ショートフィルム

A Stranger in Tokyo – クルド人難民が見つけた日本人が知らない日本

中村真夕

映画監督・ジャーナリスト

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外国人受け入れ拡大の議論が政府の中で、繰り広げられる中、日本に長く在住していても、在留資格が認められない外国人たちがいる。トルコ出身のクルド人難民のアリ・アイユルディスさん(43)だ。身長180センチで、体重180キロの巨漢。人懐っこい笑顔で語るアリさんは、子どもたちから「お相撲さん」と呼ばれる愛らしい人だ。

「国を持たない最大の民族」としてシリア、イラク、トルコの山岳地帯に住んできたクルド人は、国を持たないがゆえの迫害を長い間、受けてきた。最近ではISと果敢に戦うクルド人兵士が注目をされているが、様々な国々の思惑に翻弄されてきた民族なのだ。日本にも埼玉県川口市、蕨市近辺に2000人近いクルド人が住んでいると言われている。そのほとんどが難民申請をしているが、誰一人難民として日本政府から在留許可を受けた人はいないと言われている。それには、クルド人迫害を否定しているトルコ政府との友好関係を壊したくない日本政府の思惑があるのではないかとクルド人たちは語る。

アリさんも25年前、17歳の時にトルコの兵役を逃れて来日した。トルコで兵役に行けば、クルド人に銃を向けなければいけない、それが嫌で親戚を頼って来日した。ずっと難民申請を続けているが、許可されず、仮放免のままで暮らしてきた。仮放免では働くこともできず、住民票も保険もない。2ヶ月に1回、仮放免の手続きに入国管理局に行かなければならないが、いつ収容されて強制送還されるか分からない。20代の頃に一度、収容されて1年半ほど牛久の収容施設で過ごした。収容されている間に、パスポートを取り上げられ、トルコ大使館で無効にされ、強制送還されそうになったが、なんとか免れた。収容施設でアリさんは、自力で日本語の読み書きを覚えた。冗談まじりにアリさんは「牛久大学」卒業だと語る。10年ほど前に日本人女性と結婚したが、強制送還手続きが取られた経緯があるため、在留資格がおりない。パスポートもなく、住民票もなく、正規で働くこともできない。そんな状況でもアリさんは笑顔を絶やさず、できることをやって生きてきた。

アリさんと東京の街を歩くと、街の別の顔が見えてくる。海外で14年以上暮らして来た私より、日本に25年も住んでいるアリさんの方が東京に詳しい。アリさんは以前、解体の仕事をやっていた。その仕事で関東近郊の街の地下をたくさん掘り起こしてきた。浅草のはずれの古い家を解体した時、たくさんの日本人の骨や墓の残骸が出てきた。江戸時代に浅草寺近辺にあった寺町が、明治時代、西欧を模した開発で解体され、大正の震災で崩れ、昭和の戦争で焼けた。そんな歴史の痕跡を、解体作業の中で発見することが何度かあった。「日本人も知らない日本の地下の世界を知っている」と語るアリさん。日本人の骨を見つけた時、故郷の町の刑務所の庭から発見された拷問をされ、埋められらたクルド人の骨が見つかったことを思い出した。日本の街角を歩きながら、アリさんは帰れない故郷を思うことがしばしばある。アリさんが故郷を思い出す街が、「第二の故郷」と呼ぶ埼玉県蕨市だ。来日した当初、この街で青春時代を過ごした。ここには多くのクルド人が住み、クルド人が経営するレストランが並ぶ。ケバブレストランで、同じ村からきたクルド人と語る時間が、アリさんが故郷を忍べる唯一の時間だ。10月の終わりに、トルコに住む母が急死した。母に会ったのは10年前に結婚式をやったときに一度、来日して以来だった。母の死に目に会えなかったことが悔やまれるが、どうしようもできない。一度、日本を出れば、日本に帰れず、妻にも会えなくなる。トルコに帰れば、兵役を逃れたことで捕まるだろう。そんな鬱屈した気持ちを抱える時、アリさんは東京の街を歩く。すると時々、故郷の町を思わせる風景に出会う。浅草寺の近くの隅田川沿いを歩きながら、アリさんはチグリス川を思い出していた。クルド人が多く住む山岳地帯を源流とするその川は、古代文明の源流として知られ、今でも中東の人たちにとって大事な生活用水として使われている。故郷の川は遠い、しかし東京の川の流れが、つつみこむようなあたたかさで、アリさんのそばに流れていた。

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