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亡くなる方も多い大腸がん。パンの種類で発症リスクに差。12万人データ解析論文が明らかにした事実。

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

最新の医学論文をご紹介する本稿、今回は「大腸がん」を取り上げます。

患者数が多く、死亡者数も多い大腸がん。何よりも予防を。

大腸がんは現在、日本では男女とも二番目に患者数が多いがんです。そして治療の進歩は続いていますが、発症後の経過は良好とは言えません。女性では亡くなる患者さんが最も多いがん、男性でも肺がんに次いで2番目のがんとなっています [国立がん研究センター統計情報サービス] 。

発症しないに越したことはありません。予防が大切です。

では大腸がんのリスクを減らすにはどうしたら良いでしょう?

「赤身肉」や「加工肉」を控えるように推奨されていた時期もありました(国立がん研究センター「日本人のためのがん予防法 [2017年版])。

白パン多食で大腸がんリスクが上昇

しかし最近、意外な食品が大腸がんリスクと関係していることが分かりました。

それは、日本では食パンに代表される「白パン」。これをたくさん食べる人では大腸がんになるリスクが高いというのです。

中国・浙江(せっこう)大学のシン・ドンチン氏のグループが11月16日、「栄養素」という学術誌で報告した論文を簡単にご紹介します [文末文献1] 。(「ハゲタカ」との噂もある版元MDPIですが、必ずしも実態はそうではなさそうです)

約12万人を13年間観察

今回ドンチン氏たちが解析したのは、英国における観察データです。「UKバイオバンク」と名付けられた観察研究で、英国在住でこのデータバンクへ自主的に参加した人たちのデータが蓄積されています。手続きを踏んで申し込めば、誰でも解析が許されるデータベースです。だから中国の研究者なんですね。

さて、平均年齢56歳の11万8千人あまりを13年間弱観察したデータを解析したところ、その間に1.24%の人が大腸がんと診断されていました。観光バス2台分のお客さんのうち1人、くらいの確率です。多いと感じます?それとも「そんなもんか」と安心?

白パン多食でリスク増、全粒粉パンならリスク減

ともあれドンチン氏たちは、観察を開始した時の食生活とその後の大腸がんリスクの関係を調べてみました。

すると「白パン」をよく食べる人ではそうでない人に比べ、大腸がんになる確率が高いことが明らかになりました。一方、悪者にされることが多い「動物性タンパク質」や「牛肉」は、大腸がんリスクと無関係でした。

さらに同じパンでも「全粒粉パン」はたくさん食べるほど、大腸がんになるリスクが減っていました

摂取栄養素の差がリスクの差?

なぜ同じパンなのに、全粒粉パンでは大腸がんリスクが減り、白パンでは増えるのでしょう?

ドンチン氏たちは含まれる栄養素の違いではないかと考えています。

というのも今回の解析で、「カルシウム」「マグネシウム」「リン」「マンガン」の摂取量が多いと大腸がんのリスクが減ることも明らかになっているためです。「全粒粉パンならこれらの栄養素も取れるのではないか」というのが同氏たちの推論です。

「繊維質」もたくさん摂ると大腸がんリスクは低くなっていました。これは以前から知られている話ですね。全粒粉パンはこの点でもがん抑制的に働いた可能性があるといいます。

最後に

いかがでしたか?

食べるパンの種類によって大腸がんリスクが変わってくる(かも)という研究でした。

もちろん、パンの種類そのものが大腸がんリスクに影響を与えているのではなく、白パンと合う食事ががんリスクを高めている可能性も否定できません。しかし先に記した通り、ドンチン氏たちはパンの種類そのものの関与を疑っています。

かかってからでは大変な大腸がん。ここはひとつ「賭け」のつもりで全粒粉パンを優先するのも一つの手かもしれません。

食べ物とがんについては次のような論文紹介記事も書いていいます。こちらもぜひ、お読みください。ではまた!

肝がんになりにくい人たちの避けていた飲料が明らかに。10万人解析データ

「加工食品」の1割を置き換えるだけ「がん」のリスクが低下。45万人データ解析

今回ご紹介した論文

  1. 白パン多食で大腸がん発症リスクが上昇

英語論文ですが無料翻訳サイトDeepLを使えば簡単に読めます。

【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の内容の文責は「論文筆者」にあります。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。さらにこの論文の内容を否定する論文が存在する可能性もゼロではありません。あくまでもご自身の見解形成の「参考」としてご覧ください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本を超える。

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