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尿酸低下薬に勃起不全リスクの差?【最新エビデンス】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

中年以降の男性気になる病気の一つに「痛風」があります。字の通り「風があたっても痛い」というくらい疼痛の強い関節疾患です。現在日本全国で125万人の患者さんがいると推計されているので [政府統計]、単純計算すれば国民の100人に1人が痛風でもおかしくありません。さらに男性では年々患者数が増え続けており [高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第3版) 20ページ] 、さらに患者さんは増えるでしょう。

この「痛風」、高い尿酸値でリスクが高くなるため、治療には尿酸低下薬が使われます。前出ガイドラインにも「薬物治療により血清尿酸値を6.0mg/dL 以下にすること」を「推奨する」と記されています。

で、本日のお題です。尿酸を下げる薬によってはED(勃起不全)のリスクが高まる可能性があるのはご存じでしたか?Drugsという学術誌が2022年12月7日に掲載した研究(米国国立医学図書館 [英語] )をご紹介します。報告したのは上海交通大学(中国)のQiang Tong氏ら。

【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、論文や研究結果の内容はあくまでも「論文筆者」の見解です。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。あくまでもご自身の見解形成のご参考としてお読みください。

尿酸低下薬の種類によってはEDリスクが2倍

同氏らが解析対象にしたのは、米国のデータベースに登録された痛風患者68万人です。うち2万4千人はアロプリノール(A薬)と呼ばれる尿酸低下薬を、そして30万人がフェブキソスタット(F薬)という尿酸低下薬を、直近1年以内に飲み始めていました。そこでこれらの尿酸低下薬別にEDのリスクを比較することにしたのです。

ただし、A薬とF薬を飲んでいるグループは年齢や合併症などの属性(背景因子)に差があるため、単純に比較するだけでは薬の違いがもたらした差なのか、それとも背景因子の差によって生じた差異なのか区別がつきません。そこで「傾向スコアマッチ」という統計技法を使って両群の背景因子を揃えた上で比較しました。

その結果、19歳から64歳では、F薬服用でA薬に比べEDのリスクは2倍に増えていました。とはいえ、ED発生率そのものはF薬でA薬に比べ1%高い程度(およそ2% vs. 1%)ですから、100人がF薬を飲んだとしてそのうちの1人が、A薬を飲んでいたら経験しなかったであろうEDに直面する——という計算です。

その程度の差と言えばそれまでですが、F薬を始めてから、ここ一番で「おかしいな・・・(汗)」という男性は、ドクターや看護師さん、あるいは薬剤師さんに相談してみてはどうでしょう?

今回もご紹介した論文は英語ですが、無料翻訳サイトDeeplにコピペすれば日本語でも読めます。ぜひどうぞ!

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本を超える。

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