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ミロの見方が変わる「ミロ展」――ミロが愛した日本@渋谷Bunkamura【東京都渋谷区】

Luna Subitowriter editor(東京都渋谷区)

スペインの巨匠ミロの大規模展覧会「ミロ展-日本を夢見て」が 4/17まで渋谷 「Bunkamura ザ・ミュージアム」で開催中です。今まで日本で何度かミロの回顧展が開催されてきましたが、今展の目玉は、ずばりミロの“日本愛”。そこに深くフォーカスしたミロ展は世界初なのではないでしょうか。

ポスターやポストカードにもなっている信楽焼のぽんぽこタヌキとそれを見てほほ笑むミロの写真は、1960年代に70代のミロが来日した際のスナップ。この2ショットをメインビジュアルにしたBunkamura学芸員さんの英断にうなります。

ポスター右:「アンリク・クリストフル・リカルの肖像」1917年
ポスター右:「アンリク・クリストフル・リカルの肖像」1917年

ポスターの別バージョンには、若き日のミロが画学生の友人を描いた「アンリク・クリストフル・リカルの肖像」が採用されています。これはいわゆる“ミロっぽい”画では全然ないのですが、見るべきは背景に克明に描かれた浮世絵。ミロのジャポニズムへの憧憬が、ここにダダモレに出ちゃっているんですよね。

「パイプを吸う男」1925年 富山県立近代美術館所蔵
「パイプを吸う男」1925年 富山県立近代美術館所蔵

ミロは1920年代にバルセロナからパリに拠点を移し、作風がどんどん抽象化し、自由闊達になっていきます。夢の画家と呼ばれた作品のひとつ、「パイプを吸う男」のぶっ飛んだ感じ、同時代の尖ったシュルレアリストたちも 呆気にとられたでしょうね。

56年ぶりに来日した絵画「カタツムリ、女、花、星」なども今展の見どころなのですが、私はミロの盟友・滝口修三の詩の挿画や、日本に造形の深いアルティガスとのコラボ陶芸など、絵画以外の作品群に魅かれました。むしろそうした作品にこそ、凡百の作家とは一線を画する ミロという稀有な芸術家の突出した才気が これまたダダモレに溢れ出ていると感じました。

無題1934年
無題1934年

ミロは戦争でマジョルカ島に逃れた1940年頃から墨と和紙を用いた文字や記号を描くようになったといいます。1966年に国立近代美術館でミロ回顧展が開催された時に初来日し、1969年にも大阪万博の作品制作のために再来日したミロは、日本民藝館や京都の龍安寺などを巡り、ますます日本愛を深めたようです。

私は1990年代にミロの回顧展をみた時、いかにも南欧的でカラフルなミロの絵が、晩年になるにつれてどっぷり墨色っぽくなっていくことに正直ちょっと抵抗があったのですが、今展を見て「ああ、それも深い日本愛ゆえだったのね」と腑に落ちました。

「独り語る」より 1948-1950年
「独り語る」より 1948-1950年

ミロは土偶にも興味津々だったみたいですが、ミロの絵に描かれるきょとんとした顔は、確かに土偶にも通じるものがあるなあと(もちろん、ミロは単に土偶を真似して取り入れているわけではなく、あくまでもエッセンスとして作品に生かされているのですが)。

巨匠の展覧会というと、なんだか襟を正して事前にいろいろお勉強してから見なきゃ…という方もいるかもしれませんが、少なくともこのミロ展に関しては、難しいことは考えず、丸腰で楽しんでね、といいたいです。特に今展は日本人にとって親しみのもてるアプローチがなされているので、小学生のお子さまでも楽しめると思いますよ。

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「ミロ展-日本を夢みて」
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
会期:2022年2月11日~4月17日(日)
10:00-18:00(入館は17:30まで)
土曜日は 21:00まで ( 入館は 20:30まで )
入館料:一般 1800円
問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
※※金・土の夜間開館については、状況により変更になる可能性もあります。事前に「オンラインによる入場日時予約」が必要です。

writer editor(東京都渋谷区)

奥渋在住20余年。旅、アート、インテリア、ウエルネス、映画、猫など多様なメディアに携わる文筆家。

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