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【ネタバレ有り】映画『THE FIRST SLAM DUNK』レビュー「涙でスクリーンが見えない…」

新美友那アニメライター/取材・編集/ディレクション

2022年12月3日(土)、映画『THE FIRST SLAM DUNK』が公開されました。原作マンガ『SLAM DUNK(スラムダンク)』の国内におけるシリーズ累計発行部数は、2017年時点で1億7000万部以上。いまなお愛される、大人気作品です。

その人気ゆえに、本作は公開前からさまざまな議論を呼びました。声優陣の交代や3DCGの活用など、「原作からかけ離れた作品になるのでは」と、不安に思っていた方もいるのではないでしょうか。

しかし、見に行ったら相当よかったです。映画は普段1回しか見ない私ですが、いつ2回目を見に行こうか、わくわくしているほどです。3DCGへの拒否感や前評判の悪さで見に行かないのはもったいなさすぎるので、思わず記事を書くことにしました。

この記事では、夏休みにアニメ『スラムダンク』の再放送を見ていた昭和世代の筆者が、本作の概要や感想をレビューします。特に、以下に当てはまる方はぜひお読みください。

  • 映画を見たものの、感想を言い合える場がなくてもどかしい方(コメントもぜひ!)
  • 映画は見ておらず、内容を知ってから見に行くか判断したい方
  • 映画は見に行かないが、内容は把握しておきたい方

注:以下、映画『THE FIRST SLAM DUNK』に関する重大なネタバレが含まれます。ネタバレを回避したい方は、読まないようご注意くださいませ。

事前情報(スタッフ・キャストほか)

まず、事前に公開されていた情報は、スタッフやキャストなどのシンプルな情報のみでした。肝心のあらすじはほとんど明かされず、「どの試合が映画化されるのか?」「それともオリジナルストーリーなのか?」と、さまざまな憶測が飛び交いました。

スタッフ

原作・脚本・監督:井上雄彦(原作者)
演出:宮原直樹・大橋聡雄・元田康弘・菅沼芙実彦・鎌谷 悠・北田勝彦
CGディレクター:中沢大樹
その他多数

その他、キャラクターデザインと作画監督も、原作者の井上雄彦さんが務めています。アニメ映画の中でも、原作者がかなり深く関わった作品といえそうです。

※引用:#STAFF(映画『THE FIRST SLAM DUNK』公式HP)

キャスト

宮城リョータ:仲村宗悟
三井 寿:笠間 淳
流川 楓:神尾晋一郎
桜木花道:木村 昴
赤木剛憲:三宅健太

※引用:#CHARACTER(映画『THE FIRST SLAM DUNK』公式HP)

本作では、アニメ版から声優陣を一新。公開約1か月前に新声優が発表され、賛否両論があったものの、彼らも相当のプレッシャーを抱えながら収録に臨んでいたようです。声優陣の収録秘話が聞ける特別番組も、YouTubeにUPされています。

予告映像

さまざまなPVやCMが公開されましたが、「原作のどこを映画化するのか」といった物語の核心に触れる情報は、ほぼ開示されませんでした。

例えば、この予告映像で描かれたのは、

  • 屋外のバスケットコートで1on1をする少年2人
  • 流木に座り、海の前でひとりたたずむ女性
  • 試合中の湘北メンバー5人(桜木・流川・三井・宮城・赤木)

という、断片的な情報のみ。映画への期待を高める方もいる一方で、3DCGによる作画に、ネット上では不安の声もちらほら見受けられました。

映画本編のあらすじ・ポイント(※ネタバレ有り)

主人公は宮城リョータ

映画『THE FIRST SLAM DUNK』公式HPより
映画『THE FIRST SLAM DUNK』公式HPより

本作の主人公は、湘北の「切り込み隊長」、宮城リョータでした。特に序盤では、リョータの幼少期が描かれます。予告映像の「屋外のバスケットコートで1on1をする少年2人」は、リョータとその兄・ソータです。

そしてある日突然、兄・ソータは海難事故で帰らぬ人に。リョータは、最後に兄・ソータにかけた言葉が「もう帰ってくるな!!」だったことを気に病み、心を閉ざしてしまいます。そして、バスケに打ち込むようになるのです。

このエピソードは、1998年に『週刊少年ジャンプ』に掲載された読み切り短編『ピアス』(書籍未収録)の内容が、元になっていると思われます。

内容は山王戦

映画化された試合は、原作ファンからの人気も高い山王戦でした。赤木率いる湘北高等学校は、優勝常連校の王者・山王工業高校と、インターハイ第2回戦で劇的な試合を繰り広げます。しかし、このエピソードはアニメ化されていません。そういう意味でも、ファン待望の映像化といえるのではないでしょうか。

ただ、「この試合がどういう試合か」については、あまり事前説明がありません(セリフや背景の看板で「インターハイだ」と分かる程度)。インターハイの第2回戦で王者・山王と当たってしまったこと、山王の強さがどれだけ恐るべきことかなどは、初見では分かりにくくなっています。

『スラムダンク』をあまり知らない方は、原作を読んでから映画を見た方が楽しめるかもしれません。

展開は試合と回想が交互に進行

リョータの幼少期から始まる本作は、山王戦と各キャラクターの回想を、交互に挟む形で進みます。今回の主人公であるリョータの回想が多めになっているものの、他の湘北メンバーや山王のエース・沢北の回想も。山王戦に向けた、さまざまなキャラの心情を感じ取ることができます(一部、心理描写がほぼないキャラもいますが)。

ただし、その構成で山王戦を2時間にまとめたためか、山王戦前半はかなりカットされています。花道の「大好きです 今度は嘘じゃないっす」や、三井の「俺は三井 諦めの悪い男…」という名ゼリフもなし。

原作ファンにとっては残念な構成かもしれませんが、その分、後半の息をのむ展開が丁寧に描かれています。

感想

作画は「井上先生のあの絵」

映画『THE FIRST SLAM DUNK』チケット予約特設サイトより
映画『THE FIRST SLAM DUNK』チケット予約特設サイトより

井上先生が作画監督をしていることもあり、作画はかなり原作に近いものになっていました。直線的な眉毛や筋肉の書き込みなど、リアルな作風の変化や崩壊は特に見られませんでした。

それもそのはず、井上先生は相当数のカットに、自らレタッチを入れられたのだそう(※)。作画に関しては、「原作ファンでも安心して見られる再現度の高さだ」と感じました。

※参照:映画で、もう一度『SLAM DUNK』に出会う(映画『THE FIRST SLAM DUNK』公式HP)

試合シーンの臨場感が異常

3DCGの活用により、試合シーンはかなり臨場感あふれるものになっていました。本作では、全プレイヤーの動きをモーションキャプチャーで収録。その収録期間は約1か月にわたり、動きには専門家の分析が生かされているそうです(※)。

プレイ中に相手の選手を押したり、ウエアを微妙にひっぱったり、といったバスケ特有の動きも、その質感とともにリアルに再現されていました。

また、バスケットシューズの「キュッキュッ」という音やドリブルの「ダンダン」という音、シュートが決まった時の「パスッ」という音など、効果音も心地よいものばかり。

展開の早い山王戦は、カウントダウンするシーンが随所に挟まれており、まるで晴子たちと一緒に会場で試合を見ているようでした。特に終盤、一切の音がなくなるとあるシーンは、必見です。

※参照:演出とリアリティの間でCGを生かす(映画『THE FIRST SLAM DUNK』公式HP)

名ゼリフのオンパレード

「あきらめたらそこで試合終了ですよ…?」
「この音が……オレを蘇らせる 何度でもよ」
「ヤマオーはオレが倒す!! by 天才・桜木!!」

などの名ゼリフが、たくさん聞ける本作。山王戦の名ゼリフ1つや2つではないので、その度に熱い盛り上がりを感じられることでしょう。CMにあった「1・2・3、勝ーつ!!」も、作品中で聞くと熱さが段違いです。

「震える手」に現れるリョータの繊細さ

各キャラの心理描写で特に印象的だったのが、リョータの手の描写です。バスケ部に入る前の三井に呼び出されたとき、リョータはその恐ろしさに、震える手をポケットに入れます。そしてその後、「震える手をポケットに入れる」という描写が、繰り返し出てくるのです。

次にこの描写が出てくるのは、山王戦の直前です。夜にランニングをしていたリョータは彩子とばったり会い、山王戦を前につい不安を漏らします。しかし、「そんな風には見えない」と言う彩子の前で、リョータはポケットに震える手を隠すのです。「想いを寄せる彩子にかっこ悪いところを見せたくない」という、リョータの精一杯の強がりがうかがえます。

そして終盤では、山王戦後に海で母とぎこちない会話をしながら、ここでも手をポケットに。兄の一件で、それまでどこかわだかまりが残っていた母と、正面から向き合う照れくささが伝わってくるシーンです。

テンポは終盤、やや遅め

試合・回想・試合・回想…と試合の間に回想が挟まるため、山王戦終盤で回想が挟まったときは「いいところだったのに…!!」と思うことも。

ただ、一つひとつの回想が長すぎてもダレてしまうので、回想が終盤にも挟まるのは、構成上仕方のないことかもしれません。試合も各キャラの心理描写も捨てず、2時間にまとめられているのは素晴らしいと感じました。

その他、書ききれなかった個人的感想

映画『THE FIRST SLAM DUNK』CM15秒 【2022.12.3 公開】より
映画『THE FIRST SLAM DUNK』CM15秒 【2022.12.3 公開】より

正直、一度見ただけでも数えきれないほど「語りたいポイント」が出てきます。映画鑑賞後、ファミレスにて3時間ぶっ続けで書いた結果、「すべてを項目立てて書くのは無理だ」と悟りましたので、以下箇条書きで失礼いたします。

  • カメラワークがプロの試合さながら。カメラがめちゃくちゃ動くので、臨場感がすごい。
  • 「原作読んできたよね?」といわんばかりの説明の少なさ。でも大体の設定を知っていれば問題なし。
  • 12月3日公開は、リョータの「1・2・3、勝ーつ!!」に引っ掛けたもの?
  • 初日の朝9時台にメイクもせず見に行ったものの、正解だった。なぜなら、涙でドロドロになるから…。
  • むしろ、見終わった後にマンガ喫茶に駆け込めるよう、ジャージが真の正解だったのでは。
  • 「あと〇秒」の演出がすごすぎる。スピード感が尋常ではなく、手に汗握るとはこのこと。息も止まる。
  • リョータの赤いリストバンドを見るたびに泣ける。
  • ユニフォームがめちゃくちゃ動く。ユニフォームの中で体が泳ぐ感じがリアル。
  • 山王メンバーにディフェンスされたときの、圧迫感がすごい。これは3DCGならでは。
  • 安西先生の「あごタプタプ」も3DCGで再現(かわいい)。これもぜひ劇場で。
  • エンディングテーマ『第ゼロ感』が、歌詞含めて素晴らしい。毎日聞くようになってしまった。
  • 『第ゼロ感』は、ドラムがドリブル音に聞こえる。劇中で流れるタイミングもばっちり。
  • 沢北が最後アメリカで、リョータと同じ「床を両手でたたく」ジェスチャーをするのがまたよい…。
  • リョータのアメリカ行きは、「スラムダンク奨学金」の控えめなPRでは。
  • そしてアメリカのシーンは、井上先生から現役世代への「夢を追え」というエールのように思えた。

この迫力、配信で見たら後悔するかも

TOHOシネマズ 渋谷にて撮影
TOHOシネマズ 渋谷にて撮影

ネット上の感想を読む限りでは、その評価がかなりはっきりと分かれた本作。しかし個人的には「とにかく見てほしい。映画館で」という一言に尽きます。

まるで山王戦を体育館で見ているかのような臨場感は、ぜひ大きなスクリーンで味わっていただきたい素晴らしさでした。特に後半は、知らず知らずのうちに手に力が入り、シュートの度に息が止まったほどです。

公開初日の朝9時台に見たにもかかわらず、正午頃にはグッズもすでに大半が完売(TOHOシネマズ 池袋の場合)。映画の出来が素晴らしかったことがうかがえました。なお、公開5日目の7日(水)には、ほとんどのグッズが売り切れ、コーナー自体がなくなっていたほどです。

鑑賞の際は、ぜひ多めのポケットティッシュに飲み物を用意し、事前のお手洗いも忘れずに(途中で席を立つ方もちらほら…)。特に、リョータの幼少期から何度も泣かされたため、ポケットティッシュは1つでは足りませんでした。あまりに熱い展開と迫力が忘れられないので、近日中にもう一度見に行きたいと思います。

なお、タイトルの「THE FIRST」の意味も気になるところです。本作は実は第1作目で、湘北メンバーが順番に主人公となり、「THE FIFTH」まで制作されるのでは?という説も。配信されてから「THE FIRSTを映画館で見ておけば…!」と後悔しないよう、気になる方はぜひご覧ください。ネタバレ記事ですので、本作をすでに見た方は、ぜひ記事右下からご意見・ご感想をお待ちしております。

<関連情報>

映画『THE FIRST SLAM DUNK』公式HP
映画『THE FIRST SLAM DUNK』チケット予約特設サイト

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アニメライター/取材・編集/ディレクション

アニメが大好きな30代ライターです。Yahoo!ニュースエンタメカテゴリにて、過去5回アクセスランキング1位を獲得。法政大学卒業後、都内某市役所で5年勤務し、2017年7月からライターとして独立。取材・編集・ディレクションなどを行っています。過去の実績は下記ブログをご覧くださいませ。

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