水の流れが表す「過去、現在、未来のつながり」――建築家・妹島和世が設計する風景

柿本ケンサク

映像作家/写真家

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金沢21世紀美術館やルーブル美術館ランス別館などを手がけた建築家・妹島和世。西沢立衛とともにSANAAを設立し、建築界のノーベル賞と称されるプリツカー賞を日本人女性で初めて受賞している。東京・汐留の高層ビル群を背に広がる浜離宮恩賜庭園で、パビリオン「水明」を設計した。設計にあたり、妹島が大切にしたものは。

●歴史と現代を同時に感じられる場所

東京・汐留、高層ビルと道路に囲まれた浜離宮恩賜庭園へ入ると、青々とした芝生が広がる。松の木が点在し、その足元に妹島和世の設計した「水明」がある。平安時代の庭園にあった水路、曲水をイメージしたパビリオンだ。

「水明」はTokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13「パビリオントウキョウ2021」というプロジェクトのために制作された。この企画は、新国立競技場の周辺エリアを中心とする複数の場所に、建築家やアーティストが建物やオブジェを設置する試み。オリンピック、パラリンピックが開催される9月5日までの間、新たな都市の風景を提案する。

プロジェクトの中心人物は、和多利恵津子と和多利浩一。30周年を迎えた現代アートの私立美術館・ワタリウム美術館を運営してきた2人だ。

和多利姉弟に声を掛けられた妹島は、東京の歴史と現代を同時に感じられる場所にパビリオンを作ろうと考えた。

「(オリンピックで来日する)外国の方に東京を見ていただくということで、当初は皇居前広場がよいかなと。現代的な今の東京と江戸の両方を感じられる。でも皇居前広場は貸してもらえないので、(江戸時代の大名庭園の)浜離宮をご紹介いただいたんです。浜離宮はすばらしい場所で、感動しました。庭というのは作られたものだと思っていましたが、東京湾の海水が入り込んできていて、環境と一体的な場所です」

●ランドスケープのような建築

和多利恵津子は、妹島の建築についてこう語る。

「金沢21世紀美術館もそうですけど、妹島さんの建築は『外は外、内は内、僕はここにいる』というのではなく、街の一部になっているというか、ランドスケープになっているのが、すごく優しい。今の時代、そういうものに注目が集まっているんじゃないかと思う」

妹島自身、「一緒に風景になれる建築を考えている」と言う。今回の「水明」も、その場所全体を味わえるものだ。

現代の高層ビル群を背景に、江戸時代から続く庭園が広がり、水路が水を静かにたたえる。そこに、人工の花と自然の植物が添えられ、時々鳥たちが訪れる。歴史と現代、自然と人工物が調和した風景だ。

幅80センチの鏡面の水路は、流水文様のように木々の間を縫うようにして110メートルほど続いていく。水は止まっているように見えるが、水路にごくわずかな勾配がつけられていて、少しずつ循環している。妹島は制作過程をこう説明する。

「水を流そうとすると難しくて、どこかからこぼれたりするわけですね。でも鉢をちょっと置くと、だんだん届いていなかったところに水が流れたりするということが何となくわかってきて、水の流れはものすごくインタラクティブというか。それでいろいろなことから花や草の場所が決まってきました」

風が吹けば水面が揺れ、雨が降ると波紋が広がる。

「準備している間に、カラスがやってきたり、動物の足跡がついたり、自然というのはたくましいなと。大雨が降るので何が起こっているのか心配で、毎日のようにチェックに行きます。2カ月後どうなるか、怖さと楽しみがあります」

タイトルの「水明」とは、澄んだ水が日や月の光で輝くこと。たえず変わり続ける水面から、清らかな未来を想像できるように、という期待が込められている。妹島はこう言葉を寄せた。

「浜離宮は水とともにある庭園と言えると思います。その風景に現代を表すような水を足してみたいと考えました。曲水は、遠くから見ると留まっているように見えます。でも、近づいて見ると静かに流れていることに気づきます。このゆっくりとした水から、過去、現在、未来のつながりを感じていただければ嬉しいです」

クレジット

出演:妹島和世
監督:柿本ケンサク
撮影:柿本ケンサク/小山麻美/関森 崇/坂本和久(スパイス)/山田桃子(DP stock)/岩川浩也/飯田修太
撮影助手:荒谷穂波/水島陽介
編集:望月あすか
プロデューサー:金川雄策/初鹿友美 
ライター:塚原沙耶  
Special Thanks:C STUDIO

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