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高血圧の薬はきちんと飲んだほうが認知症にならない。8万人の観察から明らかに【最新情報】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

「血圧は下げなくても良い」「降圧薬は飲むな」——、こんな見出しを雑誌で見た経験はありませんか?血圧が高めの人にはうれしい記事かもしれません。でもこれ、本当でしょうか?

この図を見てください。

                 万国著作権条約にのっとり引用
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7万人に近い日本人で、血圧別にその後、心筋梗塞や脳卒中などで死亡する確率を調べた結果です。

高血圧ガイドラインで「正常」とされている「120/80mmHg未満」に比べると、心臓血管疾患で死亡するリスクが、血圧が高くなるほど上昇しているのが分かります。

もちろん、血圧が高くても長生きしている人はいます。でも上のデータから分かるようにそういう人は例外と考えたほうが良いでしょう。自分が「例外」だという確固たる自信がなければ、高い血圧は放置しないほうが良さそうです。

そもそも「高血圧」とは「今、健康な人の血圧」ではなく「それを放置すると将来、脳卒中や心筋梗塞、腎臓病などになるリスクが上がってしまう血圧」です。今健康かどうかは基本的に判断基準になりません。

降圧薬を飲むと認知症は減る

では主題に移りましょう。今回は「降圧薬を飲んでもボケない」というデータのご紹介です。

「降圧薬は飲むな」と訴える週刊誌記事などでは大抵、次のようなレトリックが展開されます。

  • 歳をとると動脈が硬くなり、血液が流れづらくなる。
  • しかし脳には十分な血液を送らなくてはならない。
  • 結果として血圧(血液が血管壁にかける圧力)が上がる。
  • これは正常な加齢現象であり、下手に下げると脳に十分な血液が回らなくなり、ボケたり脳梗塞を起こす

こんなところでしょうか。

でも実際は「血圧を下げると認知症は減った」のです。

この図は欧州で3000人弱の高血圧患者に降圧薬か偽薬を飲んでもらい、認知症の発症率を比べた「シスター(Syst-Eur)」という名の試験結果です。薬を飲んだほうが圧倒的に認知症は減っています [文末文献1]。

                   万国著作権条約にのっとり引用
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降圧薬をきちんと飲むほど認知症リスクは低下

そしてこちらが最新データです(下図)。

イタリアに住む65歳以上の高血圧患者8万3千人を解析したところ、降圧薬を指示通り飲んでいる人ほど、認知症になる確率が低くなっていました [文末文献2]。

服薬指示にほとんど従っていなかった(≒飲んでいなかった)人に比べ、ほぼ指示通り飲んでいた人たちでは認知症を発症するリスクが相対的に24%、低下していたのです(0.76倍)。

                  万国著作権条約にのっとり引用
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もっとも、「認知症になりにくい人たちだからしっかり薬を飲んでいた」可能性も否定できません。しかし少なくとも、降圧薬をしっかり飲んだからといって認知症の危険性が上がることはなさそうです。

40年以上前の医学常識を信じられる?

いかがでしたか?最新のデータを見る限り、基本的に降圧治療でボケることはなさそうだという医学データのご紹介でした。

週刊誌で「私が学生時代の教科書には年齢プラス90が血圧の正常値だった」などと発言されているドクターがいますが、それってもう40年以上前の話。「40年前の医学」で治療されたいですか?

臨床医の間には「教科書を買わなくなったら医師は終わり」という言葉があるそうです。つまりいつまでも最新の医学を勉強する必要があると。

確かに医師の学会を取材すると、医学書店の出張店舗で高価な医学書を買い求めるドクターたちをよく見かけます。

こちらもお読みください!

「高血圧の基準値を引き下げたのは製薬会社」という主張が間違っている根拠は「意外な運動に血圧を下げる大きな効果。それは『壁を使った空気イス』」という論文紹介記事でご紹介しています。

また認知症・認知機能については以下のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひ、ご覧ください。

今回もお読みいただきありがとうございました。ではまた!

今回ご紹介した論文

  1. 高血圧の高齢者が降圧薬を飲むと偽薬を飲んだ人たちに比べ認知症になる人が減った
  2. 降圧薬を指示通り飲んでいる高血圧の高齢者は認知症になりにくい

英語論文ですがDeepLなどの無料翻訳を使って、ぜひご自身でお読みください。

【注意】本記事は医学論文の紹介です。研究結果の文責は「論文筆者」にあります。また論文の解釈は論者により異なる場合もあります。さらにこの論文の内容を否定する論文が存在する可能性もゼロではありません。あくまでも「参考」としてご覧ください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は100本を超える。

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