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男性の尿酸値を上げるのはビールよりもウィスキー【最新情報】。

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

尿酸値が高くて怖いのは「痛風」だけではない

「尿酸値」と聞くと「痛風」を思い浮かべる方が多いと思います。でも高尿酸で怖いのは痛風だけではありません。「高血圧」になる危険性、あるいは心筋梗塞や脳卒中のような「心臓血管系疾患」を発症するリスクも高くなります。

例えば、

  • 尿酸値が1mg/dL高くなるに従い、高血圧になる確率は13%ずつ上昇する(約10万人のデータ解析結果)[文末文献1]。 
  • 尿酸値の高低で5群に分けると、尿酸値最高群では最低群に比べ心臓血管系疾患を発症するリスクは相対的に約7割も上昇(4,500人弱を観察)[文末文献2]。

などの数字が報告されています。

*正常値は「7mg/dL以下」(高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン [第3版] P19)

尿酸上昇はアルコール飲料間で本当に差がある?

さて「尿酸値が高い」というと悪者にされるのがビール。尿酸の材料となるプリン体が、アルコール飲料の中では比較的多く含まれているからでしょう。でもアルコール飲料必ず入っている「エタノール」も尿酸を増やすことが知られています [文末文献3] 。ならばビールよりも度数の高いアルコール飲料の方が尿酸を上げやすい?

そんな疑問に答える研究が3月1日、「米国医師会雑誌ネットワーク・オープン」誌に掲載されました [文末文献4] 。著者は聖路加国際病院の福井 翔先生たち。忙しい臨床の合間をぬって膨大なデータの解析に取り組まれました。

解析の対象となったのは、聖路加国際病院(東京都)で健康診断を受けた8万人弱の成人です。調査票を用いて飲酒量とアルコール飲料の種類を調べ、血中の尿酸濃度との関係を調べました。この病院は銀座から徒歩圏内。お酒飲みを調べるには絶好の立地かもしれません。

アルコール飲料間の比較はエタノールによる尿酸上昇の影響を排除するため、それぞれの飲料のエタノール量が同じになる量で比較しました(なので飲酒量の単位は「エタノール20mg」が何杯かで表示)。

男性の尿酸値を最も上げていたのは「ビール」ではなく「ウィスキー」

その結果男性では、エタノール摂取量が同じなら、尿酸上昇作用が最も強力だったのは意外なことにウィスキーでした。ビールはその次です。そして最も尿酸が上がりにくかったのが日本酒でした。日本酒党には嬉しいデータかもしれません。

一方女性では予想通り、多飲に伴う尿酸上昇が最も大きかったのはビールです。ただし女性はもともと尿酸値が低いので、ビールを多飲しても尿酸値は正常上限である「7mg/dL」にははるかに及びません。

万国著作権条約に則り引用
万国著作権条約に則り引用

「つまみ」の影響を受けている可能性も

プリン体をほとんど含まないウィスキーが男性だけとはいえ、尿酸値を大幅に上昇させたのは福井先生たちにも意外だったようです。それぞれの飲み物が腸内細菌に与える影響の差が、尿酸上昇の差につながった可能性があるようです。そしてもう一つ。飲み物によって「つまみ」(アテ)も違ってきます。もしかしたらその「つまみ」の差が尿酸値の差に反映されているのかも、と先生たちは記しています。

いずれにせよ、尿酸値上昇を恐れるがあまりビールを我慢してきた男性たちには朗報でしょう。今年の花見はビールを楽しんでください!(飲酒自粛要請場所を除く)

まとめ

いかがでしたか?

日本人8万人弱の健康診断データ解析の結果、男性の尿酸値を最も上げやすいアルコール飲料はウィスキーだったというお話でした。ただしウィスキーそのものが尿酸値を上げているのか、「ツマミ」が上げているのかは分かりません。

一方ビールを飲んだ時の尿酸値上昇はワインと同程度でした。そして尿酸が最も上がりにくいアルコールは日本酒でした。

お酒の席のちょっとしたウンチクにどうぞ。

今回ご紹介した論文は要約が無料で公開されています(一部は全文)。英語論文ですが無料の翻訳サイトDeeplを使えば簡単に日本語にできます。

ではまた!

今回ご紹介した論文

  1. 尿酸値が1mg/dL高くなるごとに、高血圧になる確率は13%ずつ上昇
  2. 尿酸値の高い群では低い群に比べ心臓血管系疾患のリスクが1.7倍
  3. エタノールを摂取すると尿酸値が上がる

【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の内容はあくまでも「論文筆者」によるものです。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。あくまでもご自身の見解形成の参考としてお読みください。また本稿筆者にアルコール飲料製造者や販売者とのつながりは一切ありません。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本を超える。

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