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ボケたくなければ「脂肪肝」にも要注意。酒好き以外も必読の最新医学エビデンス。

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

歳をとってくると将来の「ボケ(認知症)」が気になりませんか?自分が困るだけでなく、家族にも迷惑をかけるかもしれません。避けたいものです。

この「認知症」はひとたび発症すると、残念ながら現在の医学では「改善」できません。可能なのは「進行の遅延」だけ。だからこそ大切になるのが「予防」です。

そのような観点から注目すべき研究が、最近、報告されました。「脂肪肝の人は認知症になりやすい」というのです。脂肪肝を早めに治しておけば、将来認知症になる危険性を減らせるかもしれません。以下、背景知識も含めご紹介します。

1. 脂肪肝には2つの種類

肝臓に余分な脂肪がたまってしまう「脂肪肝」。この脂肪肝には2種類あります。よく知られているのは「アルコール性」の脂肪肝でしょう。お酒を飲みすぎた結果、肝臓の働きが悪くなり、脂肪をためこんでしまう状態です。

お酒を飲まなくても肝臓に脂肪がたまるNAFLD

「ああ、ならば心配ない。付き合い程度にしか飲まないから」と思ったあなた、ちょっと待ってください。「アルコール性」ではない脂肪肝もあるのです。その名は「NAFLD」(ナッフルディー)。”Nonalcoholic Fatty Liver Disease” (非アルコール性脂肪性肝疾患)の略で、アルコールを多飲したわけではないのに、肝臓に脂肪がたまっている状態です。

NAFLDの大きな原因は「メタボ」

なぜ、お酒もそれほど飲まないのに、脂肪肝になるのでしょう。基本的には「メタボ」(代謝異常)が原因だと考えられています。「代謝」とは簡単に言えば、体内での物質「産生・分解」作業。食べ過ぎや運動不足でこのバランスが崩れ、肝臓に脂肪がたまってしまうわけです。

2. NAFLDの人は認知症のリスクが高い

そして肝臓がNAFLDの状態になると、その後、認知症になる危険性も増えることが明らかになったのです。論文は今年の7月、Neurology(神経学)という米国神経学会発行の学術誌に掲載されました [文献1]。NAFLDは決して肝臓だけの病気ではなかったのです。以下、研究の概要をご紹介します。

3万人以上の高齢者を解析、NAFLDで認知症発症リスクは1.4倍に

研究が行われたのはスウェーデン。65歳以上でNAFLDと診断された3千人弱と、年齢・性別・居住地をそろえた、NAFLDのない(非NAFLD)3万人のデータを比較しました。すると6年間弱の間に、NAFLDの人では非NAFLDに比べ、認知症の発症リスクが約1.4倍に上昇していました。

「メタボ」が認知症リスクを上げている可能性

ただこの研究が明らかにしたのは「NAFLDの人は認知症リスクが高い」という事実であり、「NAFLDが認知症の原因」とは断定できません(時間の前後関係は必ずしも因果関係を示しません。例えば朝ご飯を食べた後にクラクションを鳴らされても、朝ごはんは「原因」ではありませんよね?)。

しかし論文の著者たちは、NAFLDが認知症の原因である可能性を示唆しています。仕組みとしては、NAFLDをもたらす「メタボ」が脳の血管を変性させ(その結果、血流が悪くなり)認知症の危険性が上がる、あるいはNAFLDとなった肝臓では機能が低下し、アルツハイマー病の原因と考えられている物質が脳に蓄積しやすくなる(肝臓は体内最大の解毒工場)——などの可能性が挙げられています。

だとすれば、早めのNAFLD改善により、その後の認知症リスクが減る可能性も否定できません。

3. NAFLD改善に医師が推奨するのは「食事の改善」と「運動」

ではNAFLDを改善するため、私たちに何ができるでしょう?良いヒントがあります。日本消化器病学会と日本肝臓学会が共同で出したガイドライン、「NAFLD/NASH 診療ガイドライン 2020(改訂第 2 版)」です(ガイドラインへの直リンク)。これまでに報告されたさまざまな研究結果を元に、ドクターたちが合議の上、「ベスト」と考えられる方法を推奨しています。

食事の基本は、体重減少を目指した「炭水化物と脂質」の制限

その結果ガイドラインが推奨しているのは、「炭水化物もしくは脂質が制限された食事」による「カロリー制限」と「体重減少」です。カロリー制限の目標は明記されていないので、まずは「ローカーボ、かつ脂っこいものを避ける」食事を心がけ、体重が減るように工夫すると良いでしょう

筋トレでも肝脂肪は落とせる

またガイドラインには、運動もNAFLD改善に役立つと書かれています。と言われると、「有酸素運動かな、しんどいな」と思うかもしれません。しかし「筋トレ」(レジスタンス運動)でも、有酸素運動と同等の効果があるということです。

十分な有酸素運動の時間が取れない人は、手軽にできる「筋トレ」メニューを考えてはどうでしょうか?ジムに通わなくてもできる「自重トレーニング」の方法や、家庭で手軽に筋トレできる器具なども探してみましょう。

4. まとめ

いかがでしたか?NAFLDが単なる肝臓の病気だけではなく、将来の認知症発症を増やす危険因子だとお分かりいただけたでしょうか。そして幸いなことにすぐに薬を使わなくとも、食事と運動に気を使えば、NAFLDは改善できる可能性があります。今日から少しだけ、気をつけてみませんか?

なお今回ご紹介した論文の要約は、アメリカ国立医学図書館サイトで閲覧できます。関連する論文もリストアップされています。全文英語ですが無料翻訳サイトDeeplを使えば簡単に日本語に直せます。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本を超える。

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