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ホンモノの「抹茶」とは?宇治の老舗の挑戦!究極の抹茶体験プロジェクト【ALL FOR ONE】に注目

日本茶ナビゲーター Tomoko日本茶インストラクター

「こ、これは!!ぜひとも申し込まなければ!」

と日本茶マニア、抹茶スイーツマニアなら思ったであろうプロジェクトを知ったのは、宇治でもトップクラスの碾茶(抹茶の原料)を生産する茶匠「辻喜」さんのSNS投稿がきっかけでした。

辻喜さんの原料もその抹茶に含まれ、日本を代表するパティシエによる究極の抹茶スイーツと抹茶のセットなのだとか。

内閣総理大臣賞など国内外で数多くの受賞歴のある生産者である辻喜さん。それは期待大!とクラウドファンディングのサイトをのぞいてみました。

まず最初に目に飛び込んできた究極の抹茶スイーツ。「美味しそう!!」と食べてみたくなり、軽い気持ちで参加したプロジェクト【ALL FOR ONE】

抹茶の、再発見」と題した、茶師、茶生産農家、クリエイターが三位一体で進める、宇治の老舗製茶問屋山政小山園が立ち上げたプロジェクトです。

プロジェクトが進行する中でその奥にあるコンセプトを知るにつれ、抹茶に対する想いがますます深まり、リターンをいただいた後も、支援させていただいてよかった!この想いを沢山の人に知ってほしい!と思い、今回記事にしました。

※既にクラウドファンディングは終了していますが、今後もプロジェクトは続くそうです。

あなたは「ホンモノの抹茶」を知っていますか?

「ホンモノの抹茶?抹茶は全部抹茶でしょ!」と思われるかもしれません。

ALL FOR ONEプロジェクトの抹茶「ONE」。日本で生産される抹茶の0.03%と希少な原料を使った抹茶。
ALL FOR ONEプロジェクトの抹茶「ONE」。日本で生産される抹茶の0.03%と希少な原料を使った抹茶。

茶道に親しんだ人にはお稽古やお茶会で使っている抹茶はなじみ深く、師である先生がいつも使っているお茶銘(銘柄)などを買い求めたりもすると思います。

しかし、それ以外の人からするとややわかりにくい世界でもあります。

前回の記事で「抹茶の選び方」について書いてありますのでご参考に)

今でこそ、外国でも抹茶が受け入れられ `matcha’ として飲まれるようになってきていますが、以前は、外国人の方が日本のスーパーなどに並んでいる「粉末茶」を抹茶と間違えて購入して「全然泡が立たなくておいしくない」と相談されたり、「正しい抹茶の買い方」を外国の方に説明するのは大変でした(デパートや日本茶専門店に行けば問題ないのですが)。

その際、私は外国の方には「粉末状の茶」をこのように分類して説明していました。

  1. 粉末状のインスタント茶・・・水にすぐ溶けるタイプ。一度茶液を乾燥させビタミンCやデキストリンを加えて加工したもの。スティック状やスタンド型のパッケージが多い。
  2. 粉末茶・・・煎茶など抹茶の原料以外の茶葉を丸ごと粉末にしたもの。ややくすんだ緑色。お湯や水に入れて混ぜるがしばらくすると淀む。回転寿司でよく見かける。
  3. 製菓用の抹茶・・・製菓材料コーナーにあり製菓用材料のメーカーによるものが多い。廉価な粉末茶または抹茶にクロレラなど色をよくするものが添加されていることもある。
  4. 低価格の抹茶・・・抹茶のメーカーが「製菓用」として業務用パッケージで販売しているものが多い。
  5. ホンモノの抹茶・・・茶道のお稽古やお茶会などで使用しても遜色ないレベルの抹茶。

これに加え、昔ながらのスタイルのお寿司屋さんで「あがり」として淹れられている「粉茶(こなちゃ)」まであるのですから、文字も似ていてわかりにくいですよね・・・。

もし1~4を抹茶と間違えて買ってしまった場合、どんなに頑張って点てても、色や泡立ちが悪かったり抹茶本来の味わいが感じられなかったりします。

それは原料がホンモノの抹茶とは全く違うためです。

「抹茶」の定義とは?

海外の抹茶ラテや抹茶スイーツの写真を見ると、時々、あれ?と思うものがあります。

抹茶の色ではないくすんだ色のものが使われていたりするのです。

日本の抹茶なのか?粉末茶なのか?

はたまた、オーガニックの抹茶なのか?(オーガニックの抹茶は色の鮮やかさでは劣る場合があります)

外国製の粉末状のお茶なのか?それすらもわからない・・・。

最近は海外の方のSNSでもそのような写真は少なくなった気もしますが、ホンモノの抹茶を知らずにこの「抹茶と呼ばれているけれど異なるもの」を抹茶だと思って使っているのだとしたら、味も香りも違うだろうし、なんとも気の毒だなと感じます。

それを使い抹茶を飲んだりスイーツにしたりして「あまり美味しくない」と思われるのも心外で、抹茶好きとしてはとても悲しいです。

このようなことを受け、日本でも本来「抹茶」とされていたものの定義をもう一度見直そうという動きも見られます。

江戸時代から300年以上続く宇治の老舗茶問屋「山政小山園」のホームページにも「抹茶の定義」についての要約が書かれてありました。

公益社団法人日本茶業中央会によると「覆下栽培した茶葉を揉まずに乾燥した茶葉(碾茶)を茶臼で挽いて微粉状に製造したもの」とされています。しかしながら、抹茶の明確な定義はなく、業界団体が自主的に定めるに留まります。世界的な抹茶需要や、おおよそ抹茶とは呼べない粗悪なものが流通する実態をふまえ、国際標準化機構(ISO)において、抹茶の定義が検討中であり、日本茶業中央会においてもその定義の改訂が検討されています。

こちらは寒冷紗で覆われた「覆下栽培」の茶園の例。新芽の色が濃く鮮やかな緑色。(写真:京都和束の細井農園の細井様ご提供)
こちらは寒冷紗で覆われた「覆下栽培」の茶園の例。新芽の色が濃く鮮やかな緑色。(写真:京都和束の細井農園の細井様ご提供)

「覆下(おおいした)栽培」というのは、藁(わら)や寒冷紗(かんれいしゃ)と呼ばれるもので茶園ごと覆い日陰を作った中で摘み取る栽培方法です。

日陰を作ることにより葉にはうま味や甘味が保たれ、また、鮮やかでツヤのある緑色になります。その葉を手で摘んだものが抹茶や玉露の原料となります。

そして、その生の葉をを蒸した後、揉まずに乾燥させ、葉脈など繊維を取り除いたものが「碾茶(てんちゃ)」です。

宇治の「碾茶(てんちゃ)」。見た目はちょっと大きめの青のりのようです。玉露の葉のような甘い香りがします。
宇治の「碾茶(てんちゃ)」。見た目はちょっと大きめの青のりのようです。玉露の葉のような甘い香りがします。

そして、「碾茶」を石でできた「茶臼(ちゃうす)」で挽くと、抹茶になります。

宇治の抹茶。美しい黄緑色。
宇治の抹茶。美しい黄緑色。

今は機械化が進み工場で碾茶が挽かれ抹茶が生産されていますが、オートメーション化された今も挽く部分は石でできています。金属と比較すると、石は摩擦で熱が発生しにくく、熱による抹茶の劣化が防げると言われています。

このように、現在もも手間暇かけて作られているホンモノの抹茶。

このような真の抹茶が抹茶 'matcha' として世界で広く認識される日が来ることを祈ります。

日本からホンモノの抹茶を発信!

では、日本では、ホンモノの抹茶は飲まれているのでしょうか?

ALL FOR ONEプロジェクトでは、国内で生産される抹茶の0.03%である希少な抹茶を一流パティシエによるスイーツにも使いつつ、抹茶そのものを味わうための抹茶「ONE」もセットに入っています。

初めての方でも点てられるよう、奈良の職人によるオリジナルの高山茶筅と、抹茶の点て方リーフレットもリターン(返礼品)に含まれています。

ALL FOR ONEの抹茶とオリジナルのグリーンの紐の高山茶筅
ALL FOR ONEの抹茶とオリジナルのグリーンの紐の高山茶筅

そして「おまけ」として、平均的な単価の原料で作られた「TWO」も飲み比べ用に付いていました。

早速開封し、抹茶を茶こしで濾しつつ色を確認。

左が抹茶の平均的な価格の「TWO」。右が0.03%という希少な抹茶「ONE」
左が抹茶の平均的な価格の「TWO」。右が0.03%という希少な抹茶「ONE」

粉末の状態で比べても、明らかに、色と香りが違います。

右のONEはいつも使う上級の抹茶に近い色と香り。粉もしっとりしていてツヤがあります。

左のTWOは色はややくすんだ緑で「粉茶」に近いような見た目。粉がパサパサとしているため濾しても重さがありません。

左のTWOはくすんだ緑。右のONEは鮮やかな緑。一目瞭然です。
左のTWOはくすんだ緑。右のONEは鮮やかな緑。一目瞭然です。

実際に点てても、色の違いは一目瞭然。

右のONEは鮮やかな緑色で、点てているとふわっと甘い抹茶の香りが漂い癒されます。

口に含むと「そうそうこれこれ」という美味しい抹茶の味。自然に笑顔になります。

一方、左のTWOは、泡は立つものの、甘い香りというより苦みのあるような硬い香りです。

恐る恐る口にすると、やはり予想通り「粉茶」に近い味・・・。私のイメージする抹茶ではありません。

これが、平均的な単価の抹茶なのか、と衝撃でした。

このプロジェクトのクラウドファンディング参加者へは、リターンの送付前に山政小山園の取締役である小山雅由氏よりメッセージが送られています。

「裏話」として、書かれていたこの部分。これこそが、このプロジェクトの想い、神髄なのです。

実はこの「AFO two」のもとになっている、てん茶荒茶の平均単価、約30年で半額くらいになっています。
製菓(食品加工)用途のニーズが高まり、低価格で品質の低い製菓専用の抹茶が多く作られるようになったことが背景にあります。
その結果、(平均的に)皆様が出会う抹茶は、30年前と今とではまったく違うものになってしまいました。30年前の平均単価¥4,981/kgくらいの原料を仕上げると、当社では飲用グレード相当となります。
しかし、現在の平均単価¥2,498/kgの原料ですと、そのまま点てて飲むには苦くて渋い、製菓用に向くグレードの抹茶になってしまいます。
現在世の中に流通し、皆様が出会える抹茶はざっくり平均すると、もはや「本来の点てて飲める抹茶の味わい」ではないかもしれない。乱暴ですが、そのように言えます。
我々ALL FOR ONEは、「抹茶の再発見」がテーマです。本当の抹茶の味わいと改めて出会って欲しい。これは、そんな背景から生まれたのでした。

広く流通する抹茶の品質への危機感からの発信、プロジェクトだったのですね。

「(抹茶スイーツ)美味しそう!」と飛びついた私はちょっと恥ずかしくなりましたが、こちらのメッセージを読んで、改めのこのプロジェクトに賛同してよかった、そしてさらにそれを沢山の人に広めていきたいと思いました。

また、山政小山園ではこのような信念をお持ちだということにも共感します。

外販営業担当や小売販売をせず、極力販売を特約店に任せることで、多くの経費を原料費に投資しています。
それにより同販売価格における茶原価を高め、高い品質の茶をつくることを信条にしています。
抹茶は加工がシンプルであり、原価のほとんどが原料代のため原料代に投資する=抹茶の品質に直結するがゆえの経営方針です。

私たちが日々、美味しい抹茶が飲めるのも、企業努力のおかげでもあるのですね。

日本茶、抹茶も私たちの身近にあり、身近すぎるゆえに意外と知られていないことが多いと感じます。

まずは気軽に親しんでいただき、そこから興味を広げてもらえるような工夫が必要です。

何気なく手にする抹茶のパッケージ。その奥には、メーカーや生産者さん沢山の方々の想いが込められているのだと、今一度考えつつ、一碗の抹茶を美味しくいただきたいと思います。

海外へもホンモノの抹茶を

特に近年抹茶の輸出が伸びているということで、小山さまに海外への抹茶の展開についても伺いました。

全世界的に抹茶の人気は高まっています。しかし本来の抹茶といえる品質でないことが多く、美味い抹茶の啓蒙は様々な形を通して我々がリードしていくべきだと考えています。
ALL FOR ONEのように、本来の味わいが堪能できる上級抹茶を使用し、美味しいスイーツをきっかけに美味しい抹茶も一緒に味わっていただくようなプロジェクトを通して、海外にその楽しみ方が着地したプロジェクトや商品によって、存在感を広げていけたらと思っています。
ですので、ALL FOR ONEではスイーツにおいては、抹茶の味わいをそのままに感じることができ、海外にも輸出可能な「冷凍生菓子」であることを条件に、開発しています。

スイーツが冷凍であることにも理由があったのですね(自宅に届き解凍してゆっくりいただきました)。

宇治市出身でもあるTOSHI YOROIZUKAの鎧塚氏による「至高の抹茶テリーヌ」。抹茶のふくよかな香り、うま味や甘味のバランスの中に和栗のペーストがふんわりと溶ける。これぞ絶品!
宇治市出身でもあるTOSHI YOROIZUKAの鎧塚氏による「至高の抹茶テリーヌ」。抹茶のふくよかな香り、うま味や甘味のバランスの中に和栗のペーストがふんわりと溶ける。これぞ絶品!

今後は海外に向けても上級な抹茶スイーツをきっかけに、ホンモノの抹茶そのものに注目してもらう、そういうコンセプトなのですね。海外でもこのようなスイーツが食べられる日も近いかもしれません。

コロナ禍以前、タイからの学生さんや先生方に抹茶と冷茶のワークショップを開催したことがあります。

既に抹茶はタイでも大人気。お土産はスーパーなどで大袋入りの抹茶菓子を買う人が多いと聞いていました。

そういう味に慣れている人にはホンモノの抹茶菓子はどう映るのだろう?と少し不安に思いながら、私の好きな宇治のお茶屋さんの抹茶菓子をご紹介したところ、「スーパーで買えるものではなくこういう品質の良い抹茶菓子をお土産に買いたい!どこで買えるの?」と聞かれ、都内で購入できるお店をお伝えしました。

香料や色素を加え抹茶らしく見せたお菓子より、ホンモノの抹茶が使われているお菓子が喜ばれ、選ばれる。一度食べればわかる。そういうことなのだと感じました。

伝統と誇りと広がりと

宇治の抹茶の歴史は古く、鎌倉時代には茶の栽培が始まっていたと伝えられています。

その後江戸時代までは、天皇家や将軍家などに献上され、ほんの一部の人しか味わえなかった貴重な抹茶。

しかし今では美味しい抹茶が手軽に手に入れられます。抹茶スイーツも豊富です。

現代に生まれてよかった!美味しい抹茶が飲める世でよかった!と思います。

日本茶と抹茶の未来は明るい

コロナ禍で2020年度の日本茶の茶葉の平均単価はかなり落ち、これまでも斜陽産業であった日本茶はさらに危機にあると言われています。

実際に生産者さん、茶商さんなど茶業に関わる方からもいろいろお話を伺い、このままでは今後美味しい品質の良い日本茶が飲めなくなるのでは、と思ったほどです。

私がSNSで発信したりこのような記事を書いているのもその想いと危機感からなのですが、ただただ危機感を募らせていてもしかたがありません。

「日本茶って楽しいよ!」「こんなにいろいろな魅力があるんだよ!」と(勝手なお節介で)PRすることで、少しでも興味を持ってくれる人が増えたらと思い発信を続けています。

SNSで繋がる生産者さんたち、農業大学に通う次の茶業を担う若い方々、茶道に親しむ方々、日本茶インストラクター・アドバイザーの仲間たち、日本茶ファンの方々も、積極的に日本茶の楽しみ方や魅力を伝えていらっしゃいます。

ぜひ、SNSでも「日本茶」や「抹茶」を検索してみてください。

「matcha」や「matchalover」と検索すると、海外の抹茶ファンの方々が抹茶を楽しむ素敵な投稿も沢山見られますよ。

その発想はなかった!これ美味しそう!と気付かされることもあるかもしれません。

沢山の方と楽しく美味しく「再発見」できたら、もっともっと日本茶の輪が広がりそうです。

取材協力:山政小山園 小山雅由さま

参考:ALL FOR ONEプロジェクトホームページ

日本茶インストラクター

【お茶の世界の扉を開く日本茶ナビゲーター】 日本茶専門店で7年勤務、茶道歴25年の経験を活かし、大手百貨店や外国の大学等でのワークショップで国内外2,000名以上の方に日本茶の魅力を伝える。美味しい日本茶とそれにまつわる伝統工芸品を後世にも繋いでいきたい、日本茶への愛と想いで日本茶情報を発信中。日本茶の商品開発やカフェ・飲食店での日本茶コーディネートや淹れ方指導。NPO法人日本茶インストラクター協会認定日本茶インストラクター(2004年取得)。

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