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【横浜市】ホテルニューグランドで昭和文豪ゆかりの宿泊プラン 夜はシーガーディアン/大佛次郎没後50年

krayskyライター/東京神奈川行ったり来たり(横浜市)

横浜出身の作家・大佛次郎(おさらぎじろう)。時代小説の「鞍馬天狗」シリーズ、横浜を舞台にした小説「霧笛」などで知られる。昭和48(1973)年に亡くなってから、今年で没後50年。ホテルニューグランド(中区山下町)では、現在宿泊プラン「横浜を愛した昭和の文豪 大佛次郎 天狗の間 今昔散歩」を販売している(2023/4/1~2024/3/31)。

ホテルニューグランド 318号室の資料より
ホテルニューグランド 318号室の資料より

新聞連載に追われた作家は、十年にわたりホテルニューグランドを仕事場として使った。山下公園の目の前、港を臨むロケーション。宿泊プランでは、大佛ゆかりの部屋に滞在できる。作家の気持ちに近づくべく、1泊2日を過ごしてみた。

ホテルニューグランド外観
ホテルニューグランド外観

ホテルニューグランドは昭和2(1927)年開業、横浜を代表するホテルの一つ。白い建物の本館と、1991年に建設されたタワー館がある。太平洋戦争後は駐留米軍に接収され、連合国最高司令官マッカーサーも滞在した。

本館入口を入ると、大階段。本館は銀座和光などを設計した渡辺仁によるもので、近代化産業遺産(経済産業省)にも認定されている。建物に一歩入れば、昭和初期の最高級の空間デザインを感じることができる。

宿泊フロントはタワー館側の入口から近い。頭上にはすっきりとしたデザインのシャンデリアが輝く。

いよいよ、本館客室フロアへ。シックな雰囲気に包まれている。本館3階の318号室が大佛ゆかりの部屋。映画やドラマとしても大ヒットした「鞍馬天狗」にちなんで、「天狗の間」と名付けられている。

318号室の前にはホテルニューグランドの描写がある小説「新樹」の紹介が
318号室の前にはホテルニューグランドの描写がある小説「新樹」の紹介が

一歩入ると、そこには広すぎず狭すぎず、ごく落ち着く空間が。ベッドやデスクなど、室内設備は新しいものだが、大佛が滞在していたころに近い雰囲気があるのではと思えた。

部屋は山下公園に面しており、この季節は青い銀杏の実が目の前に。銀杏の葉の向こうに海も見える。ソファーに腰かけて、しばしこの空間に浸る。

318号室の窓から
318号室の窓から

当時鎌倉に住んでいた大佛は、執筆のため横浜に仕事部屋を求めた。部屋に入ると、ゆったりとした気分になれるのは老舗ホテルの魔法か。参考図書として『大佛次郎』(新潮日本文学アルバム)と『鞍馬天狗読本』(大佛次郎記念館編、文藝春秋)、それに大佛とホテルについての簡単な解説が置かれていた。

猫好きだった大佛にちなんで、この部屋のキーには猫のチャームが付いている。横書きの部屋番号は右から左の方向に読む。

宿泊プランにはいろいろと特典が付いている。大佛次郎記念館の特別入場券・一筆箋・ブックマーク、それに一杯のカクテル。本館1階のバー「シー ガーディアンⅡ」で「ピコンソーダ」がいただける。一日が終わりに近づくと、大佛先生はバーのある1階に降りてピコンソーダを飲み、当時の中華街「南京町」に繰り出したという。

作家の足取りをたどって中華街へ。海沿いのニューグランドを出ると、中華街へは東門(朝暘門)が近い。静謐なホテルの一室から、一気ににぎやかな空気へ。

中華街で夕飯を済ませ、ホテルに戻ってからバー「シーガーディアンⅡ」に行った。大佛が滞在していた当時は改装前のバー「シーガーディアン」。ここで大佛先生が愛飲したのが「ピコンソーダ」というカクテルだ。

滞在当時の大佛がバーで過ごす写真とともに。「アメール・ピコン」はオレンジとハーブの入った、苦みのあるリキュール。苦みを和らげるのにザクロのシロップを入れるのが大佛流で、それをソーダで割ったもの。オレンジの香りが強く、なかなか甘い。

ここで飲んべえの筆者はもう一杯、「マティーニ・ニューグランド」を。終戦直後は入手困難だったドライベルモットの代わりに、シェリーを使った、ホテルニューグランドスタイルのマティーニ。

バーを後にして、部屋に戻る。あとは心地良い部屋で眠るだけ…。

朝食は洋食・和食・ルームサービスから選択できる。品数豊かな写真に惹かれて、「京料理 熊魚菴 たん熊北店」の和食へ。ちなみに大佛は、ホテルニューグランド滞在の影響もあって食事は洋風だったようだ。

朝食の和食、主食はご飯とお粥から選択する。
朝食の和食、主食はご飯とお粥から選択する。

本館5階からはこの眺望。山下公園を眼下に臨み、ここの屋上で大佛が過ごした写真も残っている。自宅を離れて執筆し、夜は街に繰り出す。横浜の贅沢な過ごし方を、大作家に指南してもらった気がした。

<関連情報>
ホテルニューグランド
住所:横浜市中区山下町10番地
アクセス:元町・中華街駅1番出口から徒歩1分。車の場合は関内駅・桜木町駅から各8分
宿泊プラン「横浜を愛した昭和の文豪 大佛次郎 天狗の間 今昔散歩」(大佛次郎記念館ホームページ)。2023/4/1から2024/3/31までの没後50年記念企画。平日・休日:18,000円、金曜日:20,000円、土曜日・休前日:22,000円(2名1室1名料金、税込・サービス料込)。予約はホテルニューグランド宿泊予約係・045-681-1841

ライター/東京神奈川行ったり来たり(横浜市)

東京生まれ、東京&神奈川&アメリカ大陸育ち。出版社やメーカー勤務を経て、好奇心とともに東奔西走。好きな言葉は「一石二鳥」「三つ子の魂百まで」。文化/日本語/フィクションとノンフィクション/経済的/すこやかな生活。

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