【世田谷区】向井潤吉アトリエ館に行ってきました
駒澤大学のあたりから駒沢公園通りを進み、弦巻通りから入ったところにある駒沢中学校そばに「向井潤吉アトリエ館」があります。今回、取材というかたちで特別に入館料を免除していただき、学芸員の方にお話しを伺いつつ見学しました。住宅地の中に佇む、ゆったりと滞在できる美術館でした。
向井潤吉氏は京都出身の洋画家で、戦後に全国各地の民家の風景を尋ね歩いて描き、1000から2000点とも言われる数の作品を残しています。
若い頃には絵の勉強をするため私費でフランスへ留学し、その後東京に住み始めたそう。最初は東京各地を転々としていたそうですが、駒澤大学にある耕雲館の建築で知られる菅原栄蔵という方が、アトリエ館周辺地域をアトリエ付き住宅を建てて芸術家が集まる場所にしたいとの思いで自身の家も現アトリエ館の場所に建てたところ、のちに向井潤吉がその家に住むことになったとのこと。
向井潤吉アトリエ館は世田谷美術館最初の分館として、1993年に開館しました。向井潤吉氏は存命のうち、実際に住んでいたこのアトリエ兼住居と自身の作品を世田谷区に寄贈したいとのことで私費で自宅を美術館に改装して区に贈ったそうで、亡くなる2年前にアトリエ館は開館しました。
今年2023年はちょうど開館30周年。取材は6月中旬に伺いましたが、2023年4月1日から9月10日まで、30周年を記念した展示『向井潤吉からの贈りもの 自選寄贈作品一挙公開!』が行われています。こちらはアトリエ館ができる前、世田谷美術館が開館する際の記念として向井潤吉氏本人が選び寄贈した28作品をまとめて紹介している展覧会だそう。
さて、母屋とアトリエとして使われていた土蔵が展示室になっています。もともと家だったこともあって、住みたくなるとても居心地が良い空間ですね。
アトリエとしていたという土蔵の中にも作品が展示されています。
展示されている、向井潤吉からの「贈り物」28点は全て同じような大きさになっています。向井潤吉は実際に出かけた先で作品を制作することを信条としていたため、持ち運びがしやすいようにこのような大きさになっているそう。
外での制作で、時間をかけてしまうと天気や光の具合が変わってしまうことから、2、3時間で仕上げていたそうですごい速さですね。
土蔵の内側の入り口上には『コローを摸して』という作品が展示されています。アトリエにずっと飾られていたことから、アトリエ館としても常設で展示しているそうです。この作品はコローという画家の画風をまねて描いたものだそうですが、向井潤吉としては若い頃に描いたこの作品は、コローの絵を無断で盗んだようなものだとして、戒めとして飾っていたそう。
真剣に絵と向き合われていたことがよくわかるエピソードですね。
母屋の2階展示室には、作品と各地を旅した際の地図などが展示されています。展示している地図には訪れたルートに印がついていたり、旅先で手に入れた箸袋などをスクラップにしたり、旅をすること自体も好きだったのかなと感じます。中学生の頃には、京都から富士山まで歩いて行ったことがあるそうで、行動派で歩くことや旅をすることが性分として好きだったのかもしれないと学芸員の方はおっしゃっていました。
住宅街の静かな美術館、向井潤吉アトリエ館で向井潤吉の油絵とアトリエを満喫してみてはいかがでしょうか?
世田谷美術館分館 向井潤吉アトリエ館
世田谷区弦巻2-5-1
開館時間:10:00~18:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:毎週月曜日(ただし祝・休日と重なった場合は開館、翌平日休館)、展示替期間、年末年始(12月29日~1月3日)
観覧料:〔個人〕一般200円、大高生150円、65歳以上・中小生・障害者100円
公式サイト:世田谷美術館分館 向井潤吉アトリエ館