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長生きするための一日歩数が判明。「4000歩/日」でも十分?23万人弱データ【最新論文】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

「1日8000歩は歩け」の根拠は希薄

「健康のためには1日8000歩以上歩こう」。よく耳にする数字だと思います。でも「8000歩」という数字の根拠はそれほど強くありません。科学的データとして存在するのは「歩行による慢性疾患(高血圧や糖尿病など)予防作用は1日8000歩で頭打ち」という2022年の論文 [文末文献1]、あるいは'23年に出された「歩行による死亡リスク低下作用は1日8000歩程度で頭打ち」[文末文献2] といった論文くらいです。

では死亡リスクをリスクを減らすには、最低どれくらい歩けば良いのでしょうか?

「死亡リスクを減らしたければ最低1日4000歩でもOK」と結論する研究が8月9日、「欧州循環器疾患予防雑誌」という学術誌に掲載されました。著者はポーランド・ウッチ医科大学のMaciej Banach氏たちです [文末文献3] 。

「1000歩」歩くごとに「死亡リスク」は相対的に15%ずつ低下

今回、同氏たちが行ったのは「メタ解析」と呼ばれる、既存研究論文の併合解析です。複数の研究を併合するためより多数のデータを解析でき、その結果、個々の研究だけでは見えてこなかった傾向や基準値などを明らかにできるのが特徴です。

今回は歩数と死亡リスクの関係を観察した17の論文が解析対象となりました。参加者数にすると27万7千人弱という大きな数字です。

これらを対象に1日の歩数を基準に各群の参加者数が同じになるよう4群に分け、約7年間の死亡リスクを比べました。

すると歩数が一番少なかった1日平均「3,867歩」群に比べ、2番目に少なかった1日平均「5,537」歩群でさえ、死亡リスクは半減していました(0,51倍)。3番目に少なかった(2番目に多かった)1日平均「7,370」歩群なら0.45倍、一番歩いていた1日平均「11,592」歩群ではなんと0.33倍です。

さらに1日歩数が「1,000歩」増えるとそれに従って死亡リスクは相対的に15%ずつ下がる(0.85倍になる)ことも明らかになりました。まったく歩かないのに比べれば、1,000歩でも2,000歩でも歩いたほうが死亡リスクは減るのです。

1日最低「計30分」を目安に

ちなみに、この結果からなぜ「死亡リスクを減らしたければ最低1日4000歩でもOK」という結論になるのか正直よく分からないのですが、Banach氏たちは間違いなくそのように明記しています。おそらく「4,000歩未満(3,867歩)では不十分」という認識から来ているのでしょう。

またこのデータは「たくさん歩くと死亡リスクが減る」ではなく「長生きする人はたくさん歩ける」ことを表している可能性もあります。しかしBanach氏たちの見方は前者です(歩行が死亡リスクを減らす)。

「4,000歩」といえば30分ほどの歩行になるでしょうか。死亡リスクが半減していた「5,537」歩なら40分ほどです。何回かに分ければ簡単に達成できそうな歩数ですね。個人的には「一つ先のバス停を使う」「駅は遠い方の入り口から入る」などの工夫がおすすめです。

いかがでしたか?歩行については以下のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひ、お読みください。

今回ご紹介した論文

  1. 歩行による慢性疾患予防作用は1日8000歩で頭打ち  [英語、無料]
  2. 歩行による死亡リスク低下作用は1日8000歩程度で頭打ち [英語、無料]
  3. 死亡リスクは1,000歩ごとに15%ずつ減少 [英語、無料]

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【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の内容はあくまでも「論文筆者」によるものです。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。あくまでもご自身の見解形成の参考としてお読みください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本超。日本医学ジャーナリスト協会会員(筆名)。

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