「昨日家が流された」気候変動に揺れるバングラデシュ貧困層、気候難民の深刻さ

小西遊馬

ドキュメンタリー作家/ジャーナリスト

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海面上昇など、気候変動で住まいを追われる気候難民はいま、世界で年間2000万人にものぼるといわれている。中でも、南アジアに位置するバングラデシュは、気候変動の影響を最も受ける国のひとつに数えられる。かつては最貧国とも呼ばれていた同国で、気候難民はいかに生まれ、どのように生きているのか。難民や環境問題を中心にドキュメンタリー作家、ジャーナリストとして活動している私は、沿岸部の村、カラバギで暮らす人々が気候変動の影響を受けていることを知り、現地に赴いた。

●「それは、神様しか知らない。」

首都ダッカより南西に172kmに位置する村カラバギへは、大型の船で丸一日かけて川をのぼり、そこからまた未舗装の道を車で4時間程かけて到着する。

南アジアに位置し、インドとミャンマーに囲まれたバングラデシュは、北側の山岳地帯から無数に広がる川が縦断し、南側インド洋に向かって注ぎ込んでいる。
沿岸部は、川から運ばれた土が堆積してできた土地で、海抜の低い土地がベンガル湾に向かって広がる。
砂ぼこりが空っ風で舞い上げられた道を抜けていくと、川沿いに並ぶ高床式の住居が目に付く。
村人に話を聞くと、かつては、家の周囲で野菜を育てたり、穴を掘って水をためて魚の養殖を行ったりして暮らしていたという。

バングラデシュは年々上昇する高潮により毎年100km平方ほどの規模で侵食が起こり、それにより家が流され、多くの住人が村から避難したという。私が見ただけでも、空き家が既に5-6軒ほど並んでいた。塩害により農業は大きなダメージを受け、高潮によって真水と塩水が混じることで生態系の変化なども起こり、「かつて捕れていた魚も、今は半分も捕れない」と村人は話す。

実際に、村に到着したときに歩いた川辺の土地は、高潮の影響により、わずか4時間ほどで4-5m水位が上がり、あっという間に姿を消してしまった。一部は沈み、残った家は川の上に浮かんでいるようにもみえる。彼らは泳いだり、船を漕いで移動しなくてはならない。

「昨日家が流された。30世帯の家が消えていった。」
村民は大河の遠くを指差し僕らにそう語る。昨日まであったという家の残骸とみられる木片がぷかぷかと浮いていた。

なぜ気温が上昇していると思うか、彼らに訪ねた。

「それは神様しか知らない。神様がそうしたんだよ。」

●バングラデシュの抱える気候問題

国土の半分以上が海抜7m以下となっており、水害に対して脆弱(ぜいじゃく)だ。

追い打ちをかけるかのように、インド洋を北上してバングラデシュに上陸する台風は、海面の温度上昇により年々規模が大きくなり、猛威を振るうようになった。10年に一度ほどの巨大な台風が年に3-15回ほど起こる可能性があるといわれ、さらにバングラデシュでは2100年までに0.4-1.5mほど海面が上昇する予測もあり、被害の拡大を心配する声が広がっている。

2020年5月に上陸した台風では、76kmの海岸線の防波堤が決壊し、国土の4分の1が浸水。
洪水は2カ月続き、20万人以上の家屋が破壊された。バングラデシュの人たちは気候変動における対策や修繕に年間2000億円もの金額を負担せざるを得ない深刻な状況だ。

気候変動の影響を最も受ける彼らは、国の中でもBOP層と言われる貧しい暮らしをしている人たちだ。Enviromental justice foundationの報告書によると、毎日1000~2000人が環境の変化で、仕事や家を失うなどを理由に生活が難しくなり、首都ダッカに流れ込んでいるという。彼らがどのように生計を立てているのか、ダッカに向かった。

●急激な人口増加と「労働問題」という新たな課題

カラバギを離れ、首都ダッカの西側に流れるメグナ川を船で移動すると、川沿いには高層の古い建物が軒を並べていた。それらは、移住してきた彼らの就労先の1つとなる繊維工場群だという。

人や力車、牛車にヤギなどがひしめき合い、クラクションが鳴り響く市街を通り抜けて、僕は工場に足を運んだ。工場によりばらつきはあるが、10代の若者も働いており、革製品の工場では、有害な化学薬品での処理工程を素手で行う人々の姿があった。

●「気候難民」住まいを追われて行き着く先

1億6,650万人の国民が日本の4割ほどの国土に暮らす人口密度が高いバングラデシュ。近年、アパレル産業の外資投資により、2019年度の経済成長率は過去最高の8.15%を記録した。新型コロナウイルスの感染拡大影響を受けたものの、2020年度も5.24%の見込みとなっている。

急激な経済成長の影では、労働環境が問題となっている。
都市に流れ込んだ人々はスラムに住み、繊維工場や、革なめし工場、または力車の運転手など低賃金に加え、劣悪な労働環境で働くこととなるケースが多い。

バングラデシュのアパレル産業の搾取構造や、環境汚染の問題は、2013年4月24日、死者1000人以上、負傷者2500人以上の犠牲者が出た 「ラナ・プラザ崩落事故」によって世界で有名になった。これは「ファッション史上最悪の事故」と呼ばれ、ファストファッションの生産のため、過酷な労働環境と大きな環境負荷をかけていたことが明るみとなった。

近年、バングラデシュでも古くから存在する革製品市場も同様に、産業が生んでいる労働者の劣悪な環境や環境汚染に対して国際社会の非難が強まり、購買先を変更するなどの制裁が加えられている。労働者の92%はバングラデシュ人で構成され、世界の革製品の輸出量の10%を占めているが、2016年に年間300億円だった市場は2020年には90億円まで縮小しているという。

●地球の問題に「非当事者」という存在はない

環境や人権の問題を考えて、製品の不買運動などが繰り広げられる昨今。われわれはその先に、その地で生きている人々がいることをどこまで想像できているのだろうか。労働者に対しての適切なバックアップなしに購買を即座に中止すれば、路頭に迷ってしまう人々が多く生まれる。「不買」などの、消費者からすれば単純な行為で完結できる問題ではなく、その先まで見据えた対策を打っていく事が必要となってくることを現地に行って改めて感じさせられた。

近年日本でも今までにないような大きな台風が接近するようになった。その理由には日本近海の海面温度が上昇していることが関係しているという。日本の二酸化炭素排出量は、世界第5位。気候変動のようなグローバルな問題において、「非当事者」という存在はあり得ず、何らかの形で、どこかの誰かの生活に影響を及ぼしているという事実から目を背けることなく、今後も取材を続けていきたい。

受賞歴

Asia on film Festival, 国際平和映像祭にてアワード/観客賞受賞,
ロンドン国際映画祭, Short and Sweet film festival, Global Film Festivalにてオフィシャルセレクション

クレジット

監督/撮影/編集
小西遊馬

撮影協力
ジョン・ナリタ、高木大輔、永田翔太郎

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