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行方不明の仁王像 海を渡りオランダで発見「像を戻したい」オランダ人アーティストの思い

Kiriko Mechanicus

ディレクター

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〈島根県のお寺にあった仁王像がアムステルダム国立美術館に現れる〉

50年前、島根県横手町のとある寺の山門に立っていた仁王像が忽然と姿を消した。時を経て、7年前からオランダのアムステルダム国立美術館に収蔵されているという。7年前、美術館で仁王像に偶然出会ったオランダ出身アーティスト、イエッケ・ファン・ローン(49)は、その力強さに衝撃を受けたと同時に「ここにあるべきではない」と強く違和感を感じたという。2014年、彼女は導かれるように日本を訪れ、4年後、仁王像を失った横田町の人々と共に、等身大の像を再現するプロジェクトを始めた。彼女の活動を追った。

〈仁王像の出会い〉

30年前にオランダに移住した日本人の母とオランダ人の父の間に生まれた私はオランダで生まれ育った。日本との繋がりは、小さい頃からよく訪れていた和歌山県新宮市の祖母だ。オランダで生まれ育った私は当時、祖母から教わる日本のしきたりを理解できなかった。森林を散歩するたびに、祖母は自然にある木々に感謝の気持ちを持つこと、海辺では波に挨拶をすること、食べ物は粗末にしないこと、衣類は大事に纏うことを私に教えた。

西洋的な環境で生まれ育った私にとって、それらの教えを理解することは難しかった。自分にとって「物はただの物」。自然に関しても、魂のある物とは捉えたことはなかった。小さい私にとって、祖母が木々と会話をすることにただ違和感を感じていた。

その反面、身の回りの環境とコミュニケーションをとるという感覚に興味はあった。年齢を重ねるうちに、自分が生まれ育った西洋的な生活にはない日本の人間らしい繊細さに魅了されていった。日本では当たり前である「物にも魂がある」という祖母が教えが、次第に理解できるようになっていった。

オランダの首都・アムステルダムに住んでいると、この様な考え方は、周囲の人と共有するのが難しい。ヨーロッパで初めてこの考えに共感してくれたのは、イエッケ・ファン・ローンであった。イェッケと出会ったのは2019年春、彼女は初めてオランダにあるアムステルダム国立美術館の展示品として収蔵されている仁王像について話してくれた。横田町の岩屋寺山門で本来出迎えてくれるはずの2体の仁王像は、現在オランダ最高峰といわれるアムステルダム国立美術館に収蔵されている。同館にあるアジア館の目玉として多くの来館者に愛されている。7年前、突如現れた一対の像にイェッケも魅了され、何度も会いに行ったという。

15世紀、島根県横手町の岩谷寺山門を守っていた2体は、修行僧たちの集うお寺の見張り役だったそうだ。諸説あるが、岩屋寺は約100年前に廃寺したといわれるが、その後も仁王門は横田の人々にとって特別な場所であり続けた。仁王像が突然無くなったことの理由はいまだに不明で諸説ある。さらに時が経って、仁王像が美術館に売られた理由や経緯も不明だそうだ。ただ、仁王像が元の場所から無くなってしまったことによる文化的な欠損は、地元の人々に大きな影響を与えているという。

イェッケはこの状況を踏まえ、横田町に住む人々へ何か返せないか考え、行動に移した。本来あるはずの場所から外されてしまった文化的遺産に対して違和感と責任を感じていた。彼女は2014年に初めて横田に行き、仁王像がいない状態の岩屋寺山門を訪れた。そこで彼女は山門に向かって、敬意を示した手紙を読み、一対の仁王像がオランダの人々にいまも愛されていることを伝えた。

イェッケはこの訪問をきっかけに「ISSHONI TOMONI」というプロジェクトを立ち上げる。オランダと横田の人が共に仁王像を再現するプロジェクトだ。デルフト・ウェアというオランダの伝統陶芸手法を用いた100枚以上のタイルを組み合わせ、等身大の仁王像を作成。オランダ・日本両国で開催したワークショップ参加者が汗を流し、横田の人々に、再現した像を戻すことができた。

イェッケは仁王像を自分の兄弟かのように語る。彼女に大きな印象を残した2人の人間かのように。彼女はそれから毎年日本へ行き、仁王門に会いに行った。そこに私は興味を持ち始めた。もともと、私は「物は物」と考えていたが、仁王像は「物」以上の価値、存在意義があること、想像を超える歴史や人々の生活と関わりがあることを知った。。元の場所から移動させることは、その「物」の魂を奪ってしまっているとも言える。

イェッケのプロジェクトで再現された仁王像は元の場所に戻され、また命が吹き込まれたように思える。この考え方は、私の祖母が昔教えてくれた「自分の身の回りの物への敬意を示す」ことと似ている。イェッケは物も魂を持つということを私に教えてくれた。それは自分の身の回りの物や環境に敬意を持つという大事なメッセージだ。

クレジット

監督: メカニクス記梨子
アーティスト: イェッケ・ヴァン・ローン
翻訳: 林百合江
協力: イェッケ・ヴァン・ローン、林百合江、井出真理子、
ラッドバウト・モライン、島根県仁多郡横田町の田中ファミリー、
そして町民のみなさま

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