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「 心の不調」を訴える糖尿病患者さんの多くが飲んでいた治療薬は?4万人データ【最新論文】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

糖尿病患者さんの3割にうつ症状。だから気軽に相談を

糖尿病の患者さんはうつ病になりやすく、約30%にうつ症状があるといいます [厚労省e-ヘルスネット] 。「うつ病」と聞くと「心の病」と思いがちですが、からだの不調として表れることもあります。 「厚労省e-ヘルスネット」には「からだの不調」として

  • 体重が減った
  • 食欲がない
  • 眠りすぎる
  • 動きや話し方が遅くなった
  • 性欲が減った

が挙げられています。また「心の不調」で見逃されやすいものとしては

  • 以前は楽しめていた活動に興味を持てない、楽しめない
  • 集中したり、物事を決めることが難しい
  • 自分を大切に思えない
  • 失敗したわけではないのに罪悪感がある

があります。

このような症状が現れたら一人で我慢せず、ドクターに相談しましょう。

血糖低下薬により「うつ病」リスクが異なる可能性

さて今日の本題です。

糖尿病治療で使われる血糖低下薬間で、このような「うつ病」を発症する危険性に差がある可能性が3月31日、「糖尿病会報(アクタ・ディアベトロジア)」という学術誌に掲載されました [文末文献1] 。1964年から続く老舗論文誌です。

日本で非常に多く使われているDPP-4(ディーティーピー・フォー)阻害薬を飲み続けると、SGLT2(エスジーエルティー・ツー)阻害薬に比べ、「うつ病」になる確率が約3倍高くなるかもしれないという結果でした。

DPP-4阻害薬:「グラクティブ / シャヌビア」「エクア」「オングリザ」「ネシーナ」「トラゼンタ」「テネリア」「ザファテック」「スイニー」「マリゼブ」
SGLT2阻害薬:「カナグル」「ジャディアンス」「スーグラ」「デベルザ」「フィシーガ」「ルセフィ」

論文を書いたのは香港中文大学のJonathan V. Mui氏たち。簡単にご紹介します。

DPP-4阻害薬でSGLT2阻害薬に比べリスクは3倍。

解析対象となったのは香港の2型糖尿病患者。DPP-4阻害薬かSGLT2阻害薬を飲んでいた約5万8千人です。うつ病を発症するリスクが異ならないよう、年齢や性別、合併症などが同じになるよう患者を選びました。その結果、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬とも2万人弱が残り、この4万人弱で約5年間の「うつ病」リスクを比較したのです。

その結果、DPP-4阻害薬を飲み続けた人たちではSGLT2阻害薬にくらべ、「うつ病」となる確率は3倍近く高くなっていました

SGLT2阻害薬でうつ病リスクが低くなる理由としてMui氏たちは、神経細胞の炎症を抑えるからではないかと考察しています。

DPP-4阻害薬が悪いわけではない

ただし「うつ病」リスクが「DPP-4阻害薬で上がる」というよりも、「SGLT2阻害薬で下がる」と考えた方が良いかもしれません。というのも「古い血糖低下薬を飲んでいる人や血糖低下薬を飲んでいない人」に比べると、DPP-4阻害薬で「うつ病」を発症するリスクが低いという報告もあるからです [文末文献2] 。

ですからDPP-4阻害薬に阻害薬に限らず、糖尿病治療中に上記リストにある「不調」を感じたら、治療薬が関与している可能性も考え、迷わずドクターに相談しましょう。患者判断の勝手な服薬中止はご法度です。ドクターに相談しづらかったら薬剤師さんでも良いでしょう。今回ご紹介した論文をプリントアウトしていけば話も通りやすいと思います(こういう情報は規制の関係で製薬会社によるドクターへの伝達はまず無理。なのでご存じない方の方が多いと思います)。

糖尿病治療薬については次のような論文紹介記事も書いています。こちらも是非お読みください。ではまた!

糖尿病治療薬に認知症リスクの差?ボケたくなければ知っておこう。

今回ご紹介した論文

  1. SGLT2阻害薬に比べDPP-4阻害薬はうつ病リスクを上げる可能性 [英語、全文無料]
  2. DPP-4阻害薬は古い血糖低下薬や血糖低下薬未服用に比べうつ病リスクを下げる可能性 [英語、全文無料]

【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の内容はあくまでも「論文筆者」によるものです。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。あくまでもご自身の見解形成の参考としてお読みください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本超。日本医学ジャーナリスト協会会員(筆名)。

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