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たまには逆の腕でも測りませんか?「片腕だけではちょっと足りない」家庭血圧測定【最新エビデンス】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

1. 家庭血圧、測っていますか?

日本では今、一家に一台、家庭血圧計があると言われています。測定されている方も多いでしょう。注意しておきたいのが家庭血圧の基準値。「上が135、下が85」、これ以上であれば「高血圧」です。「上が140、下が90」は医療機関や健康診断で測定した場合の高血圧基準です。混同しないでくださいね。

高血圧は血管の病気

さて本題に入る前にちょっとだけ、「高血圧」とは何かを簡単に振り返っておきましょう。

「人は血管とともに老いる」。これは近代内科学の基礎を築いたウィリアム・オスラー博士の言葉です。血管は老いるにつれ「しなやかさ」を失い、流れてきた血液量に対応した拡張が困難になります。その結果、血液が血管の壁にかける圧力(血圧)が上昇してしまうのです。

新しいゴムホースと古くなってカチカチのホースを思い浮かべていただくと分かりやすいでしょう。でもご安心を。血管はホースと違って「生きて」います。早いうちに生活習慣を改善すれば「しなやかさ」を取り戻せますよ。

2. 時には両腕で血圧を測りましょう

それでは今回の主題です。家の血圧はどちらの腕で測っていますか?大抵は利き腕の逆ではないでしょうか(右利きなら左)?日本高血圧学会が出しているガイドラインも「原則として利き手の反対側での測定を推奨」しています。

しかし時には、両腕で測った方がいいかもしれません。それが今回の結論です。というのも、左右の血圧に一定以上の差があると、心筋梗塞や脳卒中などを起こす確率が高くなるのです。昨年、報告された研究からご紹介します。その名も「Hypertension」(高血圧)という、この分野の研究では世界で一二を争うクオリティの学術誌に掲載された論文です。

・左右の差が5mmHg以上あったら要注意

"INTERPRESS-IPD"(インタープレス・アイ・ピー・ディー)と名付けられたその研究では、東アジアを含む全世界から集められた5万人弱のデータが解析されました。両腕の血圧差を対象とする研究としては、これまでで最大の規模です。

すると、上の血圧(収縮期血圧)の左右差が1mmHg大きくなると、その先10年間に心筋梗塞や脳卒中などで死亡する確率も1〜2%ずつ高くなっていました。意外にもこの関係には「血圧値の高低」そのものは影響しません。つまり「上が135、下が85」未満だったとしても、血圧左右差が大きいと上記疾患による死亡リスクは上がっていくのです。

そして目安として、左右の差が「5mmHg以上」になったら注意が必要だと明らかになりました。もしも皆さんが該当するなら、かかりつけの先生に相談してみると良いかもしれません。論文のリンクも文末に貼っておきます。

・血圧「左右差」は隠れた血管病変の「サイン」かも

なぜ、血圧の左右差が大きいと、心筋梗塞や脳卒中で死亡する危険性が上がるのでしょう?それは血圧「左右差」が、隠れた血管病変の「サイン」かもしれないからです。全身を走る血管のどこかに病変があると、血圧左右差が大きくなります。この現象は複数の論文で報告されています(記事末にリンク)。だから「左右差」が大きいと、心筋梗塞や脳卒中など、血管病変によって引き起こされる疾患が増えるという理屈です。分かりやすいですよね。ただし本当のところは、まだよく分かっていないようです。

・早期の「サイン」を見逃さない

いかがでしょう。INTERPRESS-IPD研究は診察室で測定した血圧での検討でしたが、家庭血圧にも応用できるはずです。定期的に両腕で血圧を測ってみませんか?「人は血管とともに老いる」。ならば血管病変のサイン(左右差)をいち早く見つけて生活改善。そして若い血管を保ちましょう!健康寿命を伸ばす第一歩です。

記事中でご紹介した論文の要約は、アメリカ国立医学図書館サイトで閲覧可能です(無料、英語)。関連する論文も探せます。リンクは以下の通りです。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本を超える。

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