ドキュメンタリー

ベトナム人技能実習生を「幸せにする」――建設会社社長が掲げる「帰国後」の目標

岸田浩和

ドキュメンタリー監督

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「絶対幸せにしてやるから、心配すんな」。北海道千歳市で建設会社を営む山口健さん(39歳)は、4年前、ベトナムからやってきた技能実習生にそう宣言した。現在、24人のベトナム人技能実習生を受け入れている。さらに、実習期間を終えて帰国した彼らを現地で採用できるように、ベトナムでの案件受注も計画中だ。実習生たちと向き合う日々、背景にある思いを取材した。

■「こんな軽い気持ちで面接をやっちゃダメだ」

2016年5月、北海道千歳市の建設会社「久健興業」の社長・山口健さんは、同業者に誘われ、ベトナム・ハノイ市の日本語学校を訪れた。ベトナム人技能実習生の面接のためだ。「外国人の実習生なら人数が集まり、人件費も安い。ベトナムは物価が安いので、安い賃金でも喜んでくれる」と聞いて、興味を抱いた。建設業界全体で人手が不足し、求人を出してもなかなか集まらなくなっていた。

山口さんは面接をこう振り返る。
「その時の僕は、立場が上になったような気持ちでいました。ところが、なんで日本に来たいのかと聞いたら、『自分の国だけど、ここにいても何も夢がない。お金がない。チャンスをつかみたい』って。こんな軽い気持ちで面接をやっちゃダメだ、と罪悪感を持った。会社の苦境を助けてもらおう、でも来てもらうんだったら、そのぶん返さなきゃいけない。『絶対幸せにしてやるから心配すんな』と誓った」

山口さん自身、お金のないつらさを知っていた。16歳で父が亡くなり、家を失って家族が離散。友人の家を渡り歩いて暮らした経験がある。
「お金はないし、寂しいし、何もなかった。高校は2年で中退して、それからずっと仕事をしている。人種とか関係なく、寂しいものは寂しいし、つらいものはつらい。俺もそれ、知ってるよって。『絶対幸せにしてやる』という約束は守らなきゃいけないと思う」

■言葉の壁はあっても、大きな戦力になる

1期生は5人。いざ受け入れてみると、実習生たちは収益改善の助けになった。久健興業では、舗装工事の一部、アスファルトを敷く作業を専門の職人に外注していた。ならし棒を使い、湯気の立つ熱いアスファルトを手作業で慣らす。難易度が高く、修正がきかない。元請け先の現場で約10カ月間、技能実習生2人が舗装作業に携わり指導を受けた。すると彼らが、この作業を完全に習得して帰ってきたのだ。来日2年目のことだった。

これにより、舗装工事を自社で一貫して受注できるようになる。実習生のポテンシャルを感じた山口さんらは、思いきってさまざまな仕事を任せ始めた。彼らの日本語力を補うため、丁寧に説明する。実習生は積極的に作業を効率化し、精度を上げる工夫をするようになった。

2020年12月、4期生が来日し、実習生は24人に増えた。1期生がリーダーになり、チーム制で新人を指導している。山口さんは言う。
「借金を背負って国を出てきた彼らは、決められた期限内で渡航費を返済し、さらにお金を貯めて帰ろうと必死です。言葉の壁はありますが、大きな戦力になってくれます」

実習生は、渡航や手続きに50〜100万円を支払って日本に来る。2015年に久健興業へ来たタインさんはこう話す。「自分の家族は生活が大変だったから、次の世代、子どもたちは幸せになってほしい。仕送りは毎月12、3万円くらい。今はいっぱいお金を貯める。それだけ」

■給与や待遇を改善するためにできることは

2019年末時点の法務省・出入国在留管理庁のデータによれば、日本に滞在する外国人技能実習生は41万972人。同年、年間8796人が失踪している。失踪した技能実習生に関わる聴取票の写しを見ると、「低賃金」「暴力を受けた」などの理由が並ぶ。

北海道鳶土木工業連合会の鈴木辰敏会長はこう語る。
「技能実習生の失踪事件やトラブルの原因の多くが、説明とは異なる低賃金や賃金不払いなどお金の問題。安くて都合のよい労働者とみなして、劣悪な条件で酷使する。『最低賃金を払っておけばいいんだろう』という感覚の経営者が多いですね。将来、日本とアジア諸国の経済格差が縮まれば、日本人が海外に働きに出ることもあるでしょう。現在の実習生の待遇を、自分自身の身に起こると想像してほしい」

2018年、山口さんは、実習生の給与や待遇の改善ができないかと考え、行動を起こした。通常、来日する外国人技能実習生らは、監理団体と呼ばれる受入組織を通じて実習先の企業に赴任する。給与や待遇は、監理団体が受入企業に対し、指導や監査を行うのだ。山口さんは、翌年1月に監理団体の理事長に就任し、賃金や条件の見直しを行った。来日1年目は日当7500円、2年目は日当8000円と規定、3年目以降は日当8500円以上とし、派遣先の企業が技能に応じて給与を渡せるようにしている。

2021年1月現在、久健興業では、来日4年目の1期生に日当1万1000円を支給。1期生のタインさんは、「(別の会社で実習するベトナム人の友人と比べると)久健の給料が一番いいです」と言う。

だが、理団体の指導と監査だけでは、賃金の問題は解決できない。実習生の給与は、総支給額から法定の保険や税金と家賃・光熱費が天引きされる。さらに受け入れ先の企業ごとの判断で、家具や布団のリース代、作業に使う工具や作業服のレンタル費などが天引きされることもある。

山口さんは言う。「うちの場合、総額5万円程度のハーネスと作業服、工具一式を最初にプレゼントします。こうした用具類を、毎月1万円のリース費で3年間天引きしていた業者を聞いたこともある。本来は『協力してもらって、来てくれてありがとう』なのに」

■5年後、帰国してからも関係を続けるために

久健興業にとって、ベトナム人技能実習生は頼もしい戦力であり、かけがえのない仲間になった。山口さんは「日本人社員の理解がなければ、うまくいきません」と断言する。同じ現場で実習生と一緒に働く日本人が、移動や休憩中の雑談などでコミュニケーションをはかり、信頼関係を築いてきた。

そんななか、山口さんは実習生が帰国後に直面する問題について考えるようになった。実習生らは帰国後、日本で学んだ建設や鳶の技術を生かす機会がほとんどない。建設や足場の方式が日本とは異なるのだ。また、賃金が約7分の1に下がるため、日本で貯めた蓄えを食い潰してしまう例も少なくない。山口さんは、帰国後も関係が続く方法を模索し始めた。

「これまで、技能実習生制度は5年で終わる感覚でした。ベトナム人の立場で考えれば、実習が終わって帰国した瞬間から、ようやく彼らの勝負が始まる」
発電用のソーラーパネルの設置工事に携わったことがきっかけで、一つのアイディアが頭に浮かんだ。元請け企業がベトナムでも同様の工事を行っていると耳にしたのだ。「ベトナムで帰国後の技能実習生を集めて、現地の工事に携わることができないだろうか。実現可能なら、久健興業がベトナムに進出してもいい」

幹部社員らに考えを告げると、すぐさま数名が「それなら、おれが行きますよ!」と名乗りを上げた。現地の建設会社と競合することは難しくても、ソーラーパネルの設置や日本の大手建設会社による工事など、優位性が発揮できる現場はあるかもしれない。「日本の建設技術や現場経験を持つ実習生たちは、日本語が話せるベトナム人として、力を発揮できるはず。現地の労働者と日本人の間に入って、リーダー役を務めてもらえればいい」

山口さんは、すぐさま現地への視察を計画。コロナ禍で視察はいったん延期となったが、今年はあらためて現地視察の機会をうかがっている。
「貯まったお金を食い潰すことなく、彼らが幸せに生活できるよう、長く関わっていくことが自分の役目です」

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本作品は【DOCS for SDGs】で制作された作品です。
【DOCS for SDGs】他作品は下記URLより、ご覧いただけます。
https://documentary.yahoo.co.jp/sdgs/
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改訂履歴:
※1.舗装作業を習得した実習生の記載に関し、文中の「修行」という表現が正確ではなかったため、「舗装作業に携わり指導を受けた」と修正を行いました。(2021.01.28 18:00)
※2.監理団体の役割と職掌につき、語句や表現が不十分であったため、該当する箇所を修正致しました。(2021.01.28 18:15)

受賞歴

ニューヨーク市フード映画祭(2016)最優秀短編賞、観客賞
京都インディーズ映画祭(2012)最優秀ドキュメンタリー賞

クレジット

監督/撮影/編集 岸田浩和
プロデューサー  金川雄策、伊藤義子
フィクサー    赤山貴文
通訳及び翻訳   上仲勇毅、Huyen Phan
取材協力     久健グループ
Special thanks   本間貴士、丸山佑介

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