「自分の体では絶対に持ち上げられないものが動かせる」と言った。重機を全く触ったことのない人にとって、操縦体験は、エンターテインメントにもなるのではないか。林さんは講習会のテーマパーク化を考え始める。

そして、2020年秋。浄光寺のすぐ横の遊休農地となっていた場所を借り、「楽しみながら防災知識が身につく施設」NUOVO(ノーボ)をオープンした。ここではパワーショベルなどの重機や四輪バギーの体験や講習を受けられる。1800坪の敷地内では、講習用のフィールドの他に敷地の一部を農地化し、林さんを含めたNUOVOのスタッフで災害が起きた時の炊き出し用の食料も作っている。

「平時に楽しんでいたら、有事に役に立つ力が身に付いていた、という状態を作りたい」

そう林さんは語る。災害の記憶は月日とともに少しずつ薄れてしまい、防災意識を常に高く持ち続けることは難しい。でも、楽しいことなら自然に続けられるはず。林さんはNUOVOで、「楽しい」をモチベーションにして、いざという時に地域を助けられる人材を育てようと考えている。

2020年12月、豪雪のため、2000台もの車が立ち往生した新潟県・関越自動車道で、林さんのバギーが活躍する。

2020年春、林さんは新潟県でスノーモービルショップを営む企業の社長・高橋盛行さんと「一般社団法人オフロードビークル協会」を設立していた。四輪バギーやスノーモービルを災害時にいかせるように活動し、災害時には各地へ救援や支援を行うための団体だ。

スノーモービルショップの社員が、豪雪による関越自動車道の立ち往生に巻き込まれた。林さんと高橋さんは社員と連絡をとり、現場の状況を確認。「今こそ自分たちの力が役に立つ時だ」と思った。バギーとスノーモービルを持って現地に向かい、その場で自衛隊とNEXCO東日本に許可を得て、高速道路内での支援活動を開始。圧雪作業を行って歩ける道を作り、食料や燃料、水などの支援物資を夜通し配布した。立ち往生した車の中には、燃料が残りわずかになり暖房を止めてしのぐ人や、手持ちの水や食料がなくなる人も多かった。物資を受け取った人の中には涙する人もいたという。

林さんの今後の目標は、「各都道府県に最低一つ、NUOVOを作ること」だという。

「地震や異常気象など、毎年なんらかの災害が発生しています。いつ、どこの地域が被災地となるか、誰にもわからない。さらにコロナ禍では、自然災害が起きた時、地域外から多くの人が移動することも難しい。それぞれの地域を守れる人材が、それぞれの地域にいることが必要です」

平時を楽しみ、有事に備える。そんなスタイルを実践してはいかがだろうか。

クレジット

監督・撮影・編集:伊納達也
プロデューサー:金川雄策・柳村努
テキストデザイン:泉山由典
整音・MA:三島元樹
Special Thanks :林映寿さん、春原圭太さん、神戸智基さん、市村良三さん、大宮透さん、南加奈さん、小布施町役場

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