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意外な運動に血圧を下げる大きな効果。それは「壁を使った空気イス」【最新論文】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

「高血圧は下げなくていい」は本当?

週刊誌などが高血圧を取り上げるとなぜか繰り返される「高血圧は下げなくていい」というスローガン。「血圧が上がるのは加齢に伴う自然現象だから」という説明が最も多いようです。確かに第二次大戦中の医学教科書にはそのように書かれていました。そしてそれに従い高血圧を放置し、脳出血で突然亡くなったのが、米国大統領だったフランクリン・D・ルーズベルト(1882- 1945年)です。

彼の死をきっかけに、米国医学会では「高血圧を放置するのは良くないのではないか」との声が上がり始めます。そして最初は重症の高血圧患者を集め、恐るおそる降圧薬を飲む群と偽薬を飲む群に振り分ける臨床試験を実施しました(VA研究、文末文献1)。その結果、降圧薬で血圧を下げた方が脳卒中や心不全などの心臓血管病が少なくなることが分かりました。1967年の話です。

そこでその後、対象を少しずつ軽症高血圧に移しながら同様の試験を繰り返し、1991年に報告されたSHEP(シェップ)研究 [文末文献2]の結果をもとに、上の血圧は140mmHg未満まで下げた方が良いと考えられるようになりました。

つまり「高血圧は下げなくて良い」が常識だったのは1960年代前半までです。

は日本人における血圧と心臓血管疾患による死亡リスクを調べた結果です。わが国の高血圧ガイドラインで「正常」とされている「120/80mmHg未満」に比べると、74歳までは心臓血管疾患で死亡するリスクが、血圧が高くなるほど上昇しているのが分かります。

これを見ても「高血圧は放置しても大丈夫」と思えますか?

とは言え、「降圧薬を使うのは嫌だ」という人、あるいは「高血圧ではないがもっと血圧を下げておきたい」人もいらっしゃるでしょう。

降圧薬を使わずに血圧を下げましょう

そこで今回の本題です。薬を使わずに血圧を下げましょう。医学論文を併合解析(メタ解析)した結果、「血圧を下げるのに効果的な運動の種類」が明らかになったのです。「英国スポーツ医学誌」という学術誌が7月25日に掲載した論文をご紹介します [文末文献3] 。この学術誌は英国医学雑誌という権威ある医学学術誌の兄弟誌です。著者はカンタベリー・キリスト・チャーチ大学(英国)のJamie J Edwards氏たち。

同氏らが今回解析したのは、運動が血圧に及ぼす影響を調べた「ランダム化比較試験」の結果です。論文データベースから270報の研究を洗い出しました。対象患者数は合計で1万5千人以上。かなり大規模な比較です。これらデータを併合解析し、それぞれの運動が血圧に与える影響を調べました。

ランダム化比較試験:比較する2群(以上の場合もあり)に患者をくじ引きで割り振る比較試験。どちらかの群が有利になるような人為が働かないため信頼性が高い。

血圧を下げるのに効果的な運動は「アイソメトリック」。「空気椅子」がベスト

その結果、最も血圧を下げる作用が強かったのは、私たちが思い浮かべるであろう「有酸素運動」ではなく「アイソメトリック運動」でした。「ジョギング」や「散歩」以外でも血圧は下がるのです。

アイソメトリック運動とは、1日1回、筋肉に最大筋力の70%ほどの負荷をかけ、大きく息を吐きながら6秒間静止するという運動法です。 「最大筋力の70%ほどの負荷」とは筋肉がプルプル震え出す直前の力具合だと言われています。

Edwards氏たちの解析によれば、このアイソメトリック運動で血圧は8/4mmHg下がるということです。

そして最も血圧の下がるアイソメトリック運動は「壁を使った空気椅子」でした。壁を背に自分が椅子のような形になるアレです。

足がプルプルする直前の角度に膝を調整し、6秒静止。これでOKです。息は止めずに大きく吐きましょう。

まとめ

いかがでしたか?アイソメトリック運動、中でも「空気椅子」で血圧が大きく下がるという論文のご紹介でした。出不精の人でもこれなら毎日実行できるはず。血圧が気になっている方はぜひ試してみてください。

血圧については次のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひ、お読みください。ではまた!

今回ご紹介した論文

  1. 重症高血圧は降圧薬を飲んだ方がメリットが大きい:VA研究 [英語、要約無料]
  2. 重症でなくとも高血圧は降圧薬を飲んだ方がメリットは大きい: SHEP研究 [英語、要約無料]
  3. 運動による血圧低下作用を比較:メタ解析 [英語、要約無料]

【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の内容はあくまでも「論文筆者」によるものです。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。あくまでもご自身の見解形成の参考としてお読みください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本超。日本医学ジャーナリスト協会会員(筆名)。

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