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「殿様枕症候群」にご用心!高すぎる枕で気づかぬうちに脳梗塞になりやすくなっている可能性【最新情報】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

みなさん、どんな枕を使われていますか?「材質」や「高さ」など、こだわりがあると思います。だけど「高さ」のありすぎる枕は避けた方が良いかもしれません。脳梗塞の危険性が増える可能性が明らかになったからです。背景にあるのは「殿様枕症候群」——

大阪府吹田市にある国立循環器病研究センター(国循)の江頭柊平氏らが、「欧州脳卒中雑誌」掲載の論文で明らかにしました。簡単にご紹介します [文末文献1] 。

殿様枕:17−19世紀に使われていた高く硬い枕。(結った)髪型を維持するのに有効だったとされ、庶民でも広く用いられたとのこと [国循プレスリリースによる]。

生命維持に必須の「脳幹」へ血液を送る「椎骨動脈」に異常

江頭氏たちが調べたのは、「枕の高さ」と「椎骨(ついこつ)動脈解離」と呼ばれる病態の関係です。

そこでまず「椎骨動脈」「解離」について簡単におさらいしておきましょう。

椎骨動脈」は2本あり、「脳幹」に血液を送っている(首の後ろの橈骨という骨の中を通っている。

この「脳幹」は心臓や肺の動きをコントロールしており、「生命維持」に不可欠

そして動脈の「解離」とは、動脈の壁を構成する3層の膜がお互いに剥がれてしまった状態。「一枚の壁」として機能しない。

その結果、血がスムーズに流れなくなり、「脳幹」への血流不足、あるいは血流途絶([脳幹] 梗塞)が引き起こされる。

「橈骨動脈解離が起こると脳梗塞になるリスクが増える」可能性があるわけです。

事実、フランスのデータですが、45歳以下の脳梗塞を調べると椎骨動脈解離が最多の原因となっていました。高コレステロール血症による「血管の詰まり」よりも多かったのです [文末文献2] 。

では本題に移りましょう。

「高さ12cm以上の枕」で椎骨動脈解離のリスクが3倍の可能性

今回ご紹介する江頭氏たちの研究は、興味深い比較から始まりました。

椎骨動脈解離と診断された53人と、年齢・性別は同じで椎骨動脈解離のない53人の間で、使っていた枕の高さを比べたのです(こういう比較を思いつくところが面白くありませんか?)。

その結果、椎骨動脈解離の人たちでは椎骨動脈解離を起こしていない集団に比べ、「高さ12cm以上の枕」を使っている人の割合が2倍以上、多いことが分かりました(34%対15%)。

そこでこの結果を統計学的に処理すると、「高さ12cm以上の枕」を使うと椎骨動脈解離を起こすリスクが約3倍高い可能性が示唆されたのです。

先ほどお示しした「橈骨動脈解離が起こると脳梗塞を発症するリスクが増える」というデータと付き合わせると、「高さ12cm以上の枕を使うと脳梗塞リスクが増える可能性」が示された形です。

そして冒頭でご紹介したとおり、この「高い枕の使用による橈骨動脈解離リスク増加」を江頭氏たちは「殿様枕症候群」と呼ぶよう提唱したわけです。この言葉が世界的に用いられるよう英語名も用意されました(Shogun pillow syndrome)。

椎骨動脈解離は首運動やカイロプラクティックでも引き起こされるので要注意

話は変わります。

「高い枕」の話とは別に、この「椎骨動脈解離」のリスクとして「カイロプラクティック」が指摘されているのはご存知ですか?首をひねることにより椎骨動脈が傷つく恐れがあるのです。

ゴルフでボールの行方を見ようと首をひねったら椎骨動脈解離になったという患者さんも報告されています。

首を急にひねるのは避けた方が良いのかもしれません。

肩こりに対する頸部の急速ストレッチが引き起こしたと思われる椎骨動脈解離を報告した論文
肩こりに対する頸部の急速ストレッチが引き起こしたと思われる椎骨動脈解離を報告した論文

米国ではすでに、最大の循環器病疾患学会である米国心臓協会(AHA)と米国脳卒中協会(ASA)が、カイロプラクティックに伴う「椎骨動脈解離」リスク上昇の可能性(あくまでも「可能性」)に対し、10年前から注意喚起を行っています [文末文献3] 。

最後に

いかがでしたか?

高すぎる枕を使うと脳梗塞のリスクが高まるかもしれないという研究でした。

脳卒中については次のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひ、ご覧ください。ではまた!

今回ご紹介した論文

  1. 高すぎる枕で椎骨動脈解離(脳梗塞リスク)が増える「殿様枕症候群」
  2. 若年脳梗塞では椎骨動脈解離が最大の原因
  3. 椎骨動脈解離とカイロプラクティック(米国心臓・脳卒中学会声明)

すべて英語論文ですが DeepLなどの無料翻訳を用いて、ご自身でもぜひ目を通してみてください!

【注意】本記事は医学論文の紹介であり、研究結果の文責は「論文筆者」にあります。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。さらにこの論文の内容を否定する論文が存在する可能性もゼロではありません。あくまでも「参考」としてご覧ください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本を超える。

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