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【新茶直前!号外③】今年の新茶は早い?静岡の「朝比奈」と「牧之原」からレポート

日本茶ナビゲーター Tomoko日本茶インストラクター

新茶の時期が近づき、ワクワクしている日本茶ナビゲーターのTomokoです。

今年は新茶の時期が早まるかも!と聞き、まず鹿児島の生産者さん、次に京都の生産者さんと茶商さん、を取材しました。

そして、第3回目の新茶直前情報は、日本一の生産量を誇る静岡の「朝比奈(あさひな)」と「牧之原(まきのはら)」の茶商さんにお聞きしました。

新茶情報は少々マニア路線で書いておりますが、現地から届きたての絶景写真もぜひお楽しみください♪

お茶と言えば静岡

お茶と言えば静岡。小学校の社会でも習いますね。

茶畑のない環境で生まれ育ち、茶畑のない地域に住んでいる私には、静岡は憧れの場所。

新幹線に乗って静岡県を通過する際は「わ~茶畑だ~!静岡キター!」「富士山だ~!」と毎回テンションが上がります(その隣で家族は引きながら見ています)。

静岡県内の多くの小中学校には給茶機がありいつでもお茶が飲める!とか、給食にお茶が出る!とか、島田市の学校では蛇口からお茶が出るので飲んだりうがいに使ったりしている!(本当に)とか、子どもから大人までお茶が身近なところにある、なんともうらやましい環境です!

島田市の取り組みが特におもしろいです。動画もあります。

私の持っている「全国の茶産地マップ」手ぬぐいには、「静岡茶」の中に17もの茶産地の名前が入っています(もっと細かく分けるとさらに多くなります)。

静岡県は広い!

平野部や山間部、様々です。そのため、その中の産地ごとにも特徴があります。

今回はその中から、玉露の産地で有名な「朝比奈」と、深蒸し煎茶で有名な「牧之原」の茶商さんにお尋ねしました。

(静岡県の他の地域のお茶についてもまた別の記事で取り上げたいと思います)

玉露の産地「朝比奈」

玉露の産地として、京都の宇治・福岡の八女とともに有名な「朝比奈」(藤枝市岡部地域)。

山間に広がる茶畑。奥には山桜も咲いています。(2021年3月24日撮影。撮影者:薮崎園 薮崎さま)
山間に広がる茶畑。奥には山桜も咲いています。(2021年3月24日撮影。撮影者:薮崎園 薮崎さま)

室町時代には朝比奈地区でお茶の栽培が始まっていたそうで、静岡でも古い歴史のある産地です。

そして、朝比奈で玉露の栽培が始まったのは明治30年(1897年)だそうです。

参考:藤枝市ホームページ

玉露用の手摘みの茶畑は「自然仕立て」

一般に茶畑というと上の写真のようなかまぼこ型の茶木が並んでいる風景を想像されるかと思います。

お茶の葉を機械で摘むと、ハサミと呼ばれる刃の部分がカーブ状のため、かまぼこ型になります。

かまぼこ型の茶畑はつまり機械摘みの茶畑ということになります(機械も2人で持って歩きながら摘む小規模なものから、人が乗って操作しまっすぐ一畝を刈り取るトラクターみたいなものまであります)。

しかし、高級な玉露用の茶葉や碾茶(抹茶の原料)は日陰を作った「覆い下園」で新芽を1つ1つ手で摘むため、かまぼこ型にはなりません。

玉露用の「自然仕立て」の茶畑。骨組みの「棚」は被覆栽培のための寒冷紗や菰(こも)をかけて覆うためのもの。(2021年3月24日撮影。撮影者:薮崎園 薮崎さま)
玉露用の「自然仕立て」の茶畑。骨組みの「棚」は被覆栽培のための寒冷紗や菰(こも)をかけて覆うためのもの。(2021年3月24日撮影。撮影者:薮崎園 薮崎さま)

かまぼこ型の茶畑に比べると、一見少しボサボサに見えますが、この畑が高級な玉露や抹茶の原料が栽培されている「自然仕立て」と呼ばれる畑になります。

朝比奈のお茶の特徴

朝比奈の玉露や煎茶などを扱う茶商、薮崎園の薮崎さんに朝比奈のお茶の特徴について伺いました。

朝比奈は昔から静岡で唯一無二の玉露などの被覆茶の産地です。9割以上のお茶を被覆して栽培しています。
※被覆茶…茶摘み前に茶畑に覆いをかけ日陰を作り、そこで採れたお茶のこと

朝比奈では9割以上も被覆しているのですね!

玉露や抹茶は、煎茶のように新茶を特別に扱うということはありません。

玉露独特のうま味・甘味・深い味わいは、爽やかさが求められる新茶とは別次元

昔は一番茶を摘み荒茶(半製品)の状態にして秋まで保管し、熟成したものを商品として出していました。保管することで、尖った味が丸みを帯び、深みが出ると言われています。

なので玉露や抹茶にもし「新茶」とシールが貼られていたら、それは「今年採れたお茶」という意味になります。

朝比奈の昔の農家の一年

薮崎さんによると、朝比奈はタケノコも有名で、今の時期はタケノコの収穫も盛んなのだそうです。

都内の料亭などで出されるタケノコは朝比奈産のものも多いそうですよ。

おいしいタケノコが採れる地域は、お茶もおいしいものができると言われているそうで、土や気候が関係しているようです。

山桜がきれいですね!その手前に竹藪があります。タケノコも沢山採れるのですね。
山桜がきれいですね!その手前に竹藪があります。タケノコも沢山採れるのですね。

こちらは、朝比奈の昔の農家さんのスケジュールの一例です。

3月…タケノコ
4月中旬…一番茶
5月後半…田植え
6月…二番茶
夏…暑いため休み休み茶畑や田んぼを管理
秋…秋冬番茶、稲刈り→刈り取った藁を干す
11月…みかん(岡部地域はみかんも有名)
冬…干した稲藁で玉露の遮光用の「菰(こも)」を作る

お茶の被覆栽培のために使う「菰(こも)」に使われる藁(わら)も、田んぼで稲作をした自家製なのですね。藁を編んで「菰(こも)」を作る作業も農家の仕事。

この地域で一年中ずっと仕事があるように、と自然にこのようなスケジュールになったそうです。

まさにエシカルでサステナブルな生活ですね。

静岡の牧之原(まきのはら)について

一方、太平洋に面した地域で平野部の多い牧之原は、機械も入れやすい大きな畑が広がっている場所も多いです。

現在は「深蒸し煎茶」の産地として有名ですが、元々は江戸で活躍していた武士が、江戸時代から明治になり武士の職を失うため職を求めて、荒地で誰も見向きもしなかった牧之原を開拓し、お茶の木を植え生産したのが始まりだそうです。

「脱サラ」ならぬ「脱サムライ」ですね。

現在はは静岡県でも栽培面積・生産量ともに一番大きい産地となっています。

参考:牧之原市ホームページ

牧之原の茶畑。(2021年3月24日撮影。撮影者:岩崎恭三商店 岩崎さま)
牧之原の茶畑。(2021年3月24日撮影。撮影者:岩崎恭三商店 岩崎さま)

牧之原の深蒸し煎茶を扱う岩崎恭三商店の岩崎さんによると、「牧之原のお茶は水色(すいしょく)が濃い緑に出て、味がまろやかでいてコク深い」とのこと。

お茶を淹れたときの色が「ザ・緑!」な感じではっきりしていて、関東ではよく飲まれる深蒸し煎茶。

私は深蒸し煎茶は冷茶にしてグラスに注いで色を楽しむことも多いです。

でもやはり新茶のフレッシュな香りは、急須で淹れた温かいお茶が一番です!

静岡の深蒸し煎茶を冷茶で
静岡の深蒸し煎茶を冷茶で

今年の新茶の状況

今年の新茶の状況を、朝比奈の薮崎さんと牧之原の岩崎さんに聞いてみました。

桜が早く咲き始めたので新芽の出方は例年より早いはずです。
ただ怖いのは霜で、新芽がでてから霜が降りると新芽は死んでしまうため、遅い1番茶になる可能性もあります。

と、朝比奈の薮崎さん。

今のところ、例年より2.3日早いみこみですが、まだまだ分かりません。
4月に入ってから分かります。天候しだいです。
雨が少ないと生育が悪く多すぎても良くないです。
でも今年は暖かくてここ最近雨が降ったため2.3日早いかな、と。
週末に雨が降り急に暖かくなったので、さらに早まるかもしれません。寒暖差で霜が心配です。

と、牧之原の岩崎さん。

霜は茶葉の大敵ですから、静岡でも注意が必要とのこと。

全国各地、生産者さんも茶商さんも霜が降りないよう祈るばかりです。

朝比奈の茶摘み前の作業と朝比奈ならではの作業

朝比奈ならではの作業を薮崎さんにお聞きしました。

芽が出始めたら、 タイミングをみて菰(こも)がけをし始めます。
全部が揃って芽が出てくれることがないので、この茶園毎のタイミングが大事です。
それから20日間位の間は毎日茶の芽を観察しながら、高級な物は遮光の度合いを調整し明るさを変えて育てます。 被覆は手作業になりますから大変です。

玉露用の茶畑。被覆栽培のための寒冷紗や菰(こも)を骨組みの棚の上から手作業でかけて覆います。(2021年3月24日撮影。撮影者:薮崎園 薮崎さま)
玉露用の茶畑。被覆栽培のための寒冷紗や菰(こも)を骨組みの棚の上から手作業でかけて覆います。(2021年3月24日撮影。撮影者:薮崎園 薮崎さま)

棚のある茶畑を上から撮った写真。茶摘み前20日ほど上に覆いをかけますが、一度かけたら終わりではなく、光の強さを加減するため適宜覆いをかけ替えます。(2021年3月24日撮影。撮影者:薮崎園 薮崎さま)
棚のある茶畑を上から撮った写真。茶摘み前20日ほど上に覆いをかけますが、一度かけたら終わりではなく、光の強さを加減するため適宜覆いをかけ替えます。(2021年3月24日撮影。撮影者:薮崎園 薮崎さま)

手摘みも機械とは違い全て手作業ですし、熟練の技も必要です。
また、ハサミ刈りに関しても山間地ですので乗用(摘採機)が使えません。
茶袋を運ぶのも車までかついで運びます。

手作業に重労働。しかし、美味しいお茶を沢山の人に届けたいと、生産者さんも茶商さんも努力を惜しみません。

山間の茶畑。こちらも山々を見下ろす絶景です。
山間の茶畑。こちらも山々を見下ろす絶景です。

茶商さんの新茶時期のスケジュール

朝比奈の薮崎さんの場合はこのようなスケジュールだそうです。

生産をやっている方は朝早くから夕方まで摘み、夜に茶を揉みます。
茶商としては、毎朝、午前3時くらいに起きて、朝比奈な集荷場、茶市場、他の茶市場、斡旋所 を周り、会社に戻るのは午前9時位です。
それから、普通の仕上げ工程やら商いの方にはいります。
朝比奈は時期が遅い為、1番茶でも4月後半から6月頭までかかります。
その内に他の産地の2番茶がでるのて 実質、4月から7月頭くらいまで朝の仕事は休みなしです。
※斡旋所は、昔から茶業界にある、見本が集まってお茶屋が買いに来る民間の茶市場みたいなところです。

京都の茶商さんもそうでしたが、煎茶から玉露、二番茶と数カ月は休む暇なしなのですね。

生産者さんも茶商さんも体力勝負です。

一方、牧之原の茶商、岩崎さんはまた少し違ったやり方なのだそうです。

一般的な茶商さんは朝5時くらいに起きて茶市場に行ったり場外(斡旋所など)に行ったりしてお茶の値段を決めて買います。競り落とすイメージです。早く行って良いお茶を高く買ったり、残って安くなったお茶を買ったりします。みんな少しでも良い茶を安く仕入れたいので駆け引きみたいな感じです。
弊社はそういうやり方ではなく、前の日に契約している生産家さんに荒茶の見本を持ってきてもらって出来具合をみて値段を決め、いち早く買ってしまいます。
競争しない代わりに仕入れ値は高くなる可能性もありますが、確実に美味しいお茶を仕入れられるのでこういったやり方をしています。

茶商さんによっても様々で、いろいろな工夫や駆け引きがあるとのこと。とても興味深いです。

静岡の新茶が店頭に並ぶのはいつ?

今年の茶市場は4月14日に初取引となるそうです。

例年が4月20日前後だそうなので、1週間ほど早くなっています。

薮崎さんに朝比奈の玉露用の茶畑の写真を送っていただきましたが、3月24日の時点では新芽はまだです。

鹿児島の茶畑と比べると山間部のためゆっくりです。

朝比奈の玉露用の新芽はゆっくり(2021年3月24日撮影。撮影者:薮崎園 薮崎さま)
朝比奈の玉露用の新芽はゆっくり(2021年3月24日撮影。撮影者:薮崎園 薮崎さま)

牧之原は平野部では朝比奈より暖かいため、ここ2,3日の暖かさで、今はこの写真より芽が伸びてきているそうです。

牧之原の茶畑。(2021年3月24日撮影。撮影者:岩崎恭三商店 岩崎さま)
牧之原の茶畑。(2021年3月24日撮影。撮影者:岩崎恭三商店 岩崎さま)

牧之原の茶畑。芽吹いてきました(2021年4月2日撮影。撮影者:岩崎恭三商店 岩崎さま)
牧之原の茶畑。芽吹いてきました(2021年4月2日撮影。撮影者:岩崎恭三商店 岩崎さま)

牧之原の茶畑(2021年4月2日撮影。撮影者:岩崎恭三商店 岩崎さま)
牧之原の茶畑(2021年4月2日撮影。撮影者:岩崎恭三商店 岩崎さま)

静岡の新茶も4月中に店頭に並びそうですね。

フレッシュでさわやかな新茶が今から楽しみです!

朝比奈の山間部の茶畑
朝比奈の山間部の茶畑

静岡の茶畑風景を見つつ、ワクワクしながら新茶を待ちましょう。

全国津々浦々のの生産地の新茶を飲み比べるのも楽しいですよ。

取材協力:薮崎園 薮崎正幸さま  岩崎恭三商店 岩崎麻須美さま

日本茶インストラクター

【お茶の世界の扉を開く日本茶ナビゲーター】 日本茶専門店で7年勤務、茶道歴25年の経験を活かし、大手百貨店や外国の大学等でのワークショップで国内外2,000名以上の方に日本茶の魅力を伝える。美味しい日本茶とそれにまつわる伝統工芸品を後世にも繋いでいきたい、日本茶への愛と想いで日本茶情報を発信中。日本茶の商品開発やカフェ・飲食店での日本茶コーディネートや淹れ方指導。NPO法人日本茶インストラクター協会認定日本茶インストラクター(2004年取得)。

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