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世界で2億人の女性が経験している女性器切除の実態とは?伝統を断ち切ろうと立ち上がった女性たち

伊藤詩織ドキュメンタリー映像作家・ジャーナリスト

COMPLETE WOMAN
Episode1-Story of Fatamata

世界で2億人の女性が受けている儀式がある。Female Genital Mutilationー女性器切除(以下FGM)。女性が一人前と認められるため、結婚するために、社会から「完全な女」とみとめられるために。

女性器の一部を切除したり縫合したりする伝統で、アフリカや中東、アジアなど世界30カ国で医学的な根拠もなく行われている。時にはFGMの執刀で命を落とす危険もある。

西アフリカの大西洋岸に面する人口約650万人のシエラレオネでは、10人に9人の女の子や女性が女性器切除を経験している。

シエラレオネの人口は、60%以上がイスラム教徒、そのほかは伝統的宗教、キリスト教で占められている。しかしながらFGMは宗教的な儀式ではない。「ボンド・ソサイエティー」と呼ばれる、女性だけで結成された秘密結社の中で行われるのだ。ボンド・ソサイエティーはシエラレオネの女性にとっては重要な社交場でありFGMを受けていなければ入ることができない。全国で90%の女性が加入していて、特に95%の女性が加入しているといわれる農村部では、FGMを受けなければ村八分にされてしまうケースもある。FGMを受けないと、生きづらくなるという社会的圧力があるのだ。

9割の女性が、当たり前のように体の一部を切り落とされるという社会に生きる中でこの問題について語ることは安易ではない。

私がFGMと戦うアジャイとファタマタに出会ったのは2018年にシエラレオネでの性暴力の取材をしていた時だった。FGMはシエラレオネに生きる女の子と切っても切り離せない問題であった。それから計3回の訪問を重ね、どうしたら声を上げ、声を届けることができるのか、彼女達の旅路を追いかけている。

5歳の時に強制的にFGMをされたファタマタと、FGMを受けていないために「不完全な女」として世間からの冷たい風を受けるアジャイ。FGMという伝統を絶つために2人が声を上げ立ち向う姿から学ぶことは多い。

エピソード1では娘をFGMから守るファタマタの戦いを描く。ファタマタは、5歳の時にFGMで「完全な女」になり、13歳で妊娠、14歳で出産を経験している。

FGMを受けた当時の記憶は、今でも彼女にとって悪夢となっている。「夜遅くにその人たちはやってきたの。必死でベッドの下に隠れたけど、そのまま連れていかれた。痛くてずっと泣いていたのを覚えてる。もしあの儀式で何をされるか知っていたなら、逃げていたと思う。」

そう語るファタマタは「娘には同じ思いをして欲しくない」という思いから、家族の反対を受けながらもFGMに対して声をあげつづける。

日本では聞きなれないFGMという伝統。
ファタマタとアジャイは伝統や社会的圧力に負けずに自分として生きること、そして未来の子どものために声を上げることの大切さを教えてくれる。

エピソード2ではFGMを行わなかった為に「不完全な女」と呼ばれたアジャイのストーリーをお届けします。

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FGMについてはこちらの取材記もご参照ください
「完全な女」をめぐる闘い――シエラレオネの女性器切除
集英社イミダス
https://imidas.jp/itoshiori/?article_id=l-87-002-08-19-g780

クレジット

監督・撮影: 伊藤詩織
編集: 岡村裕太
エグゼクティブプロデューサー: 金川雄策
ローカルプロデューサー:Mohamed Saidu Bah
音声効果: 浦真一郎

ドキュメンタリー映像作家・ジャーナリスト

イギリスを拠点にBBC、アルジャジーラなど主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信している。2018年にHanashi Filmsを共同設立。初監督したドキュメンタリー『Lonely Death』(CNA)がNew York Festivals で銀賞を受賞。著書の『Black Box』(文藝春秋社)は第7回自由報道協会賞で大賞を受賞し、6ヶ国語で翻訳される。2020年 「TIMEの世界で最も影響力のある100人」に選ばれる。

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