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「花粉症で鬱(うつ)」分かってきた関連性。使うならどの薬?【ちょっと意外な医学情報】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

「春なのに・・・」

「木の芽時」(きのめどき/このめどき)という言葉を聞かれたことがあるでしょうか?

明鏡国語辞典(大修館書店)によれば「樹木の芽が一斉に萌えでる早春のころ」という説明の後に「心身の変調をきたしやすいという」という注釈が付いています。一定以上の年齢の方ならご存知でしょう。

でもなぜ、この時期、「心身が変調をきたしやす」くなるのでしょう?

もしかしたら「花粉症」かもしれません。

今回はそんな医学情報をお届けします。

春にも起こる「季節性うつ病」

季節の変わり目に生ずる心の変調を、医学的には「季節性感情障害」(季節性うつ)と呼んでいます [英国王立精神科医学会・日本語サイト] 。

最初は、夏が終わって秋から冬にかけて発症すると考えられていたのですが、1987年、春に「季節性うつ」となる人たちの存在が報告されました [文末文献1] 。

それまで秋・冬に「うつ」を発症するのは、「日照時間」が短くなるからだと考えられていました(冬型「季節性うつ」)。しかし、日照時間が長くなっていく春に発症する「うつ」では、その説明は当てはまりません。

花粉は人の気分にも影響

そこで春型「季節性うつ」を引き起こす原因の探索が始まりました。

最初は「温度変化」が疑われたようです。

しかしそのうち、花粉が人の気分に影響を与えることが別の研究で分かってきました。

ある大学で調査したところ、花粉の多い日には気分が落ちると答えた学生が7割近くいたのです [文末文献2]。

そして決定打とも言える研究が報告されたのがつい最近、2019年のことです。米国メリーランド大学のファイサル・アクラム氏たちによる論文を簡単にご紹介します [文末文献3]。

文明の影響が最小限の「アーミッシュ」を観察

アクラム氏たちが観察の対象としたのは米国に住む「オールド・オーダー・アーミッシュ」の人たちでした。

この人たちは可能な限り、18世紀に米国へ移民してきた時の生活を維持していることで知られています [埼玉大学ウェブサイト] 。そのため、自然環境以外が気分に与える影響を最小限にとどめることが可能と考えられ、選ばれました。

その結果、調査に協力してくれた千3百人あまりのうち5%弱が、「春」になると「気分の落ち込み」を感じていました(「冬」は6%)。

そして花粉が多く飛んだ日の気分の落ち込みは、「春」型気分変調の人でのみ観察され、「冬」型の人たちでは見られませんでした。「花粉」が「春」型の気分落ち込みの一因だと示唆されたわけです。

ステロイド点鼻薬で改善も?

ではなぜ花粉で気分が落ち込むのでしょう?

アクラム氏たちは、花粉が体内に引き起こす「炎症」が関与している可能性を指摘しています。

体内で炎症が起こると「サイトカイン」と呼ばれる伝令のような物質が血中を飛び交うのですが、その一部が脳に作用して「うつ」状態を引き起こすというのです。

だとすれば、炎症を抑えれば「春型」季節性うつも良くなるのでしょうか?可能性はあるようです。

アレルギー性鼻炎の患者さんのデータですが、ステロイド点鼻薬(炎症を抑えます)が多く使われていた地域ではそうでない地域に比べ、「重篤なうつ」が少なかったことが分かっています。

一方、抗ヒスタミン薬ではこのような関係は見られませんでした [文末文献4] 。

ステロイドも抗ヒスタミン薬もアレルギーを抑えますが、「うつ」に対しては抗炎症作用のある薬剤だけが作用する可能性が示された形です。

ですからあなたの気分の落ち込みが、花粉による「うつ」だとすれば、炎症抑制作用のある抗アレルギー薬を使ってみるといいかもしれません。

まとめ

いかがでしたか?春先に気分が沈むのはもしかしたら花粉症の一種、そして花粉症であれば炎症を抑える薬で気分の落ち込みを抑えられるかもしれない、という論文の紹介でした。

うつや気分障害については次のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひ、ご覧ください。

今回もお読みいただきありがとうございました。ではまた!

今回ご紹介した論文

  1. 春先に気分が落ち込む人たちは確かに存在する。
  2. 学生の7割が花粉の多い日に気分が落ち込みを経験。
  3. 春型うつの人たちは花粉が多い日に気分が落ち込む。
  4. ステロイド点鼻薬が多く使われている地域では、アレルギー性鼻炎の人の重篤な気分落ち込みが少ない。

すべて英語論文ですがDeepLなどの無料翻訳を使ってぜひご自身でも目を通してみてください。

【注意】本記事は医学論文の紹介です。研究結果の文責は「論文筆者」にあります。また論文の解釈は論者により異なる場合もあります。さらにこの論文の内容を否定する論文が存在する可能性もゼロではありません。あくまでも「参考」としてご覧ください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本を超える。

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