ショートフィルム

アムステルダムの運河で知る難民の旅路 - Refugees' Canal Tour   

中村真夕

映画監督・ジャーナリスト

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  運河が張り巡らされたオランダの首都・アムステルダムで、一風変わった運河ツアーがある。ツアーのガイドをするのは、シリア、エジプト、ソマリアなどから来た難民の若者たち。観光客らが乗り込むのは、難民たちが中東からヨーロッパに渡ってきた船だ。

2015年、オランダ政府は6万人近いシリア難民を受け入れ、難民許可を申請した人たちには、労働許可も与えている。一方、日本では昨年、日本では1万人以上の難民申請者がいたが、政府が難民として認定したのはわずか42人。難民申請中の外国人は「仮放免」という立場に置かれ、働くことも許されず、多くが苦しい生活を強いられている。

このツアーを運営するのはシリアから難民としてやってきたモハメッド・アル・マスリさん(27)だ。7年前、シリアの内戦を逃れ、ヨルダンに家族と移り住んだが、そこでは働くことも許されず、悶々とした日々を送った。4年前、映画で見たアムスデルダムに憧れ、危険な航海に家族を置いて単身で挑んだ。全長8メートルほどの小さなゴムボートに76人の大人と11人の子どもが乗り、トルコからギリシャを目指した。そこから陸をつたってアムステルダムまで辿り着いた。

モハメッドさんは穏やかなアムステルダムの運河を下りながら、その危険な航海について語る。最初は厳しい旅路について語ることが辛かったが、話しているうちにその経験に向き合えるようになった。荒波の中、ゴムボートに流されながら、ここまで命からがらやってきたが、今、自分で船の舵を取ることができるようになって、心が落ち着くようになったという。自国では、政権から言われるまま、自由がなく生きてきたが、アムステルダムで自由を得て、初めて自分の人生の舵を取れるようになったと感じたからだと言う。

厳しい旅路を乗り越えてやってきたアムステルダムで、モハメッドさんは初めて「自由」を経験した。シリアで「自由」を語ることはできなかった。政権を批判した詩を父に読み聞かせたが、それは父によって燃やされてしまった。アムステルダムに居場所を求めたのは、昔からこの街が様々な人たちを受け入れてきた街だと聞いたからだと語る。16世紀には宗教的迫害を受けたプロテスタントたちが、17世紀には多くのユダヤ人たちが迫害を逃れて、ここに「居場所」を見つけた。自分が生まれ育ったダマスカスは、戦火で焦土と化し、もう帰れない場所になってしまった。

家族でヨルダンにも移住したが、そこでは働くことも許されず、無為な日々を過ごした。自分の未来を探すために、家族を残して、ヨルダンからトルコに渡り、そこからゴムボートでギリシャに渡り、危険な旅路を経て、アムステルダムに辿り着いた。自分を受け入れ、未来への可能性を与えてくれたこの街は、今の自分の「居場所」だとモハメッドさんは語る。

アムステルダムにやってきて、モハメッドさんは初めて将来の夢も持てるようになった。今はホテルのフロントで働きながら、ホテル経営学を大学で学び、将来、この街で自分のホテルを持つことが夢だ。他のヨーロッパの国にたどり着いた多くの難民たちに比べて恵まれた生活をしていると思うが、ヨルダンに残っている両親や兄弟たちとはいつ会えるかも分からない、彼らを呼び寄せたいが、あのような厳しい旅路を年老いた両親や幼い兄弟たちが乗り越えるのは難しい。会うことができない家族や、帰れない故郷のことを思いながら、今日も異国の地で船を漕ぐ。

モハメッドさんのもう一つの夢は、社会の「難民」のイメージを変えることだ。「難民」というと、教育もなく、貧しく、移民先に寄生しているというイメージがある。しかし自分たちは教育もあり、厳しい状況を乗り越えてきた「サバイバー」だ。その経験と底力は、移民先の社会に多様性をもたらし、大きな貢献ができると、モハメッドさんは信じている。この運河ツアーを通して、モハメッドさんは難民としての経験を世の中に伝え、その状況を知ってほしいと考えるからだ。

日本では、難民の受け入れは全く進んでいない。しかし少子高齢化社会が進む中、外国人労働者の受け入れ拡大の議論は進んでいる。昨年末、私は日本で難民のおかれている状況を伝えるために、関東で暮らすクルド難民のアリさんの取材をした。アリさんは日本人女性と結婚し、25年以上、日本で暮らしている。しかし、いまだに難民として認められず、「仮放免」という立場のまま、働くことも許されていない。

主にヨーロッパから来た乗客たちの中には、ニュースでしか見たことがない難民の人たちのリアルな話を聞けて、自分たちの問題としてこの状況を考えることができるようになったと語る人もいた。アムステルダムの運河を走る難民船に、難民たちと共生できる未来の可能性を、私は見つけた。

クレジット

監督・撮影・編集 中村真夕
Director/Cinematographer/Editor Mayu Nakamura
プロデューサー  金川雄策、井手麻里子
Producer Yusaku Kanegawa, Mariko Ide

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