ショートフィルム

感染の恐怖「それでもやめない」ホームレスの命つなぐ無料食堂 必死の抵抗

小田学

テレビディレクター、プロデューサー

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 「住む場所も食べるものもない。」そんな危機に瀕した路上生活者を温かく迎え入れるのが札幌にある無料食堂だ。この食堂では、毎週金曜日にホームレスや年金生活者など生活貧困者を中心に昼ごはんを無料で提供している。しかし、北海道で新型コロナウイルスの感染が拡大した2月、食堂は窮地に立たされていた。ただ食事をするだけではない、利用者たちの”憩いの場”だった食堂は感染拡大を防ぐために閉鎖に追い込まれることとなる。それでも「憩いの場」をなんとか維持しようと奮闘したのは、牧師の稲生義裕(69)とボランティアスタッフたち。食堂の閉鎖後も弁当を作り、なんとか食事の提供を続け利用者を励ましてきた。感染リスクと隣り合わせの作業に葛藤しながらも、弁当を配り続ける牧師たちの闘いに追った。

~食べるだけではない…ホームレスたちの”憩いの場”~

 札幌市豊平区の札幌豊平教会は、2016年6月から「朝ごはん食堂」を月に1回スタート。その活動を広げる形で2017年4月から毎週金曜に無料食堂を始め、これまで年末年始も休まず続けてきた。来訪者は中高年が多く、ホームレスが約3割、残りが年金生活の人、生活保護を受けている人で、毎週35人前後が利用。単身者で孤独な男性が多い。年間の運営費用は約60万円で、すべてが寄付によるものだが運営はいつもギリギリの状況。教会員や一般のボランティアスタッフ、東京や札幌市内のフードバンクがこの活動を支えている。

 稲生牧師は「料理を作る側と食べる側が分かれる“食堂”ではなく、むしろ“食事会”という形で、同じテーブルを囲んで一緒に食べる。初めての出会いもあるのでぎこちなかったり、言葉も少なかったりするわけですけれども、それでもいいんです」と話す。自身も子どもに食事をさせるのに苦労し、長年、生計を立てるためタクシーの運転手や土木作業員などの仕事をしながら牧師を続けてきた。その経験から、ひもじい思いをしている人たちの気持ちが身近にわかる。空腹の人たちには“その日その時に食事があること”が大切なことなのだという。

 その無料食堂が、2020年2月、新型コロナウイルスの影響で閉鎖せざるを得なくなった。その後の闘いは映像を見てほしい。

~食堂のルーツは夏休みの子どもたち~

 豊平教会では1975年から夏休みに子どもたちを集め、「宿題を一緒にやろう」という取り組みを始めた。その昼休みに食事を提供するようになったことが無料食堂のルーツだ。あえて「子ども食堂」という言葉は使わなかった。「貧困家庭の子どもたちが食べさせてもらう場所」という認識が一般的だったためだ。
 貧しい家庭の子どもたちも、そうでない子どもたちも一緒に勉強をして昼食をとる。”「食べさせる」のではない。食事を通じて”共に生きる”ことに、この頃からこだわっていた。

 その後2016年から朝ごはんを提供する無料食堂を開始すると、高齢の利用者が目立つようになった。近所の人たちもいたが、その多くはホームレスだった。ことに厳冬の北海道では、路上生活者は寝床を持たず夜通し歩いたり、暖かい場所を渡り歩いたりして寒い冬をやり過ごす。稲生牧師は「朝、暖かい場所がある、ご飯がある、味噌汁がある、っていうのは魅力的だったと思う」と話す。「彼らの休憩場所になるというか。心が落ち着く場所で朝ごはんを提供することを目指しました」。そして2017年4月、金曜日に昼ごはんを提供する現在の無料食堂へと発展していった。

~外国人留学生の姿も~

 コロナ禍で、無料食堂が弁当に切り替わってからも新参の人が5、6人増えた。「建築関係の仕事をしていたが新型コロナの影響で仕事を失い、解雇された」という男性は住宅も失い知り合いの家に身を寄せているという。「この弁当は本当に助かっている。これがなければ俺はアウトだった」と話す。支援はそれだけに留まらず、コロナ禍でバイトを失った外国人留学生に弁当を提供する取り組みも新たに始まった。他の教会も協力し、留学生が集まるアパートに弁当を届けているという。

~編集後記~

 「自分が頑張れば、貧乏にならない」という自己責任論は、新型コロナウイルスでの感染拡大に伴う休業要請などが追い討ちをかけ、通用しない世の中になっているように思う。私と同年代でリストラ、失業を余儀なくされ、路頭に迷う彼らに接していると、彼らが口をそろえて話す「まさか自分がホームレスになるとは」という言葉が、決して他人事には思えなくなる。と同時に、今、できることは何だろう?と自問する。

クレジット

プロデュース・構成・取材  小田学
撮影・編集  長谷博康
協力 札幌豊平教会 北海道の労働と福祉を考える会

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