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1日4分間のVILPA(ヴィルパ)で発がんリスク減?2万人データ解析で明らかに【最新論文】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

「がん」による死亡抑制の可能性が注目を集めるVILPA

長寿国日本では2人に1人が発症すると言われている「がん」。言わずと知れたわが国最大の死因です。2021年、日本人の4人に1人は「がん「で亡くなてっていました [厚生労働省;令和3年(2021)人口動態統計(確定数)の概況概要] 。

この「がん」による死亡を減らす可能性があるとして最近注目されているのが、 VILPA(ビルパ:Vigorous Intermittent Lifestyle Physical Activity [日常生活中の断続的な高強度の身体活動])です。具体的には「坂道を2分間上る」「階段を1分間上る」「早足で2分間歩く」「ちょっと重いものを2分間運ぶ」——くらいの活動です [文末文献1] 。

昨年12月に公開された論文では、

1)1日に1回「最長2分間」のVILPAがあるだけで「がん」による死亡リスクが3/4に減り、

2)これが1日3回まで増えるとさらに、およそ6割にまで低下する

と報告されています。英国2万5千人を観察した研究結果です [文末文献2]。

1日3分ちょっとのVILPAで「発がん」も減る

そして今回、今度は「がん」に「なりにくい」VILPAの量が明らかになりました。7月22日、米国医師会雑誌・悪性腫瘍版(JAMA Oncology)という学術誌に掲載された論文をご紹介します。著者はシドニー大学(豪州)のEmmanuel Stamatakis教授たちです [文末文献3]。

今回Stamatakis教授たちが解析の対象にしたのは、英国バイオバンクという自主参加型観察研究です。がんの診断歴がなく「余暇に運動はしない、そして毎週決まった散歩もしない」と答えた2万2千名強を選びました。そしてこの人たちに7日間、手首につけた運動センサで日々の身体活動を記録してもらい、それから約6.5年間に発生した「がん」との関係を調べました。

その結果、1日に占めるVILPAの時間が長いほど、がんになる可能性が低いことが明らかになりました。注目したいのはその時間の短さです。例えば1日にまったくVILPAをしなかった場合に比べ合計3.4分間の VILPAをするだけで、「がん」になる危険性は相対的に17%減っていました。4.5分間のVILPAなら20%です。もちろんVILPAの時間がもっと長くなれば、「がん」になる可能性はもっと低くなっていました。

ただしこの研究では、「VILPAががんを減らしたのか」(ファクター)なのか、それとも「 VILPAをたくさんできる人はがんになりにくいのか」(マーカー)なのか、この点は明らかではありません。しかしStamatakis教授たちは「VILPAががんを減らした」という立場に立っています。

「抗炎症」や「インスリン抵抗性解除」が発がんを抑制か

VILPAが発がんを防ぐ仕組みとしては「炎症を抑える」「内因性インスリンの効きが良くなる [インスリン抵抗性解除](=インスリン濃度が下がる)」(内因性インスリン過多には発がん性が示唆されている) などを挙げています。

いかがでしたか?1日4分ほどの VILPAでがんになる危険性が2割ほど低下するという論文でした。「坂道」「階段」「早足」「モノ運び」など日常生活で簡単にできるものばかりです。さあ1日1回はエスカレーターを使わずに階段を上り携帯を見ながらのダラダラ歩きをやめて颯爽と歩きませんか?それで「がん」のリスクが減るなら儲けものです。

VILPAについては「がん」で死なないための意外な秘訣。それは「普段のVILPA(ヴィルパ)」という論文紹介記事も書いています。こちらもぜひ、お読みください。ではまた!

今回ご紹介した論文

  1. VILPAとは [英語、全文無料]
  2. 1日5分弱のVILPAでがんによる死亡を抑制. [英語、全文無料]
  3. 1日4分弱のVILPAで発がんリスクも減少. [英語、全文無料]

【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の内容はあくまでも「論文筆者」によるものです。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。あくまでもご自身の見解形成の参考としてお読みください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本超。日本医学ジャーナリスト協会会員(筆名)。

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