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太ってない人は「ロカボ」で「悪玉コレステロール」が増えてしまう。1400名データ解析の最新情報。

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

太っていない人が「ロカボ」を続けても安全?

 炭水化物を制限した食事、いわゆる「ロカボ」。その体重減少作用は大規模な臨床試験でも証明されています。

 でもそれはあくまでも「太った」人が取り組んだ場合の話。肥満や太り過ぎでもないのに「ロカボ」を続けると、心筋梗塞や脳梗塞の危険性を引き上げる「悪玉コレステロール」(LDLコレステロール)を増やしてしまう危険性があります。

 メキシコ・国立健康科学栄養研究所のエイドリアン・ソトモタ氏たちが1月17日、「米国臨床栄養学雑誌」という学術誌に掲載された論文で明らかにしました [文末文献1]。簡単にご紹介します。

太った人では減量効果が臨床試験で証明されている「ロカボ」

 「ロカボ」による減量効果が大きく注目されるようになったのは2008年でした。ダイレクト(DIRECT)という臨床試験において「ロカボ」群では、若干のリバウンドはあるものの2年間で5kg、体重が減ったのです [文末文献2]。

 この結果は「ニューイングランド医学雑誌」という世界トップの臨床医学学術誌に掲載されたこともあり、欧米では大きなニュースになりました。

万国著作権条約にのっとり引用
万国著作権条約にのっとり引用

 さらにこの試験では、「ロカボ」により「善玉コレステロール」が増え、一方「悪玉コレステロール」を悪化させることはありませんでした。まさにいいことだらけですね。

 でも注意したいのは、この試験に参加した人たちの太り具合です。平均体重は90キロ超、BMIも31という高値でした。

 なのでもっと体重の低い人たち、やせている人たちに「ロカボ」がどのような影響があるのか、この試験だけでは分からないのです。

 それだけに今回のソトモタ氏たちの研究は、重要な意味を持つのです。

BMIの高低で分けてロカボの影響を比較

 同氏たちが今回解析したのは、「ロカボ」がBMIに及ぼす影響を調べた臨床試験の論文です。「ランダム化比較試験」*と呼ばれる信頼性の高い試験だけを選び、併合して解析しました(「メタ解析」と呼ばれます)。患者数にすると1,400名弱。結構な数です。

ランダム化比較試験:比較する群への割り振りをくじ引きで行う試験。その結果、各群の性質が揃う。したがって得られた「結果の差」は「治療の効果の差」そのものを反映していると考えられる(くじ引きで分けないと治療前に性質が異なってしまうため、「結果の差」が治療によるものなのか、最初から存在した差なのか区別できない)。

 これらを対象としてソトモタ氏たちは、「ロカボ」を始めた後に「悪玉コレステロール」がどのように変化したのか、開始前のBMI別に比べてみました。

 するとBMIが「35以上」の人たちは、「ロカボ」開始後に「悪玉コレステロール」が減っていたのに対し、「25〜35」の人たちでは不変、そして驚くことにBMI「25未満」の人たちでは「悪玉コレステロール」増えていたのです。

欧米人ほどではないにしろ日本人も高LDLコレステロール血症には注意が必要

 欧米人ほどではありませんが、日本人でも悪玉コレステロール濃度が上がると、特に男性では、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが上がる傾向を認めます(なお「高LDLコレステロール血症」とされるのは「140 mg/dL以上」です)。

万国著作権条約にのっとり引用
万国著作権条約にのっとり引用

 「やせているのにコレステロールが高いですね」と健康診断で指摘されて困っているあなた、炭水化物が不足していないか見直してみませんか?せっかく「健康のため」と頑張って続けていた「ロカボ」が、悪玉コレステロール高値の原因になっていたらちょっと残念です。

最後に

 いかがでしたか?

 太っていない人が「ロカボ」食を続けると悪玉コレステロールが上がる、という論文のご紹介でした。

 コレステロールについては次のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひ、目を通してみてください。世間でよく聞く話とは一味違ったデータをご紹介しています。ではまた!

今回ご紹介した論文

  1. 「BMI<25」でロカボ食を続けると悪玉コレステロールが増える
  2. ロカボ食は太った人の体重を落とし、善玉コレステロールを増やす

【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の文責は「論文筆者」にあります。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。さらにこの論文の内容を否定する論文が存在する可能性もゼロではありません。あくまでも「参考」としてご覧ください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本を超える。

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