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世界で2億人もの女性が経験する女性器切除 その執刀人が語る、断ち切れぬ伝統とは

伊藤詩織ドキュメンタリー映像作家・ジャーナリスト

COMPLETE WOMAN
Episode 2-Story of Ajaie

アフリカ・シエラレオネでは90パーセントの女性がFGM(女性器切除)を経験する。

FGMを受けていないマイノリティーとして「不完全な女」と周囲からレッテルを貼られるという18歳のアジャイは、親友のファタマタと共に伝統を断ち切るため声をあげはじめた。FGMが伝統とされるこの国で、タブーに切り込むことは、伝統儀式を守るFGMの執刀人「ソウェイ」たちからの脅迫に晒されることになる。

FGM(女性器切除)は、主に女性の貞操を守ることが目的とされている。クリトリスを切除して性的快感を得られないようにするものから、外陰部の広範囲を切除し、縫い付け、性交渉を結婚するまでできないようにするものまである。そして出血多量、感染症などを引き起こし、亡くなるケースもある。

2018年12月、FGMを受けた10歳の女の子が死亡した。そんな命の危険を伴う伝統をなぜ続けて行くのか。今回はその時にFGMの執刀を担当した「ソウェイ」の女性に話を聞いた。

女性の口からこぼれる言葉は必ずしも前向きな言葉ではなかった。「FGMはいいことなんて何もない。でもずっと続く伝統だから」そう話したソウェイはその後、娘の結婚式へと出かけていった。農村部では結婚するためにはFGMが条件になることが多い。

「同じことが起きないように」と女の子の遺族も語るが、「FGMを受けない」と抵抗することは、家族だけではなくコミュニティーとの対立にもなり得る。

小学校などでFGMの危険性について啓蒙活動を行うアジャイ達に対し、「ソウェイ」と呼ばれる女性達から「殺してやる」などの脅迫も受けるという。しかし、彼女たちはそれでも声を上げ続ける。

アジャイとファタマタの次のミッションは、ラジオ番組で農村部まで自分たちの声を届けることー

FGMを受けていなければ村八分になってしまう恐れがある農村部では娘の将来を思い、FGMの儀式に送る親は多い。しかし隔離された環境で行われるFGMの事故について十分に報道されず、情報が行き届いていないために、その危険性についてどこまで人々が認識しているかは定かではない。

女性が一人前と認められるため、社会から「完全な女」と受け入れられるための伝統。この伝統をどう断ち切るのか。次の世代のためにとアジャイとファタマタは今日も声を上げている。

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Yahoo!ネット募金では、「女性性器切除」から女の子を守るプロジェクトへ寄付を受け付けています。(シエラレオネでなくエチオピアでのプロジェクトになります)下記URLより、みなさまのご支援をよろしくお願いいたします。https://yahoo.jp/Xu6zPs

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FGMについてさらに詳しくこちらの記事で紹介しています。
「完全な女」をめぐる闘い――シエラレオネの女性器切除
集英社イミダス:
https://imidas.jp/itoshiori/?article_id=l-87-002-08-19-g780

クレジット

監督・撮影: 伊藤 詩織
編集: 岡村 裕太
エグゼクティブプロデューサー: 金川 雄策
ローカルプロデューサー:Mohamed Saidu Bah
音声効果: 浦 真一郎

ドキュメンタリー映像作家・ジャーナリスト

イギリスを拠点にBBC、アルジャジーラなど主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信している。2018年にHanashi Filmsを共同設立。初監督したドキュメンタリー『Lonely Death』(CNA)がNew York Festivals で銀賞を受賞。著書の『Black Box』(文藝春秋社)は第7回自由報道協会賞で大賞を受賞し、6ヶ国語で翻訳される。2020年 「TIMEの世界で最も影響力のある100人」に選ばれる。

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