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断食習慣で新型コロナ重症化を抑制?ワクチンに代替の可能性も【ちょっと意外な最新論文】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

新型コロナは怖いけど、ワクチンも安全性が・・・」とお悩みのあなた。嬉しい研究が報告されました。「定期的な断食」で重症化を防げるかもしれません。「英国医学雑誌」という臨床系医学4大学術誌の「栄養、予防と健康」版に'22年7月1日付で掲載された論文をご紹介しましょう。著者はインターマウンテン医学センターのBenjamin D Horne博士たちです。

【注意】本記事は医学論文の紹介あり、論文や研究結果の内容はあくまでも「論文筆者」の見解です。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。あくまでもご自身の見解形成の参考としてお読みください。

ワクチン未接種の「基礎疾患あり」205名を解析

解析対象になったのは、米国ソルトレイクシティの24病院で心臓病の疑で検査をしたあと、新型コロナ感染が明らかになった205名です。いわゆる「基礎疾患のある」人たちですね。感染時期は2020年の3月から翌年2月。新型コロナワクチンが承認される(20年8月)前なのでワクチン接種者は含まれていません。また新型コロナ治療薬もまだ開発されていない時期です。

この205人を「定期的な断食習慣」の「ある」人たち(約35%)と「ない」人たちに分け、新型コロナ感染後の「入院・死亡」率を比べてみました。この地域は「末日聖徒イエス・キリスト教会」(モルモン教)の信者が多い地域なので宗教上の理由から定期的に断食する人たちが多いのです。断食は毎月一週目の日曜日に1日のうち2食を断つのが原則です。

断食習慣「あり」で重症化リスクが40%減少

その結果、断食習慣の「ある」人たちでは「ない」人たちに比べ、「入院・死亡」が3分の1近くに減っていました(11%対29%)。

ただし断食習慣の「ある」「なし」で年齢や肥満度、基礎疾患を持っている割合が異なっており、それらの違いが「入院・死亡」の差をもたらした可能性も否定できません。そこでそれらの違いがもたらす影響を統計学的に除外して比較しましたが、やはり、断食習慣「あり」で「入院・死亡」の危険性は0.6倍に減少していました。ただし「感染」そのものを減らす効果は認められなかったということです。

断食習慣のある人が多い地域では新型コロナ死亡も少?

「断食習慣による新型コロナ重症化抑制」を示唆するデータを、Horne博士たちはもう一つ挙げています。このソルトレイクシティがあるユタ州全体における、「新型コロナ死」の少なさです。ワクチン接種が始まる以前、ユタ州はアラスカ州と並び全米で新型コロナ死が最も少ない州でした。アラスカ州は地理的に米国本土から離れているため、感染が遅れたと容易に想像できます。しかし西部に位置し5つの州と接するユタ州はなぜ?

Horne博士たちの仮説は「住民の6割位以上が断食習慣のあるモルモン教徒だから」というものでした。断食が感染者の重症化を抑制したのではないかというわけです。

同博士たちは、「定期的な断食がワクチンの代替となり得ないか、さらなる研究を進める価値はある」と結論しています。

試してみる価値はあるかも

いかがでしたか?実を言えばこの研究、対象人数がそれほど多くないのが気になります。また今回「断食習慣あり」群の断食歴は平均で40年だったので、「にわか」断食で同じ効果があるかどうかは判然としません。しかし定期的な断食はこれ以外にも良い影響が多数報告されています。試してみても損はないでしょう。

今回ご紹介した論文は出版社ウェブサイトで全文を読むことができます。英語論文ですが無料翻訳サイトDeeplを使えば簡単に日本語に直せますよ。

なお「食事」については、以下の2記事も書いています。ぜひお読みください!

ではまた!

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本を超える。

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